アートコレクターがナチス略奪品のデータベースから所有作品の登録抹消を要求するも、失敗に終わる
ナチス政権時代に所有者から盗まれたり、略奪されたりした美術品を追跡し、これらの資産を真の相続人に結びつける機関、ロスト・アート・データベース。あるアートコレクターが、自身の所蔵作品の同データベース登録抹消を求めてドイツの連邦裁判所に訴えを起こしたが、棄却された。
アートコレクターのヴォルフガング・ペイファーが登録抹消を求めた絵画は、アンドレアス・アッヘンバッハの《カラブリア海岸》(1861)だ。以前はユダヤ系ドイツ人のコレクター、マックス・シュテルンが所有していたが、1937年におそらくナチスに強奪される形でこの作品を手放している。
《カラブリア海岸》は1999年にロンドンのオークションでペイファーが落札し、ペイファーは2016年にドイツのバーデンバーデンで開催されたアッヘンバッハ展に本作を貸し出した。その際に、マックス・シュテルン財団が運営するマックス・シュテルン・アート返還プロジェクトの目に止まり、ロスト・アート・データベースへ登録されることとなった。ミュンヘンの日刊紙、Süddeutsche Zeitungの過去の報道によると、現在も絵画の所有者はペイファーである可能性が高い。
ペイファーは2019年、ドイツの下級裁判所でマックス・シュテルン財団を相手取り、訴えを起こした。マックス・シュテルンは自発的に絵画を売却したのであり、同財団がデータベースに登録したことにより、同作品を他者へ売却することが不可能になったという主張だ。下級審は、同財団はロスト・アート・データベースに作品を登録しただけで、所有権を主張したことにはならないと訴えを退けたが、ペイファーは連邦裁判所に控訴。しかしここでも、同データベースから作品を削除することはできなかった。
AP通信によると、連邦裁判所は、「ロスト・アート・データベースのウェブページで文化財が行方不明であることを公表したことが事実に基づくものであれば、その権利は失われない」とし、コレクターには作品の登録を抹消する権利はないとの判決を下したという。
ペイファーは今後、ロスト・アート・データベースに対して直接訴訟を起こすか、あるいは作品の真の所有権をめぐる裁判を起こすこともできる。今のところ、マックス・シュテルン財団は正式な返還請求をしていない。
2009年にUS版ARTnewsが報じたように、マックス・シュテルン・アート返還プロジェクトはこれまでに、アンドレアス・アッヘンバッハの作品《スカンジナビアの風景》(1837)や、作者不詳の《バグパイプを吹く音楽家の肖像》(1632)を含む、シュテルンが所有していた11点の作品を取り戻している。(翻訳:編集部)
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