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  • 2022.12.14

ファインアートNFTは死んでいない──暗号資産冬の時代を越えて

NFTを伝統的なアート市場に浸透させるのは、一朝一夕にできることではない。評論家から高い評価を受け、セールス面でも成功したNFTプロジェクトもあるが、大多数はまったく顧みられることなく消えていく運命にあるのが現実だ。市場暴落で「冬の時代」と言われる暗号資産(仮想通貨)とNFTアートの今後は、どうなるのだろうか。

2022年5月のF1マイアミグランプリに合わせて開催されたFTXの無料イベント「オフ・ザ・グリッド」のNFT作成ステーション(フロリダ州マイアミビーチ)。Photo: Jeffrey Greenberg/Universal Images Group via Getty Images

これまでアート界から注目されたNFTプロジェクトには、アーティスト・ライツ・ソサイエティ(*1)のデジタルプラットフォーム「Arsnl」によるフランク・ステラの《Geometries(ジオメトリーズ)》シリーズのNFT化や、アーティストのピーター・ウー(Peter Wu+)が創設したバーチャルアートギャラリー「EPOCH」などがある。


*1 アーティストの著作権やライセンス取得を支援する団体。

これら地に足のついたプロジェクトのおかげで、アート界はファインアートNFTを受け入れ始めていた。そんな矢先に暗号資産業界を激震が襲う。暗号資産の売買や取引を行う大手交換業者、FTXトレーディングの経営破綻だ。

2021年11月、1ビットコインは68,000ドルまで上昇。しかしその後、ビットコインイーサリアムも下落を続け、その価値はピーク時の4分の1までまで落ち込んでいる(12月初旬時点)。特に11月11日のFTX破綻の影響は大きく、「暗号資産のリーマンショック」と表現する人もいる。

こうした状況から私は、ファインアートNFTは終わったのか? とクライアントや友人から聞かれることが多くなった。しかし、エンタメやメディア、アートが専門分野の法律事務所でファインアート&NFT部門の共同責任者を務める私の答えは、「ノー」だ。

暗号資産大暴落の背後にある誤算、あるいはもっと根深い問題を無視することはできない。その一方で、ブロックチェーン技術がアート界に劇的なパラダイムシフトを起こせる革新的なポテンシャルを持つことも忘れてはならない。

NFTは無価値なものに価値を与える魔法ではない

Web3という概念と、その可能性に関する認識が広がっている一方で、ブロックチェーン、仮想通貨、NFT、デジタル資産などの要素が消費者の間で混同されているのも事実だ。特にアートの世界では混乱が大きい。ここで重要なのは、ブロックチェーンやNFTは暗号化技術を用いた一種の機能であって、暗号資産への投機とは異なるということだ。

つまり、NFTをブロックチェーンに登録するためのツールとして暗号化技術を使用することは、実在する価値の正当性を証明する機能だと言える。これは、暗号資産市場の拡大による利益獲得を目的に、無責任な投機によって生み出された人為的な価値とは区別されなければならない。また、NFTはこれまで価値がなかったものに価値を与える魔法でもない。NFTは、言わばデジタル上の空の段ボール箱のようなもので、資産、サービス、体験の入れものになる。

ビットコインなどの暴落で「暗号資産冬の時代」などと言われ、それに畳みかけるようにFTXの破綻が起きたのは、かえってプラスに働くのではないだろうか。これによって、NFTという段ボール箱自体に価値があると過大評価されていたことが明らかになった。しかし、長期的に見れば、真に価値があるのは段ボール箱ではなくそこに入っている物なのだ。

これをファインアートの世界に置き換えると、芸術表現をデジタルの箱に入れるということになる。このことは、デジタル作品のコレクターにも、従来のコレクターにもアピールできるポイントだろう。

インドネシア、ジョグジャカルタのRJカタムシギャラリーでのNFTアート展示(2022年4月13日)。Photo: Devi Rahman/AFP via Getty Images

今、必要なのはNFTベンチャー各々の小さな努力ではなく、信頼に足る標準や規格を作り、業界全体で採用することだ。とはいえ、そうした標準や規格の中には汎用的なものもあるだろうが、画一的な解決策だけだは不十分なことも確かだ。

21年にNFTを中心として起きた暗号資産ブームでは、異なる市場がごちゃ混ぜ状態になっていた。しかし22年には改めて市場間の線引きが行われ、プロジェクトごとの違いが認識されるようになっている。さらに、暗号資産の価値が下がったことで、理性的な判断が戻ってくることも期待される。

ファインアートNFTは始まったばかり?

個人プロジェクトから長期的なビジネス戦略にいたるまで、全てのNFTプロジェクトは、ターゲットとなる消費者によって異なる需要や欲求にピンポイントで訴えかける視点を持つべきだ。多少重なる部分はあるかもしれないが、ゲーミングNFTやコレクターズアイテムを求めるターゲットと、ファインアートや慈善事業に関心があるターゲットは別ものだからだ。

12月初旬に開催されたアート・バーゼル・マイアミ・ビーチでは、数々のデジタルファインアートのプロジェクトが紹介されていた。それを見る限り、アート市場におけるNFTは終わったどころか、むしろ始まったばかりだと言える。

たとえば、気候変動に配慮したNFTマーケットプレイスの1つ、アオリストアート(Aorist.art)の委託で制作された刺激的なプロジェクトに、ニューメディアアーティストのナンシー・ベイカー・ケーヒルと、世界で初めて市民権を得た人型AIロボット、ソフィアとの対話がある。また、イタリア人アーティスト、クェヨラの映像作品《Effets du Soir「夕方の効果」》も興味深い。

さらに、ブロックチェーンプラットフォームの1つ、テゾス(Tezos)とアート・バーゼルの共同プロジェクトもある。これは、クアジモンドとして知られるドイツ人アーティスト、マリオ・クリングマンとともに、来場者がデジタルアートNFTを作成できる試みだ。他にも、ギャラリーブースやサテライトイベントで、数多くのデジタルファインアートのプロジェクトが発表されていた。

未来のデジタルイノベーションの基盤となるか

ファインアートNFTは死んでいない。しかし、現状では投資詐欺や盲目的な投機行為を連想させるものになってしまった「NFT」の意味を再考する必要はあるだろう。ブロックチェーン技術は、作品の真正性証明書としての役割から、利益分配、自動ライセンス認証、さらには美術品の展示や再販に制限を課すことができる点にいたるまで、アート界に劇的なパラダイムシフトをもたらす大きな可能性を秘めている。

投機的な面を抑え、具体的なイノベーションを進め、アーティストの権利を真摯に擁護すれば、NFTは23年の市場拡大を力強く後押しするエンジンになり得るのだ。「赤ちゃんを風呂の水と一緒に捨てないで」ということわざがあるが、それと同じで、価値のあるものまで排除するのは賢明なことではない。

ただし、NFTを持続可能なビジネスとするための基盤となる市場ルールの制定や、より洗練された業界固有のビジネスツール開発に注力することが必要だ。また、歴史的に不透明で不平等なアート市場に透明性、信頼性、公平性をもたらすブロックチェーンの可能性について、アートファンが納得できる理由を提示する努力も重要だろう。

1999年から2000年にかけて起きたインターネットバブルのように、短期間での暗号資産市場の急激な成長は、金融の表面的かつ不健全な一面を象徴している。しかし、インターネットバブルの崩壊は、その後Eコマースが持続可能なビジネスとして発展する道を開くことにもつながった。同様に、確かなビジネス価値を土台とするブロックチェーン企業は、冬の時代を迎えた暗号資産業界を覆う厚く凍った氷からいずれ顔を出し、未来のデジタルイノベーションの確固とした基盤となるはずだ。(翻訳:鈴木篤史)

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