• CULTURE
  • NEWS
  • 2023.10.17

訃報:韓国現代美術の巨匠パク・ソボが死去。単色画運動の中心人物、晩年は自国の作家支援に意欲

韓国単色画(Dansaekhwa)運動の中心人物であり、世界的に著名な現代美術家パク・ソボ(朴栖甫)が死去したと10月15日、韓国の通信社が報じた。91歳。死因は肺がんだった。

10月15日に死去が発表されたパク・ソボ。Photo: Courtesy Park Seo-Bo Foundation.

「絵画は自身を浄化し、清めるための方法」

2022年2月、パクは進行性のがんと診断され、治療を受けない決断をしたことを明らかにしていた。彼の所属ギャラリー、ペロタン代表のエマニュエル・ペロタンは死去のニュースを受けて、「韓国の学者や僧侶が文字を書くことを浄化のプロセスとみなしたように、パクは絵画と、彼のモノクロームから生まれる反復的な身振りをカタルシスとみなしました」と彼を評した。

パク・ソボは1970年代に韓国で生み出された「単色画」の父と言われる。単色画は絵の具を押し付ける、紙を裂くなど素材を駆使することで作品を作り上げるのが特徴で、おもな作家に李禹煥も名を連ねる。

パクは、1931年、日本占領下の慶尚北道で8人兄弟の中に生まれた。ソウルの弘益大学で伝統絵画を学んだが、1950年、朝鮮戦争に徴兵され、学業は中断された。

「食べ物もなく、仕事のチャンスもなく、すべてが灰になってしまった。従来の価値観や考え方はすべて丸裸にされてしまったのです」。2008年、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでパクは、戦争が彼と彼の仲間に与えた影響についてこう語っている。そして彼は、絵画を自己言及的なものとして見るようになる。

「私にとって絵画は、自分自身を浄化し、清めるための単なる道具であり、方法となりました」

パリで学び、韓国で興った芸術運動の立役者に

そんなパクがアートシーンに登場したのは1950年代後半。当時は政治的に激動の時代の中で台頭した、韓国の若手アーティストたちの前衛的なムーブメントの一翼を担っていた。その後1957年、パクは韓国現代美術の展覧会の出品作家の1人として、初めてニューヨークで作品を発表した。この展覧会によって、パクと、あまり知られていなかった韓国のアートシーンは国際的に評価されていくことになる。

1961年、パクはパリでのレジデンシー・プログラムと、韓国の新進アーティストをヨーロッパに招くことを目的としたユネスコの奨学金を獲得した。韓国で朴正煕(パク・チョンヒ)が軍事クーデターにより政権を掌握した年だ。

パリのアート界に入り込んだパクは帰国後、韓国の画家たちが西洋の影響を強く受けた絵画スタイルに挑戦しようとした、韓国アンフォルメル運動の立役者となった。彼らの作品はまた、日本による占領が韓国の芸術とメディアに与えた影響に対して、反撃を試みるものでもあった。パクは他の淡彩画家たちと同様、単一化された筆致で、抽象的かつ単色の作品を制作した。

韓国現代美術の先達とされるパクだが、最近では若い世代からの注目も集めている。一方で、韓国の光州で開催されている光州ビエンナーレは2023年、創設されたばかりのパク・ソボが出資した美術賞を終了させた。同ビエンナーレのウェブサイトによれば、「1980年に起こった光州民主化運動弾圧の市民蜂起の精神を記念して1995年に設立された」光州ビエンナーレには、政治的な内容を欠くパクの作品はふさわしくないと、反対派が主張したという。 さらに、1960年代と70年代の反民主主義体制時には「沈黙を守り」「従順であった」と非難した。

これに対してパクは、この主張は事実無根であるとし、韓国のアーティストにもっと資金を配分するよう求めた。「(批判をするよりも)第2、第3の賞が生まれるような環境を作る方が先進的です」と彼は書いている。晩年のパクが自国のアートシーンにもたらした援助はこれだけではない。韓国の済州島にある西帰浦(ソグィポ)には、彼の名を冠した美術館が2024年夏にオープンする予定だ。

こうした批判にもかかわらず、パクは韓国美術界に大きな影響力を持ち続けている。2021年、グッゲンハイム美術館のアジア美術担当シニア・キュレーターであるアレクサンドラ・マンローは、ニューヨーク・タイムズ紙で、彼を韓国文化の中で「そびえ立つ人物」と評した

韓国の現代美術を専門とするニューヨークのギャラリスト、ティナ・キムは、パクが母国のアートシーンに残した足跡は計り知れないと話し、「彼のダイナミズムとエネルギー、比類なきカリスマ性、そして韓国美術へのコミットメントが失われるのは寂しい限りです」と彼の死を惜しんだ。

パク・ソボには妻と3人の子どもがいる。US版ARTnewsはパク・ソボ財団の代表にコメントを求めたが、まだ返答はない。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい

  • ARTnews
  • CULTURE
  • 訃報:韓国現代美術の巨匠パク・ソボが死去。単色画運動の中心人物、晩年は自国の作家支援に意欲