KAWSが語るアンディ・ウォーホル──「ダークなテーマ」と商業的アートの今

アメリカ・ピッツバーグにあるウォーホル美術館で、「KAWS + Warhol」展が開催されている(2025年1月20日まで)。KAWSアンディ・ウォーホルの共通点はどこにあるのか、特に商業的な側面についてKAWSに話を聞いた。

「KAWS + Warhol」展には、KAWSとウォーホルの作品47点が展示されている。Photo: Bryan Conley

今回の二人展は「逃すわけにはいかないチャンス」

KAWSの展覧会も、アンディ・ウォーホルの展覧会も、これまで無数に開かれてきた。しかし、二人の作品を組み合わせた企画展は珍しい。KAWSとウォーホルには、大手ブランドとのコラボレーションなどを通じて幅広い人々に作品が認知されているという共通点があるが、今回の展覧会ではそれに加え、それぞれに見られるダークな部分にも光を当てている。

KAWS + Warhol」展やマスマーケットを対象にすることについての考え、また、気に入っているウォーホル作品について、KAWSに話を聞いた。

──今回の展覧会では、ウォーホルの「死と惨事(Death and Disaster)」シリーズが展示されています。交通事故など暴力的な場面の写真を並べた1960年代のシルクスクリーン作品ですが、このシリーズとあなたの作品との関係について教えてください。

「ダークなテーマ」という切り口にこだわったのは、(ウォーホル美術館の館長を5月末で退任する)パトリック・ムーアです。それぞれの作品を並べることで、コンテクストが変わってくるのは面白いと思いました。たとえば、《Companion(コンパニオン)》(2020)ではキャラクターをうつ伏せに横たわらせて、(コロナ禍が始まった)2020年という年と、そのとき世の中に広がっていた疲弊感を表現するつもりで作りましたが、ウォーホルの《Ambulance Disaster(救急車の大惨事)》(1963-64)と並べられると、悲劇的な感じが一気に高まります。

──「悲劇的な感じ」について、もう少し詳しく話してもらえますか。

《Ambulance Disaster》は、より大きな恐怖を感じさせるイメージです。今回の展覧会は、自分がずっと敬愛してきたウォーホルを、さらに掘り下げて探求するためのまたとない機会になりました。そして、彼が数多くのことを成し遂げたおかげで、自分なりの考え方を見つける入り口が開かれたのだと感じたのです。つまりこの展覧会は、逃すわけにはいかないチャンスでした。

「KAWS + Warhol」展の展示風景。KAWSの《Companion》(2020)とアンディ・ウォーホルの《Ambulance Disaster》(1963-1964年)が組み合わされている。Photo: Bryan Conley

アートの商業的な展開を取り巻く状況は大きく変化した

──ウォーホルは、ビジネスとしてのアートや商業的な展開という概念を美術界に持ち込んだ作家です。しかし、金銭的な成功を明確な目標としたために、否定的な意見に直面することにもなりました。ウォーホルは恥ずかしげもなく商業的なアートを追求したという批判について、どう思いますか?

正直なところ、私自身「マスマーケット向け」かどうかを意識することはありません。自分が何を作りたいか、作りたくないか、そして作ったものをどう発表するかを考えることに集中しています。絵画や彫刻だけをやっている場合でも、最近は従来のギャラリーではできない方法で作品を発表する機会がたくさんあります。

私がこれまでずっと関心を持ち続けてきたのは、プロダクトを作ることです。物理的なモノやプロダクトを通して自分にもたらされるものについて、いつも考えをめぐらせていました。若い頃は、スケートボードやTシャツのグラフィック、そして雑誌を通して、さまざまなアーティストを知りましたし、それはとても自然なことに感じられました。自分が作りたいと思うものを作る機会があるのなら、そうしない理由はないと思います。

──以前、企画の打診を何度も断ったことがあると話していましたね。

自分を曲げないとできないことはしたくないんです。確かに、プロジェクトの打診はたくさん受けるのですが、面白くないものも多い。自分のプラスにならないと感じたら、なるべく手を出さないようにしてきました。

──ウォーホルは、広告やテレビ番組、報道写真を取り入れた作品を数多く制作しています。当時のアート界ではタブー視されたものですが、今ではかなり制約が少なくなりました。あなたは自分とマスメディアとの関係をどう考えていますか? また、マスメディアから得られる要素を用いた作品制作について、アーティストの間に変化が起きていることをどう思いますか?

私がそのことに関心を持ち始めたのは1990年代、グラフィティをやっていた頃です。その後、広告看板に絵を描くようになり、グラフィティと広告の類似性やコミュニケーションの必要性について考えるようになったのです。

私はそれをタブーだと思っていませんし、状況は大きく変化したように感じます。最近、企業や公的機関とのコラボレーションに積極的なアーティストが増えているのも変化の一つで、たとえばディオールが展覧会のスポンサーになるといったことが当たり前になってきているのです。チャンスはあちこちにありますし、いい形で実現することができています。うまくバランスを保つことができれば、企業などとコラボする価値はあると思います。

ウォーホルの時代とは違う今のメディア環境を常に意識している

──ポップカルチャーをリミックスすることに関して、ウォーホルの制作プロセスのどんな点を参考にしていますか?

映画であれ、ファッションであれ、さまざまなメディアに対するウォーホルのオープンな姿勢には大きな影響を受けました。ウォーホル美術館では、1997年に「The Warhol Look(ザ・ウォーホル・ルック)」という展覧会を開いています。それは、ウォーホルが絵柄をプリントしたドレスなど、ファッション関連のさまざまなコラボレーション作品をテーマとした企画展でした。

ソーシャルメディアなどが発達した2024年の今、自分はその頃とはまったく違う時代に生きていると感じています。そして、どうすれば今の時代に合った方法で広めることのできる作品を作れるのかを常に意識しています。

──ウォーホルの作品の中で、あなたにとって特に重要な意味を持つものはありますか?

組み合わせて展示することが最初に決まったのは《Ambulance Disaster》(1963-64)と《Companion》(2020)で、それを軸に展覧会を構成していきました。私がずっと心を惹かれているウォーホルの作品は、おもちゃのパッケージを描いた「トイ・ペインティング」シリーズ(1983)で、小ぶりなサイズと親しみの持てる絵柄が特徴です。それまでの作品から離れて、あのシリーズに集中したのはとてもクレバーだったと思います。

私の作品の中には、テレビアニメ「スポンジ・ボブ」のキャラクターの顔をクローズアップした絵画シリーズがあります。それを今回は、ウォーホルの映画『ブロウ・ジョブ』(1964年)と組み合わせて展示しました。ユーモアを取り入れることも、ウォーホルの映画を展示することも重要だと思ったからです。

──ウォーホル美術館からウォーホルの作品を貸し出してもらえるとしたら、どれを選びますか?

カンバスに描かれた火山の絵(1985年の作品《Vesuvius》)ですね。白いカンバスに黒のアクリル絵の具で描かれたこの絵は、いつ見てもハッとさせられますし、大好きです。今回の展覧会には出しませんでしたが、ウォーホル美術館を訪れるたびに見るのを楽しみにしている作品です。(翻訳:清水玲奈)

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