自分を救ってくれたアートを、より幅広い層に届けたい──片寄涼太【街とアート Vol.2】

芸能事務所LDH JAPANのダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS」の片寄涼太は、歌とダンス、演技でオーディエンスを魅了する一方、アート愛好家の一面も持つ。2023年3月に開催されたアートフェアMEET YOUR ART FAIR 2023「RE : FACTORY」ではオフィシャルサポーターとしてイベントを盛り上げた。主に世代の近い日本人作家や彼らの作品に惹かれることが多いと語る片寄がアートを愛する理由とは?

ニューヨークから始まったアート体験

──まず、片寄さんのアートにまつわる原体験を教えてください。

10代最後の冬に、漠然とニューヨークに行きたいという目標があって、スケジュールをやりくりしてプライベートで1人渡米する機会を得たんです。事務所から美術館や舞台鑑賞をすすめられたこともあり、メトロポリタン美術館MoMAなどを巡りました。これが、私が初めてちゃんとアートに触れた経験でした。

──10代で極寒のニューヨーク1人旅は、ちょっと勇気がいりますね。

親にも心配されたし、正直心細かったです(笑)。寒い中、1週間ほどお風呂共同の安いホテルに滞在したのですが、今振り返ると、そんなストイックな環境だったから余計に、アートを癒やしというか潤いのように感じたのかもしれません。でも、自分と向き合ういい時間になりました。

──ニューヨークでのアートとの出合いはどんな体験だったんでしょう?

当時、自分のクリエイティビティが枯渇しているように感じたのか、とにかくインスピレーションを得たいと思って行きました。その意味でも、様々な一流のアートを鑑賞できたことで、いろんな表現があっていいし、自分の表現に純粋でいて良いんだ、という肯定感を得ることができました。

日々、事務所やファンの方々など、支えてくださる様々な方の想いに応えたい、喜んでもらいたい、と試行錯誤しています。アートには、表現の多様な在り方を教えてもらっている気がするのです。

──初ニューヨーク後も、色んなアートスポットに足を運んでいるんですか?

アーティスト活動で海外に行く機会が多くあるのですが、現地では、必ず美術館に行くことにしています。アムステルダムでは国立美術館に行ったり、ニューヨークを再訪した際にはグッゲンハイム美術館に行ったり。タイトなスケジュールですが、時間の許す限りアートに触れたいと思っています。

特にグッゲンハイム美術館は、すごくハマりました。展示内容も良いし、フランク・ロイド・ライトの建築も可愛くて。とても好きな美術館です。

──東京はいかがでしょう?

東京では確かギャラリーからアートに触れた気がします。

10代の時に上京し、特に渋谷はなんだこの街!と驚きました。エネルギーが合って、尖っていて。ストリートもあり、サブカル感もあり、もちろんファッションもある。東京に来て12~13年ですが、その期間で渋谷はとても変化していますし、変化自体がアートのようですよね。

20代前半から海外に仕事で行かせてもらって、アメリカやヨーロッパ、中国などの国民性を感じます。ニューヨークのワン・ワールド・センターのロビーにホセ・パルラの巨大な絵画が飾られているんですが、デカすぎてアメリカらしいな、と。国民性や地域性、文化とアートは密接につながっていますよね。

アートに導かれるように

──3月のMEET YOUR ART FAIR 2023「RE : FACTORY」ではオフィシャルサポーターを担うなどお仕事でもアートに触れていらっしゃいますね。

私はまだまだアートに詳しいわけではないので、一緒に学んでいきたいという想いから「オフィシャルサポーター」という立ち位置にさせて頂きました。アートは難しいイメージがありますが、そんなに詳しくなくても、何となく「これいいよね」とか「これ好き」から入っていけばいいと思うんです。

私自身何かのご縁からアートに近付いて行っている感覚がすごくあるので。

田名網敬一から貰ったサッカーボール。田名網を代表するサイケデリック柄で彩られている。

──というと?

GENERATIONSで2019年に田名網敬一先生とコラボレーションし、グッズなどをつくって頂きました。これはLDHのHIROさんがNANZUKAギャラリーと親交があって実現しました。メンバー全員で田名網先生のアトリエにお邪魔したり。その時サッカーボールを頂き、大変嬉しかったですね。

また、私はファッションが好きなんですが、よく行くお店の担当スタッフさんが武田鉄平さんを教えてくれて、彼のポスターを買いました。そのポスターをインスタグラムに投稿したのがきっかけでMAHO KUBOTA GALLERYからご連絡をいただいて、実際の作品を見たり、本人にお会いすることまで繋がりました。

こういったご縁で能動的にも受動的にもアートの世界に誘われている感じがします。

好きなファッションデザイナーは、アートと度々コラボするラフ・シモンズという。

──作品も購入するのでしょうか?

初めて購入したのは武田さんの作品です。前述のご縁があり、武田さんには珍しい花のペインティングを購入しました。

他には、佐藤允さんや安井鷹之介さんなど、同世代の日本人が多いですね。食事をご一緒する仲です。安井さんは、東日本大震災の被災地である宮城県石巻の防波堤に絵を描き、パブリックアートとするプロジェクト「海岸線の美術館」に携わり、巨大な壁画を昨年末に完成させました。そういう活動からすごく刺激を受けます。今年中に絶対観に行こうと思っています。

初めて購入した武田鉄平の作品《花のための習作》(2020)。
所蔵する安井鷹之介の作品《The Kiss (after Canova)》。

──購入するきっかけや動機はどういったものでしょうか?

よく聞かれますが、どれだけ続いているか、という時間的な側面が重要かなって最近思うんです。これずっと見ていられるな、とか、友達と一緒に「これいいね」って言いたいなとか。

そういう時間が持続するすればするほど欲しくなる。ルーブル美術館に行ったら皆モナリザの前に集まってずっと見るわけじゃないですか。これって時間の持続ですよね。それくらい長い時間存在しているという作品の強度があるわけです。包容力がその作品の本質なのかなと。作品に対して対峙する時間がなくなった、と思ったら、もうその作品の手放しどきかと考えています。

コレクターの桶田俊二・聖子ご夫妻のご自宅にお伺いした際もそういった印象を受けました。純粋に鑑賞することをすごく楽しんでいらっしゃいました。作品は人に見られてますます育つ、みたいな要素があるのかなっていう気がします。

私もいつか、何かそういう自分の場所を設けたいですね。私が購入したから、自分以外の人は見られないって、とてももったいないですよね。作品に申し訳ないです。ポップアップでもどこかで見てもらえるようにしたいですね。

──若手作家の作品を購入されていますが、近い距離にいる作家をサポートしたい、同時代を生きている作家が見ている風景を自分も見たい、などの欲求もあるのでしょうか?

そうですね、HIROさんが自分たちに施してくれたことと重なる感じがあります。HIROさんはEXILE、そしてLDHを引っ張って我々にもすごく近い距離で付き合ってくれました。才能のある人と近い距離にいてとても刺激になったし、学ぶことがたくさんありました。

なので、私もいろんな作家に出会い、自分がハブになって出会いをつくれるようになりたいと思っています。既にとても有名になっている方の作品はほかの人が買うから、もうちょっと手前の段階で、若手作家をサポートできたらという気持ちが強いですね。美大の卒業作品展などにも興味があります。

芸能と芸術をつなげたい

──今後もアートの仕事には積極的に関わっていきますか?

積極的にやっていきたいです。昨年頃から、自分がどう年齢を重ねていくか考えていて。自分と向き合って、「自分が好きなものって何だろう?」と考えると、ファッションも好きなんですが、アートにはすごく救われてきた思いがあると思っているんです。

そこで芸能と芸術を繋ぐことを今後のライフワークにしたいと考えています。芸能の世界にいないとできないこともたくさんあると思いますし。

──芸能と芸術が繋がることで、こういう変化が起きたらいいとか、考えていることはありますか?

私は、もうちょっとアートが幅広い層の手に届くものとなるのが一つの結果なんじゃないかと思っています。

それにはアートを音楽やファッションと繋げたり、アートとの出合いの機会を広げていく必要があると思います。例えばCDジャケットのアートワークを作家にお願いしたり、などできるのではないかと。どう広げていくか考え中です。また、GENERATIONSの片寄涼太としてアートイベントに出席し、発信していくことももちろんやっていきます。

アートをコレクションするとなると、投資家やお金持ちのものという印象が強いですけど、アート自体は日常に当たり前にあるものにできるんじゃないでしょうか。芸能と芸術を組み合わせれば、押し付けがましくなく第三者に届けられるんじゃないかと、考えています。

Text: Mitsuhiro Ebihara Photo: Koki Takezawa Editor: Maya Nago

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