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環境活動家がMoMA前でデモ。化石燃料投資を理由に理事長解任を要求

6月8日の夜、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が毎年行う資金調達イベントの会場前に、同美術館の理事長解任を求める環境活動家たちが集まった。折りしも、カナダの山火事を原因とする大気汚染で、ニューヨーク・マンハッタンの上空が一面くすんだオレンジ色に染まる中での抗議活動だった。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)前の抗議デモ。Photo: Shanti Escalante-De Mattei/ARTnews

投資会社の共同設立者を夫に持つMoMA理事長の解任を要求

ニューヨーク近代美術館(MoMA)では、資金調達イベントとして毎年「パーティ・イン・ザ・ガーデン」を実施している。今回、プラカードや横断幕、手作りの石油掘削機の模型を持ち込んで抗議デモを行ったのは、クライメート・オーガナイジング・ハブ、ニューヨーク・コミュニティズ・フォー・チェンジ、リクレイム・アワ・トゥモローといった団体の活動家たちだ。抗議参加者が集まるMoMAの入口前では、パーティの招待客が不安げな面持ちで中に入っていく様子が見られた。

環境活動家たちが解任を求めているのは、MoMA理事長のマリー=ジョゼ・クラビス。彼女の夫、ヘンリー・クラビスは、世界最大級のプライベート・エクイティ投資会社、KKRの共同設立者・共同執行会長で、コースタル・ガスリンク・パイプライン事業の主要な出資者でもある。クラビス夫妻はMoMAに多額の寄付を行っていることから、パフォーマンスやビデオ、デジタル作品などタイムベーストアートの展示室であるマリー=ジョゼ&ヘンリー・クラビス スタジオの壁面にそれぞれ名前が記されている。

デモ参加者は、MoMAがクラビス夫妻と一切の関係を絶つことを要求する公開書簡のQRコードが印刷されたビラを配った。現時点でMoMA側は、コメントの求めに応じていない。

活動家の1人、クライメート・オーガナイジング・ハブのジョナサン・ウェスティンは「MoMAは、化石燃料への投資家が理事長を務め、展示室にその名前を掲げたままで、気候変動を食い止める意思のある持続可能な組織だと主張することはできない」とし、「この抗議は、ナン・ゴールディンなどの活動家たちが、メトロポリタン美術館からサックラー家(*1)の名を排除するため立ち上がったことに触発された」と説明した。


*1 サックラー家が創業した製薬会社、パーデュー・ファーマの鎮痛剤オキシコンチンによる中毒問題に対し、ナン・ゴールディンをはじめとする活動家の激しい抗議活動が行われた。その結果、世界の主要美術館がサックラー家からの寄付を退ける決定を下している。

活動家のロニ・サハヴィ=ブルナーによると、ブラックロック(*2)などの上場企業を対象とした投資企業とは異なり、KKRはプライベート・エクイティ(未公開企業)を扱うことから、世論の圧力や規制の影響を受けにくいという。


*2 世界有数の資産運用会社ブラックロックのCEO、ラリー・フィンクはMoMAの理事を務めている。数年前にはMoMAとフィンクに民営刑務所への投資をやめるよう求める抗議活動が行われた。

KKRが、批判を受けているカナダのコースタル・ガスリンク・パイプライン事業に関与していることも抗議理由の1つだ。アムネスティ・インターナショナルは、まだ完成していないパイプラインの建設現場やその周辺で行われた平和的な抗議活動の参加者に対し、同事業が脅しや嫌がらせを行い、人権法に違反している恐れがあると報告している。建設現場のある土地の先住民、ウェットスウェテン(Wet’suwet’en)族の支援を行う活動家は、この事業が彼らの主権を侵害し、土地を汚染する恐れがあるとして、長年にわたりパイプライン建設の阻止を試みている

「私たちにはきれいな空気が必要だ、億万長者はもういらない」

抗議デモ参加者の1人は、ニューヨークの大気汚染と自分たち抗議を結びつけ、「クラビスのような人物が化石燃料産業を存続させているせいで、私たちは文字通り空気を吸うことができない」と訴えた。また、十数人の抗議活動参加者がMoMAのある街区を一周するデモを行い、中庭のゲート前に陣取った。デモ隊の後に続いたMoMAの警備員や警察官の数は、抗議行動が終わるころにはデモ参加者を上回るほどになっていた。

中庭のゲート前に到着したデモの参加者たちは、パーティのゲストが見え、音楽が聞こえると、再び声をそろえてこう叫んだ。

「KKR、私たちはあなたを見ている、私たちには未来を持つ権利がある」、「私たちにはきれいな空気が必要だ、億万長者はもういらない」、「ヘンリー・クラビス、隠れようとしても無駄だ、私たちはあなたをエコサイド(大規模な環境破壊行為)で告発する」

パーティのゲストたちはデモ隊を無視して会場を行き交っていたが、やがてMoMAのスタッフがゲートの外が見えないようスクリーンを設置した。

警察はデモ参加者に対し、マイクの使用をやめ、石油掘削機の模型を撤去するよう指示し、「それをゲートの上から庭に落とせば殺人未遂になる」と警告。ウェスティンは「そんなことをするつもりはない」と答え、模型の位置を少しだけずらした。結局、もう1度警告が重なれば逮捕を開始すると警察から告げられると、デモ参加者は静かになり、解散した。

ゲートの前で抗議の声をあげるデモ参加者たち。Photo: Shanti Escalante-De Mattei/ARTnews

活動家のアリス・フーによると、ここ数週間、警察は抗議活動に対してより積極的な行動に出るようになったという。ただ、KKR社屋ロビーでの抗議活動ですぐ逮捕者が出たのに比べると、MoMAでの抗議デモへの締め付けは緩かったと話す。

活動家たちによると、クラビス夫妻もパーティに出席していたという。今年のパーティでは、アーティストのバーバラ・チェイス=リボウ、マレーネ・ヘス、エド・ルシェ、ダレン・ウォーカーが表彰され、ポップロック・バンドのMUNAが出演した。

フーはこう語った。「私は個人的にMoMAが大好きです。でも、気候危機が地球の未来を脅かしている今、この世界的に有名な美術館は夫妻に社会活動をする機会を与えるべきではありません。もしも、私が友人たちとパーティをしていて、周りの人々に自分の存在を印象づけたいと思っているときに、外にいる人たちから罵声を浴びせられたら、私なら家に帰ります!」(翻訳:清水玲奈)

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