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  • 2023.06.23

今週末に見たいアートイベントTOP5: 「赤の女王」の墓の埋葬品を世界3番目に公開「古代メキシコ展」、未発表を含む約300点で回顧「中園孔二展」

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

中園孔二「ソウルメイト」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)より、中園孔二《無題》2015 年 東京都現代美術館蔵 Photo by Kenji Takahashi ©Koji Nakazono, Nakazono Family; courtesy Tomio Koyama Gallery

1. 特別展「古代メキシコーマヤ、アステカ、テオティワカン」(東京国立博物館 平成館)

「赤の女王のマスク・冠・首飾り」(マヤ文明、7世紀後半)パレンケ、13号神殿出土 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ 遺跡博物館蔵 ©Secretaría de Cultura-INAH-MEX. Foto: Michel Zabé

アジア初公開の「赤の女王」の埋葬品など、至宝約140件が来日

古代メキシコの美術品にみる造形の独自性たるや。メキシコ国内の主要博物館が持つ約140件が、上野の地に集結している。そんな至宝を育んだのは、干ばつや火山の噴火といった厳しい自然条件や、神への祈りや王に対する崇拝だ。今展では、暦や文字など高度な知識を有した「マヤ文明」(前1200年頃~後16世紀)、強大な軍事力を持ち現メキシコ市の地に首都を築いた「アステカ文明」(14~16世紀)、3つのピラミッドを擁する巨大な計画都市を築いたテオティワカン文明(前1世紀~後6世紀)に注目する。

目玉となるのは、母国とアメリカに次いで日本が世界3番目の公開地となる、「赤の女王」の墓の埋葬品だ。女王はマヤ文明のパカル王の妃とみられ、マラカイト(孔雀石)で作られた「マスク」は王朝美術の傑作として名高い。アステカ文明からは、鷲の姿と融合した戦士像や、金製の宝飾品など。太陽のピラミッド周辺から出土した円形の「死のディスク石彫」はテオティワカン文明のもの。放射状の線の中央に頭蓋骨を配した図柄は、地平線に沈んだ(死んだ)夜の太陽を表すと考えられる。遺跡の映像や再現展示などで雰囲気を増した館内で、古代の人々の死生観を見つめたい。

特別展「古代メキシコーマヤ、アステカ、テオティワカン」
会期:6月16日(金)~ 9月3日(日)
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
時間:9:30 ~ 17:00  (土曜は19:00まで、6月30日~7月2日と7月7日~9日は20:00まで、入場は30分前まで)


2. 江頭誠「四角い花園」(hpgrp GALLERY TOKYO)

©︎ Makoto Egashira 2023

「花柄の毛布」に着目する江頭誠。岡本太郎現代芸術賞特別賞受賞作をリメイク

生活空間のデザインがシンプル・ミニマルにシフトするなか、少し前まで一般的だった「花柄の毛布」は、すでにノスタルジックな存在だ。そんな“ロココ調のバラ模様”などの毛布を素材に立体作品やインスタレーションを制作するのは、1986年生まれの江頭誠。作品の原点となったのは自身が使っていた花柄の毛布だった。友人から「ダサい」と指摘されて初めて、この主張の強い柄が今まで目に入っていなかった不思議に気づいたという。

以降、「西洋=高級」という戦後の西洋への憧れから生まれたといわれる和洋折衷に興味を向けた江頭。アメリカ車と日本の寺社建築を融合させた宮型霊柩車をモチーフに、毛布で表面を覆った大型作品《神宮寺宮型八棟造》は2015年に岡本太郎現代芸術賞特別賞を受賞した。今展では本作をリメイクした形で発表。隙を見せないようにしていた作品づくりが、遊びと余白を残すものに変化してきたという作家の変化も注目される。

江頭誠「四角い花園」
会期:6月16日(金)~ 7月15日(土)
会場:hpgrp GALLERY TOKYO(東京都港区南青山5-7-17 小原流会館B1F)
時間:12:00 ~ 19:00


3. 中園孔二「ソウルメイト」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)

中園孔二《無題》2015 年 東京都現代美術館蔵 Photo by Kenji Takahashi ©Koji Nakazono, Nakazono Family; courtesy Tomio Koyama Gallery

8年前に25歳で夭逝した画家を回顧、卓抜したセンスと創作の謎

8年前に香川県瀬戸内海沖で消息不明となり、25年の生涯を終えた後も評価され続ける画家、中園孔二。高校2年の時に絵の道を目指してから頭角を現すまで時間はかからず、わずか9年の間に膨大な作品を残した。土地柄に魅かれて移住し最後の時を過ごした香川の地で、未発表作品やドローイングを含む約300点を紹介する個展が開かれている。

画材や描き方を自在に使い分け、同じ作家の作とは思えないような多様な絵画を描いた中園。「ひと」のようなイメージをモチーフにした作品が多く、鮮やかな色彩を層状に重ねた、複雑で緻密な絵を制作した。卓抜したセンスを見せるが、具体的な手法など創作には謎も多い。展示では、コマ割り漫画やドローイング、インタビュー映像や蔵書なども交えて、制作活動の源泉を探っていく。中園が日々の思いや考えを書き留めていたノートに出てくる「ソウルメイト」という言葉が展覧会名に。「ソウルメイト=世界観や価値観をわかちあう親密な存在」を希求した中園の感性に歩み寄る。

中園孔二「ソウルメイト」
会期:6月17日(土)~ 9月18日(月・祝)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市浜町80-1)
時間:10:00 ~ 18:00 (入場は30分前まで)


4. 原田裕規「やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす」(日本ハワイ移民資料館)

原田裕規《Shadowing》2023年

「デジタルヒューマン」に語らせる、ハワイの日系人の民間伝承

山口県・周防大島からハワイに渡った人々の歴史を伝える日本ハワイ移民資料館が開く、初の現代アート展。選ばれたのは、同じ山口県出身で2019年から断続的にハワイに滞在して移民のリサーチを重ねてきた原田裕規だ。展覧会名の「やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす」は、民俗学者・宮本常一の著書で紹介されている、周防大島出身の老人の言葉だという。

展示される《Shadowing》は、原田が取材したハワイの日系アメリカ人の外見をモデルにCGで作成した「デジタルヒューマン」が登場する映像作品。日系人が語り継いできた河童やお化けにまつわる民間伝承が日系アメリカ人の声で朗読され、それを追って原田が復唱(シャドーイング)していく。2人の声は少しのズレを伴って重なり、デジタルヒューマンの表情や口元も同期する。民間伝承は移民らが独自に発展させた「ピジン語」で語られ、困難を乗り越えながら社会を築いていった移民の文化もにじませる。

原田裕規 個展「やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす」
会期:6月20日(火)~ 7月9日(日)
会場:日本ハワイ移民資料館(山口県大島郡周防大島町西屋代上片山2144)
時間:9:30 ~ 16:30


5. 布施琳太郎「絶縁のステートメント」(SNOW Contemporary)

「コミュニケーションをとれば絶縁」、加速するメディア社会への思考実験

急速に発達するメディア社会は、人間やコミュニケーションの何を変えたのか。1994年生まれの布施琳太郎は、メディア環境下での可視化されない意識の変容や違和感を、絵画や映像作品で顕在化してきた。今展は、「人と人がコミュニケーションをした場合、その2人は絶縁しなければならない未来」をテーマに、思考実験を試みる新作展。そんな未来社会で「人類が制作した手紙」を、映像やドローイング、小型彫刻などで表現する。

あらゆる情報を学習して数学的に計算し、農業も介護も、子育てすら自動的に最適化してくれる社会契約プログラム「絶縁者たち」が開発された未来──。それが作品の前提となる設定だ。「絶縁者たち」を使えば、人間同士がコミュニケーションをとらずに高い生産効率で生活できるが、プログラムに入力する「目的」は、人間が与えなければ機能しない。悩んだ末に人類が入力したのは「不幸の消滅」。それを達成するために「絶縁者たち」が導き出したのが、前出の「人と人がコミュニケーションをした場合、その2人は絶縁しなければならない」というルールだ。果たして布施は、どんな結末を用意したのだろうか。

布施琳太郎「絶縁のステートメント」
会期:6月23日(金)~ 8月5日(土)
会場:SNOW Contemporary(東京都港区西麻布2-13-12 早野ビル404)
時間:13:00 ~ 19:00

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