【韓国現代アートシーンの現在地 #2】自然の解体と結合から新たなイメージをつくりだす──イ・ヒョヌ
今年も国際的アートフェア「FRIEZE」が開催され、ますます盛り上がりを見せる韓国アートシーン。その生態系を考える上で、インディペンデントなアーティストの存在を無視することはできない。若手アーティストやキュレーターらの紹介を通じて韓国アートシーンの現在地に迫る本連載、第2回は異形の彫刻をつくるイ・ヒョヌのスタジオを訪れた。
Q1. あなたの作品はどんなコンセプトに基づいたものですか?
動植物をはじめとする自然界の素材を使いながら作品をつくっています。対象となる素材の解体と結合を繰り返しながらイメージをつくっていくのですが、そのプロセスを通じて対象が背負っていた固定観念や価値が消滅していき、彫刻を構成する物質としてフラットな価値をもつようになると思っています。私たちが対象に対してもっている価値やイメージは、ある時点での状況によってたまたま設定されているにすぎないことを皮肉にも示しているわけです。
Q2. あなたのスタイルはどのように形成されたものですか?
自然の形や質感、それらが生まれる原理やプロセスから多くのインスピレーションを得てきました。たとえば、自然の素材のある部分をフォーカスしてみると、全体のイメージとは異なる印象が浮き上がってきますよね。なかでも私が関心をもっているのは、自然がもつ規則性です。それらが一箇所に集まったとき、ひとつのイメージが生まれるんです。こうしたイメージの積み重ねによって私のスタイルができあがっていると感じます。
Q3. あなたはどのようにアートを学びましたか? 韓国のアート教育はどのような状況にあると思いますか?
わたし自身は学校教育に限らず、個人的にさまざまな実験を重ねていくなかでいまの表現へとたどり着きました。韓国のアート教育については、自分のポテンシャルに気づかせてくれる適切な教師に出会うことが難しいと感じます。教授や先生を選べないシステムであることも関係しているかもしれません。
Q4. あなたはどのような活動形態をとっていますか?
私は特定のギャラリーには所属していませんし、大量の作品を販売しているわけでもありません。普段はギャラリーで展示を行った際や個人的に連絡をもらった際に作品を販売しています。
Q5. 韓国のアートシーンに多様性を感じますか?
多様な活動が広がっているとは思います。従来のスタイルや伝統的なメディアの使い方とは異なる形で作品をつくろうとする人もたくさんいますね。ただ、同時に、伝統に固執し硬直した価値観に従っているアーティストも少なくないと感じます。本来、作品が「意味」に埋没してしまうことは避けるべきことだと思うんですが、私が展示を行ったときも、鑑賞者の多くが作品の意味に囚われてしまっている気がしました。
Q6. アートやアーティストは韓国の社会とどのようにつながっていますか?
アーティストごとに異なった形でつながっていると思います。研究者のようにみなされる人もいれば、ファッションシーンを牽引すると思われている人もいる。アーティストはさまざまな形で社会に消費されているのではないでしょうか。
Q7. 韓国のアートシーンにはどんなコミュニティがあると思いますか?
似たようなスタイルや似たようなアプローチをもつアーティスト同士は親交もありますし、コミュニティをつくっていることも多いと思います。私が所属するコミュニティがあるとすれば、イメージを重視したり実験的なやり方を追求するアーティストが多いのではないかと思います。
Q8. 海外のアートシーンをどのように捉えていますか?
個人的に海外のアーティストと交流する機会は少ないのですが、SNSなどを通じて知る海外アーティストの作品のなかには荒削りで実験的なものも多く、非常に気になっています。育ってきた環境や社会の状況が異なることで私たちとは異なる感覚が生まれているのかもしれませんね。
Q9. 将来的にはどんな活動を行っていきたいですか?
アートとアート以外の境界線がもっと壊れていくような作品をつくっていきたいです。
Q10. 韓国のアートシーンは今後どう変わると思いますか?
これまではメインストリームとオルタナティブがはっきりと分かれていましたが、最近は人々の好みも多様化していますし、オルタナティブに位置づけられていたものがメインストリームへ接続することもあると思います。今後はこうした二項対立が消えていき、さらに多様なものが増えていくことになるのではないかと思いますね。
イ・ヒョヌ|HYUNWOO LEE
1994年、韓国生まれ。ソウルを拠点に活動中。近年の主な個展に「oWo」(Alterside、韓国・ソウル、2021年)、グループ展として「Critical Zones」(UARTSPACE、韓国・ソウル、2021年)、「Humanism Reimagined: Embracing change」(WWNN、韓国・ソウル、2023年)、「Provoke,High beam,☆☆☆」(CON_、日本・東京、2023年)など。
Text & Edit: Shunta Ishigami Photos: Masami Ihara