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  • 2022.09.22

動く彫刻「モビール」の生みの親、アレクサンダー・カルダーの新展示スペース完成予想図が公開。設計はヘルツォーク&ド・ムーロン

空気の流れでゆらゆら動く「モビール」で有名なアレクサンダー・カルダー。その作品を展示するフィラデルフィアの「The Calder Gardens(カルダー・ガーデン)」が、2024年のオープンに向け、ついに完成予想図を公開した。設計は、日本でもプラダ青山店や銀座のUNIQLO TOKYOで知られるヘルツォーク&ド・ムーロン。

©Herzog & de Meuron/All artworks by Alexander Calder ©2022 Calder Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

カルダー・ガーデンは、フィラデルフィアのベンジャミン・フランクリン・パークウェイの近く、パークウェイ・ガーデンの一部に建設される。ルノワールやセザンヌ、マティスなど、フランスの画家の作品を数多く所蔵するバーンズ・コレクションからも徒歩圏内だ。

同ガーデンには、野外展示も含め、カルダーやモダニスト作家の作品が設置される予定だが、これまでの美術施設とはかなり趣の異なるものになるようだ。カルダー財団の理事長で、アレクサンダー・カルダーの孫にあたるアレクサンダー・S・C・ロウワーは、ARTnewsの電話取材にこう述べた。「我われは美術館を建てるつもりはない。自分の心の中を見つめるための場所を作ろうと考えている」

一方、ヘルツォーク&ド・ムーロンのジャック・ヘルツォークは、「従来の美術館の展示室とは違う、中に入ると世界が次々と広がるような空間が連なる場所になる」とメールで回答している。

カルダーの抽象彫刻やモビールは、展示される場所や方法によって印象が大きく変わるものだ。そうした作品へのオマージュとして構想された展示空間からは、周辺の公園やフィラデルフィアの街並みを望むことができる。つまり、通常のホワイトキューブ(白一色の空間)の展示室では得られない、カルダー作品の新しい見方を来場者に提示することを意図しているのだ。

カルダー・ガーデンの面積は約1700平方メートル。天井高約5メートルの屋内と屋外の両方に、特に大型の作品が展示されることになる。ロウワーによると、展示される作品は美術館やプライベートコレクションから借用し、数年ごとに入れ替える予定。現状では、オープン時の展示作品リストはまだ固まっていないという。

フィラデルフィアにカルダー作品を展示する場ができるという話は、2001年に500万ドル規模の美術館計画が発表されたときにまでさかのぼる。しかし、09年に展示予定だった彫刻は手放され、美術館が実現することはなかった。

その後、2020年にカルダー作品を常設展示するスペースの計画が復活し、テート・モダンや香港のM+をはじめ数多くの有名美術館を手がけている建築ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計者に指名された。プロジェクト予算は7000万ドルとされている。

では、今回発表されたカルダー・ガーデンの完成予想図の一部を紹介しよう。


Photo: ©Herzog & de Meuron/All artworks by Alexander Calder ©2022 Calder Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

「カルダー作品は、建築物が目立つような通常のアプローチではなく、まったく新しい方法で展示されるべきだ。そこで、倉庫のような建物と庭園に囲まれた場所に連続した地下空間を作るという、ありそうでなかったコンセプトを打ち出した」とヘルツォークは語る。


Photo: ©Herzog & de Meuron/All artworks by Alexander Calder ©2022 Calder Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

普通の美術館は、特定のアート作品を展示することを前提としていない場合が多い。しかしカルダー・ガーデンは、カルダー作品のために特別に設計されたものになる。ロウワーは、「カルダーのために作られた空間を使うのは、カルダー作品が語りかけるものを、よりよく伝えるためだ」と語る。


Photo: ©Herzog & de Meuron/All artworks by Alexander Calder ©2022 Calder Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

屋外空間では、天候や時間によって作品の見え方が大きく変化するだろう。


Photo: ©Herzog & de Meuron/All artworks by Alexander Calder ©2022 Calder Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

カルダーは、幼少期の短い間、カルダー・ガーデンの所在地であるフィラデルフィアで過ごした。だが、従来の美術館のように、その経歴をことさら取り上げることはしないという。ロウワーは、「私たちは展覧会を企画するのではなく、純粋にアートと向き合う体験を提供したい」と話す。


Photo : ©Herzog & de Meuron/All artworks by Alexander Calder ©2022 Calder Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

当初、カルダー財団は、ヒューストンにあるロスコ・チャペルのようなアートのための瞑想空間にしたいという意図をヘルツォークに伝えた。すると、ヘルツォークはこう問いかけたという。

「アートは常に、思考したり観察したりすることを促し、刺激する場所を求めているのでは? 知覚や意識が研ぎ澄まされ、生き生きとしてくるような場所を」(翻訳:岩本恵美)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月7日に掲載されました。元記事はこちら

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