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  • 2023.01.12

大企業としての“あるべき”ギャラリー経営とは? ペースの戦略

世界最大級のアートギャラリーで、世界各地に計7つのスペースを持つペース・ギャラリー。昨年12月に経営体制の再編を行ったが、過去2年間で2度目のテコ入れとなる今回の狙いとは何か。

昨年ペース・ギャラリーの社長に就任したサマンス・ルーベル。Photo: Axel Dupeux

2022年11月、最高経営責任者(CEO)で創業者アーネ・グリムシャーの息子にあたるマーク・グリムシャーによって、最高幹部10人で構成される「ラウンドテーブル(円卓会議)」を創設すると発表したペース・ギャラリー。いわく、「私たちの未来を示す青写真として、私(マーク・グリムシャー)が示したヴィジョンを実行するにあたり、幹部の意思統一を図る」ための取り組みだという。

US版ARTnewsのインタビューに応じたグリムシャーCEOは、この計画の詳細についてこう説明している。

「今回の変更は、父から私へと経営のバトンが渡されたことと無関係ではない。実際には10年前から、継承は始まっていた。3年前、父の勇退に伴って私は新たな一歩を踏み出し、自分を支える人たちからなるグループを作るというアイデアを温めてきた。これは、アーティストを支えるだけでなく、彼らが羽ばたくチャンスを創出するという、ペース・ギャラリーの根本にある構想をさらに進化させたものだ」

グリムシャーCEOはさらにこう続けた。

「このグループを構成するメンバーを選出し、形を与えなければ、構想は動かない。さらにこのラウンドテーブルを軌道にのせるには、トップからある程度の権限を与える必要がある。それが今、私たちが実行している取り組みだ」

ラウンドテーブルの構成員は将来的に拡大する可能性もあるが、当面はペース・ギャラリーに長く在籍した後、昨年社長に任命されたサマンス・ルーベルが率いるという(これまではグリムシャーがCEOと社長を兼任してきたが、今後は社長の任からは外れることになった)。この人事についてグリムシャーは、「すべての人をまとめる人材を必要としており、それこそサマンサがこれまで成し遂げてきたこと」だと、述べている。

ルーベルはラウンドテーブルのリーダーとして、パートナーに昇進したジョー・バプティスタと緊密に連携するという。ルーベルとバプティスタは2021年以来、ペース・ギャラリーのグローバル・セールスチームを率いていた。

ルーベルは、「2008年に始めたフロントデスクでの仕事が出発点だっただけに、集団で知恵を出し合う体制のほうが、タコつぼ方式よりもずっと優れていることを、私はよく知っています」と話す。「今私たちがつくり出しているコラボレーションに最大の価値を置くモデルは、原点回帰であり、メンバーそれぞれが惜しみなく働き、マークのビジョンを支える姿だと思います」

このラウンドテーブルには、ほかにもシニアバイスプレイジデントに昇格したバレンティナ・ボルチコワ、イ・ヨンジュ、エリオット・マクドナルド、ジェシー・ウォッシュバーン=ハリス、さらにはペース・アジアの総裁を務める冷林、バイスプレジデントのローレン・パンゾ、そしてロサンゼルスのケイン・グリフィン・ギャラリーの買収に伴ってペース入りした、パートナーのビル・グリフィンが名を連ねる。加えて8月には、かつてウエストベス・アーティスツ・ハウジングで社長とCEOを務めたエレン・サルピーターがCEOの参謀役であるチーフ・オブ・スタッフとして加わっている。

創業者の高齢化にともなう再編の動き

グリムシャーによれば、このラウンドテーブルはペース・ギャラリーの組織を制度化するための取り組みのひとつで、今後は月に一度、定例の会合が開催されるという。これまでは、トップディーラーが個別にグリムシャーに自身のアイデアを提案していたが、このラウンドテーブルは「コラボレーションを大いに促進し、互いに支え合うコミュニティ」を醸成し、ペース・ギャラリーが今後、進んでいく方向性について意思統一を図るためのグループとなる。

グリムシャーは韓国、ソウルにあるギャラリーを例にとり、イ・ヨンジュがこのスペースを運営に専念する形に代わり、ラウンドテーブルの設置によって、ペース・ギャラリーの上層部すべてが「当社のグローバル・アプローチに関する彼女の意見を聞く」ことができると説明した。

この新たな経営体制は、上層部の体制の見直しと執行委員会の新設が行われた2021年の再編成を踏まえたもので、構想に6カ月もの時間が費やされた。この改革は、アートネット・ニュースの報道により、当時の社長であったダグラス・バクスターとスーザン・ダンの問題行動が明るみに出たことを受けたものだった。バクスターは社長の職を辞したものの、いまでも上級顧問の座にとどまっている。一方、ダンは「ポストを去ることに決めた」と、当時、同ギャラリーの広報担当者は述べていた。

今回のペース・ギャラリーの組織再編は、マリアン・グッドマン・ギャラリーやポーラ・クーパー・ギャラリーなど、創業者が高齢化している他の有名ギャラリーが事業継承計画を発表する中で公表された。11月には、ペースのライバルであるガゴシアンが取締役会の創設を明らかにしており、77歳の創業者、ラリー・ガゴシアン逝去後の経営体制を予告するものだというのが、大方の意見だ。

ペース創業者のアーネは84歳、その息子のマーク・グリムシャーは59歳。グリムシャーCEOは、こうした有名ギャラリーの事業継承計画は、アート界の「大きなトレンドだ」と指摘する。

「これらのギャラリーの立ち上げには、多大なリソースが費やされている。ディーラーと共に頭角を現し、ディーラーと共に死すという、創業者のロマンティックな考え方もある。だが、現在の規模に至っては、そうした考え方はもはや成り立たない。かつてのシドニー・ジャニス、レオ・カステリ、イリアナ・ソナベントのレベルであれば、それでよかったかもしれないが、我々がこの組織に費やした投資はあまりに大きい。加えてこれは、アーティストからも必要とされている再編だ。私たちはアーティストのレガシーを保護する、いわば管財人のような存在だ」

さらにグリムシャーはこう続けた。「アートギャラリーはこれまで、ひとりの経営者の視点と、とてつもなくカリスマ的なアプローチによって成り立つと考えられてきた。個人崇拝でなく、構想を根幹に持つアートギャラリーのあり方は、いかにあるべきだろうか? これが私たちが長い間抱いている問題なのだ」

from ARTnews 

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