ブロックチェーン上でウォーホル作品の共同所有権を提供。NFT不況の中で船出した新興企業、フリーポート
暗号資産市場が低迷を続ける中、NFTテクノロジーを活用して一流アート作品の共有所有権を提供するスタートアップが生まれた。この試みにチャレンジするのは、美術品分割投資プラットフォームのフリーポート(Freeport)だ。
ウォーホル作品を3万4000円から所有可能にするシステム
5月10日、フリーポートはニューヨークの会員制クラブ「ゼロボンド」で発足イベントを開催。昔風のカクテルや韓国焼肉のオードブルがふるまわれ、重厚なカーテンに囲まれた会場では、ホットピンクを基調としたアンディ・ウォーホルの《マリリン》がイーゼルに立てかけられていた。
これは、ウォーホルによる他のシルクスクリーン3点とともに、フリーポートが売り出す第1期の作品だ。フリーポートのシステムでは、1株25ドル(約3400円)で最低10株からの購入が可能(ただし、《マリリン》は1株55ドル/約7400円)。手に届きやすい金額で、有名アート作品の所有権の一部を購入することができる。
こうした一流美術品の所有権を「株式」として分割販売するというアイデア自体は、目新しいものではない。この分野の草分けは2017年設立のマスターワークス(Masterworks)だが、同社の場合、公表された最低投資額は1万5000ドル(約200万円)で、フリーポートよりかなり高額だった。
その後、2021年12月に元クリスティーズの社員でやり手として知られるフィリップ・ガウザーが、ブロックチェーン技術でアート作品の共有所有権を提供するパーティクル(Particle)を設立。パーティクルでは、NFTの形で入手した株式を、オープンシー(OpenSea)やラリブル(Rarible)といったNFTマーケットプレイスの2次市場で転売できる。
しかし、両社とも経営面では苦戦を強いられているようだ。US版ARTnewsの取材によると、マスターワークスのビジネスは、政府規制に故意に違反していると指摘する声が出ている。また、パーティクルのNFTは現在、当初の価格よりかなり安く取引されており、同社が公にしていた作品獲得の加速や分散型美術館設立の計画は宙に浮いたままだ。そんな中でも、フリーポートに投資する人々や創業者たちの間には、楽観的なムードが流れている。
フリーポートは、マスターワークスとパーティクルを融合させたような存在と言えるだろう。マスターワークス同様、フリーポートは米証券取引委員会からレギュレーションA+(証券登録の免除規定の1つ)の認可を受けている。これは、規制当局が新しいタイプの資産取引への監視を強める中では好材料だ。加えて、パーティクルと同じくブロックチェーンに対応しているため、新しい形態でのアート収集に積極的なコレクターのコミュニティでの顧客開拓ができる。つまり、フリーポートには先行2社それぞれの利点を活かせる可能性があるのだ。
強みはアートコレクターとのコネクション
フリーポートの共同設立者で、CEOのコリン・ジョンソンはこう語る。「私たちは証券取引委員会による所定の手続きを行い、取引の合法性を保証しています。また、FTXトークンのようにリスクは高くありません。というのは、(アートという)確固たる価値に支えられているからです。ファインアートの知識があっても、アーティストについてはそれほど詳しくないものです。そんな中で、誰もが知っているアーティストといえば、アンディ(・ウォーホル)でしょう」
幸運にもジョンソンには、ウォーホル作品を調達するつてがあった。ジョンソンの家族ぐるみの旧友マイケル・ハーバーは、ウォーホル作品の熱心なコレクターで、かねてからジョンソンとその家族に作品を買うよう勧めていた。そして、ジョンソンがアップル社のパートナー・マーケティング部門に所属していた頃、Web3の可能性を追求するよう最初にアドバイスしたのもハーバーだった(ジョンソンによると「私が5歳のときに初めて犬を買ってくれた」という)。
ジョンソンがフリーポートの設立を決めたと聞いて、ハーバーはジョンソンにジェーン・ホルツァーを紹介した。ベイビー・ジェーン・ホルツァーとして知られる彼女は、ウォーホルのスタジオ、ファクトリーに出入りして脚光を浴びた女性の1人。最近のニューヨーク誌にも登場するなど、ニューヨークきっての有名人として長くスポットライトを浴びてきた存在だ。
ウォーホルの作品を所有しているホルツァーは、ハーバーともどもジョンソンに作品を売り、かつビジネス上の助言を与えることにも同意した。最終的にフリーポートは、ウォーホルのプリント4点──《ダブルミッキー》(1981)、《マリリン》(1967)、《理由なき反抗》(1985)、《ミック・ジャガー》(1967)──を170万ドル強(約2億3000万円)で手に入れている。
ホルツァーはUS版ARTnewsの取材に、「私はいろんな物事に投資するのが好きだし、ちょっと風変わりなところがいいと思ったから」と言い、フリーポートのアイデアをすぐに気に入ったと答えた。ホルツァーは、羽のように長いつけまつげをつけ、トップを大きくふくらませたブロンドのロングヘアといういつものスタイルでジョンソンの隣に座っていた。そのジョンソンは、ホルツァーのアドバイスのおかげで、アートを扱うビジネスを成功させるのに必要な人間関係についての知識が得られたと語った。
共有所有権というコレクションの新たなトレンドについて、アート市場で天才と言われたウォーホルならどう思うだろう。そうホルツァーに聞くと彼女はこう答えた。
「私はただ楽しんでいただけ。『ヘアも決まったし、新しいドレスも着たし、キース(・ヘリング)やジャン=ミシェル(・バスキア)と一緒に出かけようかな』というような毎日だった。でも、後から『アンディは本当に頭がいい』と分かった。当時は気づいていなかったけれど」(翻訳:清水玲奈)
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