ドクメンタの「反ユダヤ主義的」作品撤去の騒動に、政治家が動き出す
ドイツのカッセルで開催されている国際的芸術祭、ドクメンタ15で、反ユダヤ的と批判された画像が含まれる作品が撤去された。この騒動をきっかけに、ドイツの政治家たちの間でドクメンタに対する管理強化を求める声が高まっている。
6月下旬、ドクメンタはインドネシアのアートコレクティブ(集団)、タリンパディの作品を覆い隠し、その後撤去した。イスラエルの諜報機関モサドの工作員やユダヤ人を風刺するような絵が含まれた巨大な作品は、公開されるや否や、ソーシャルメディア上やドイツの文化大臣クラウディア・ロートなどの政治家から批判されていた。
このことをきっかけに、ロート大臣を含む政治家たちは、ドクメンタの「構造改革」を呼びかけている。
カッセルで5年に1度開催されるこの展覧会について、同大臣は5項目の改革計画をまとめた。その計画では、今回の芸術監督であるインドネシアのアートコレクティブ、ルアンルパに、より明確な説明を求めること、ドクメンタの改革を「今後、連邦政府による資金提供の前提条件」とすること、将来のドクメンタでは、ドイツ・ユダヤ人中央協議会などの連邦組織がより大きな役割を果たすことなどが求められている。
「次のドクメンタを、あらゆる種類の現代アートのための刺激的かつ前衛的な場にすることが目的だ」とロートは述べている。
ロートが掲げた項目のうち、少なくとも1つは既に実現している。ルアンルパなどドクメンタの主催者たち加え、問題の作品を制作したタリンパディも、撤去された作品について詳細な声明を発表した。
ルアンルパを含むキュレーション・チームが6月23日に出した声明では、次のように述べられている。「こうしたステレオタイプな表現が、鑑賞者や、ドクメンタ15の開催のために私たちと共に尽力してきたチームメンバーの間に、失望や恥ずかしさ、苛立ち、裏切られたという気持ち、ショックを引き起こしたことについて謝罪します」
ドクメンタ15公式サイトに掲載された、キュレーションチームによる声明 画像引用元:https://documenta-fifteen.de/en/news/ruangrupa-on-dismantling-peoples-justice-by-taring-padi/
しかし、ルアンルパの謝罪は、改善の具体案を求めるドイツの一部の政治家を納得させるには不十分だった。
ドイツの反ユダヤ主義対策委員会のトップ、フェリックス・クラインも、ロート文化相が挙げたいくつかの項目と似た意見を表明。カッセル市の権限が大きすぎるのが問題だと指摘している。クラインは6月28日にディー・ツァイト紙の取材に対し、「連邦政府の監督なしで、カッセルのような市が単独で運営するのは好ましくない。また、公の場や連邦政府から発せられた警告を無視することは許されない」と語っている。
一方、カッセル市があるヘッセン州のボリス・ライン州首相は、ドクメンタの展示物をより包括的に調査するよう呼びかけている。フランクフルター・ルントシャウ紙にも、「事前にもっと話し合わなかったのは間違いだった」と述べ、ドクメンタに対する連邦政府の権限を強化するよう求めた。
ドクメンタ15は、タリンパディの作品が物議を醸す前にも、別の問題で反ユダヤ主義だと非難されていた。クエスチョン・オブ・ファンディングというパレスチナのグループが参加することに対し、一部のユダヤ人団体が抗議の声を上げていたのだ。
ユダヤ人団体は、クエスチョン・オブ・ファンディングのメンバーには親パレスチナ運動であるBDS(ボイコット、投資の引き揚げ、制裁)の支持者がいるとし、このグループを参加させるのは反ユダヤ主義的だと主張していたが、ドクメンタの運営者とルアンルパは、これを否定。クエスチョン・オブ・ファンディングを参加させることは、反ユダヤ主義とは関係ないとしている。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月28日に掲載されました。元記事はこちら。