ARTnewsJAPAN

マウリツィオ・カテラン、バナナを壁に貼り付けた作品の著作権侵害提訴に再び反論。似た作品の存在は「知らなかった」

2019年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチに出品され、大きな話題になったマウリツィオ・カテランの「バナナを銀色のテープで壁に貼り付けた」作品。奇抜なアイデアだけでなく、会期中に別のアーティストがバナナ食べてしまったことでも世間を騒がせた。さらにソーシャルメディアで広がったのは、この作品が「盗作」ではないかという疑惑だ。

ジョー・モーフォード(左)とマウリツィオ・カテラン(右)の作品比較 Via Southern District of Florida

風刺の効いた作風で知られるイタリア人アーティスト、マウリツィオ・カテランは、バナナを粘着テープで壁に貼り付けた作品《Comedian(コメディアン)》について、別の作家による類似作品の模倣ではないかという疑惑を再度否定した。弁護団は新しい申立書の中で、カテランは元ネタとされる作品の存在さえ知らなかったと主張している。

この作品をめぐる法的争いは、マイアミ在住のアーティスト、ジョー・モーフォードが、自身の作品《Banana & Orange(バナナ&オレンジ)》の著作権を侵害しているとしてカテランを訴えたことから始まった。モーフォードの作品は、オレンジとバナナをそれぞれ粘着テープで壁に貼り付けたもの。彼は2000年にこの作品を米国著作権局に登録し、その画像を自らのウェブサイトや複数のソーシャルメディアに投稿していたという。

この7月、マイアミのフロリダ州南部地区連邦地方裁判所は、カテランを提訴したモーフォードの訴えを妥当と認めた。2019年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチでカテランの《Comedian》を展示したギャラリー、ペロタンはこれに対し、声明で次のように述べている。「私たちがどのように物事に価値を与え、どんな物に価値を見いだすかについて深く考えさせるものだ」

カテランはモーフォードによる申し立ての棄却を求めていたが、裁判所はこれを却下。ロバート・N・スコラJr.判事は、「カテランの《Comedian》が、《Banana & Orange》を構成する(中略)要素にかなり似ていることを、モーフォードが十分な妥当性をもって主張した」と判決文に記している。

これに対し、カテランの弁護団は19項目からなる「積極的抗弁」を記した申立書を作成。カテランのニューヨークの法的代理人に代わってフロリダの法律事務所がこれを提出した。申立書には、カテランが「原告の作品《Banana & Orange》を知らず、また参考にすることもなく、独自に自身の作品《Comedian》を制作した」と記されている。同文書によると、カテランはこの作品のエディション3点とアーティストプルーフ2点を合わせて39万ドル以上で販売したという。

カテランは、著作権侵害だというモーフォードの主張は、「被告(カテラン)が自身の作品《Comedian》を作る前に、原告の作品《Banana & Orange》を見ることができたという点を立証できない」ため、成立しないと主張。また、「《Comedian》の創作と展示の両方、またはどちらか一方に先立って、《Banana & Orange》の著作権登録は行われていない」と、モーフォードの著作権登録にも異議を唱えている。

さらに、カテラン側が提出した文書には「粘着テープという日用品と、オレンジやバナナという自然界の産物」の使用は、米国著作権法が求める「オリジナリティの度合い」を満たしていないとの記述もある。

カテランは、6月に提出した棄却申し立てでも、モーフォード作品の「オリジナリティの度合い」に異議を唱えていた。その主張は、「《Banana & Orange》にしかない構成要素があること、すなわち、オレンジ、緑の背景、マスキングテープの縁取りの存在があるため、(2つの作品に)十分な類似性があるとは言えない」というものだ。

しかし、スコラJr.判事はこれに同意せず、「銀色の粘着テープを使ってバナナを壁に貼り付けるのに最高レベルの創作性はいらないかもしれないが、その不条理で笑いを誘う性質は、オリジナリティのある作品と認めるのに必要な“最低限の創作性”の程度を満たしている」と述べている。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月16日に掲載されました。元記事はこちら

あわせて読みたい