速報! US版ARTnewsが厳選する、2023年フリーズ・ロンドンの注目ブース10選
世界的なアートフェア、フリーズ・ロンドンが10月11日、ロンドンのリージェンツ・パークで始まった。20周年を迎えた今年は、46カ国から160以上のギャラリーが出展。その中から、US版ARTnews編集部が注目したギャラリーと作品を紹介する。
今年のフリーズ・ロンドンは、イギリスの幅広い文化コミュニティに敬意を表し、芸術団体や機関とのコラボレーションや、世界的に著名な8組のアーティストが、それぞれ相手となるアーティストを選び展覧会を開催する「アーティスト・トゥ・アーティスト」の新設、高い評価を得ている「フリーズ・アーティスト・アワード」の復活など、文化的イベントの拡大が特徴的だった。
10月11日に行われたVIPプレビューでは、通路は人々であふれるほどの大賑わい。各ブースではエキサイティングな新進気鋭アーティストから定評のあるアーティストまで様々な作品が紹介され、何人かのディーラーからは早い段階での契約成立が報告された。
以下は、10月15日まで開催されているフリーズ・ロンドンでUS版ARTnews編集部が選んだベスト10リストである。(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)
1. Danielle Mckinney/Marianne Boesky Gallery(ダニエル・マッキニー/マリアンヌ・ボエスキー・ギャラリー)
ニュージャージーを拠点に活動するアーティスト、ダニエル・マッキニーは、ロンドンでは初のソロ・ブースを出展した。眠っている女性、ベッドに寝転がって読書をしている女性、深い思索にふけってタバコを吸っている女性......。彼女たちは夢のような世界にいる。彼女たちは普段どのような日常生活を送っているのだろうか? 鑑賞者は彼女たちのことをもっと知りたくなるだろう。ある作品では、口紅からマニキュア、寝室のオレンジ色のランプに至るまで濃いオレンジ色が散りばめられており、茶色とのコントラストがイメージに重層性を与えている。
魅惑的で、まるで映画のワンシーンようなこれらの新作は、フェルメールが描く室内風景のインテリアや光の使い方などが反映されている。それは彼女自身が持つ美術史の豊富な知識の表れであり、彼女が現在手掛ける肖像画、構図、色彩に関する研究の新たな成果を発表するものである。 油彩と並んで、今回マッキニーは水彩画も出展している。通常はアクリルや油絵の具で制作するマッキニーにとって、初の試みとなる。小規模ながらインパクトがあり、記憶に残る作品だ。
2. Cece Philips/Peres Projects(シース・フィリップス/ペレス・プロジェクト)
ロンドンを拠点に活動するアーティスト、シース・フィリップスの絵画は、内省的で本質的なものを呼び起こす。ある作品では、エドワード・ホッパー作品を彷彿とさせるインテリアの構図で、人々が家の中で窓越しに平凡な活動をしている様子が描かれ、また、ある作品では、黄色い人工照明に照らされた薄暗く長い廊下が描かれ、ブラインドのない窓からは、青い景色が広がっている。空間的な次元を実験するフィリップスは、空間の真ん中から背景へと視線を移動する方法として光を効果的に使っている。
今回グループ展を開催したペレス・プロジェクトは、ブースの一角を、ウルトラマリンが中心に描かれたフィリップスの新シリーズの絵画に割いた。夜のコスモポリスに分け入るような、謎めいたこれらの作品は、モダニズムのインテリアや都市環境が、女性、主に有色人種の女性たちによってどのように占められているかを検証しながら、社会的な力学や環境を再構築している。来月、フィリップスはアムステルダムのグリム・ギャラリーで開催されるスコットランド人アーティスト、キャロライン・ウォーカーのキュレーションによるグループ展「The Painted Room」に出品する。
3. Van Hanos/Lisson Gallery(ヴァン・ハノス/リッソンギャラリー)
リッソン・ギャラリーは、アメリカ生まれのアーティスト、ヴァン・ハノスがフリーズ・ロンドンのために制作した、新作の絵画シリーズを展示した。リリースによると、ウィーンでハノス自身が「覗き魔」として過ごした数ヶ月にインスパイアされたこれらの作品は、彼が街を歩き回り、周囲の環境を観察して得た考察を強調したものだという。
例えば、《ポリツァイのある静物》では、高級な中国製の食器に盛られたフルーツやロブスターが、銀の水差しなどの食器に囲まれている。これは、オランダの画家アブラハム・ファン・ベーレンの《宴の静物》(1667)を再解釈したもので、静物は画面からはみ出し、その前をパトカーが走り抜けていく。
他の作品も同様だ。キスをする天使像が並ぶアンティーク・ショップの外にストリップ・クラブの広告が貼られた様子を描いた《Sex Dolls》に見られるように、ハノスは古典的な要素と現代的なイメージをミックスしている。描かれた「窓」の反射は「美術史の窓」にも一石を投じるものであろう。
4. Larry Achiampong/Copperfield Gallery(ラリー・アチャンポン/カッパーフィールド・ギャラリー)
若手ギャラリーを集めた「Focus」セクションに出展している南ロンドンのカッパーフィールド・ギャラリーでは、ラリー・アチャンポンの新作ペインティングに加え、ソファーやカラフルなラグ、小型テレビ、DVDゲームの入ったキャビネット、そしてアフリカとカリブ海で人気のドリンク「Supermalt」で構成されるインスタレーションなど、ビデオゲームを題材にした作品を多数展示。ここではゲームで実際に遊こともでき、没入感ある体験を楽しめる。
アチャンポンの新作ペインティングは、コンピューターゲームの表現における人種や性別の偏りとホワイトウォッシングについての調査がベースとなっている。人気ゲームの広告ビジュアルを参考にした超大作ゲームに登場するようなキャラクターと文字からなる作品は、こうした不平等に対するアチャンポンらしい回答と言える。
5. Marguerite Humeau/Clearing(マルグリット・ユモー/クリアリング)
マルグリット・ユモーは、コロラド州サンルイス・バレーにある160エーカーにもなるランド・アート・プロジェクト《Orisons》(2023)を発展させ、私たちがこの世界で他の存在や力と共存する不完全な方法に注意喚起するような彫刻など、示唆に富む作品を多数展示。そこにあるテーマは、生と死、知識、はかなさと回復力、神秘主義など。風で動くリサイクル・スチール製の彫刻や、砂漠の土から引き抜いた根をワックス鋳造したブロンズ作品を通じて、「ルーツのネットワーク」を表現している。また、壁面に飾られた作品には、織物に様々なシンボルが縫い付けられており、半透明のカラーワックスの層が吊るされている。これは、ヒュモーによるオリソンズの土地の地図を表しているという。
ユモーはこのプロジェクトのため、3年をかけて地質学者、自然保護活動家、農民、先住民コミュニティなど、この土地の風景を知る人々にリサーチした。没入感のある展示空間は、ありのままの自然を体験しているかのようだ。彼女はこれらの作品を通じて、自然や生命への敬意、それらとの忘れられてしまった絆の奪還を試みている。
6. Sophie von Hellermann/Pilar Corrias(ソフィー・フォン・ヘラーマン/ピラー・コリアス)
イギリスのビーチリゾート、マーゲイトを拠点とするドイツ人アーティスト、ソフィー・フォン・ヘラーマンの個展を開催するピラー・コリアスは、今年のフリーズ・ロンドンの主役と言えるだろう。まるで夢の中にいるような別世界へと誘うその素晴らしい空間は、「ドリームランド」というタイトルにふさわしく、マーゲートを象徴する同名の遊園地に着想を得ている。この遊園地は、現存するイギリス最古のものの一つで、貴族のようにレジャーに参加できる労働者階級の娯楽として、1970年にオープンした。
観覧車やメリーゴーランドに乗る人々、はしゃぐ海水浴客やターナー風の空を飛ぶカモメなど、大衆文化や文学に登場するキャラクターが描かれている。ヘラーマンの作品は、喜びや、はじけるような色彩の躍動感、冒険的なスリルがある一方、不気味さや哀愁も感じさせ、かつての豪華な遊園地の衰退を浮き彫りにしている。
7. Ayoung Kim/Gallery Hyundai(キム・アヨン/ギャラリー・ヒュンダイ)
「アーティスト・トゥ・アーティスト」プロジェクトは、その名の通り、一人のアーティストの推薦の受けたアーティストが作品を発表するというもの。今回、ヤン・ヘグからバトンを受け取ったキム・アヨンが展示したのは、ビデオ作品《Delivery Dancer's Sphere》。「Delivery Dancer」という会社で働くErnst Mo(モンスターのアナグラム)という名の女性の配送ドライバーが、アルゴリズムによって生成されたソウル市内の道路を運転していくという内容。この作品は、コロナ禍で普及したギグ・エコノミー(企業に雇用されることなく、アプリなどを通じてプロジェクトごとに仕事を請け負う働き方。Uberはその代表例)の恩恵を受けたキム自身の個人的な経験にインスパイアされている。アヨンの作品は、韓国の歴史や現代の問題、地政学や国際的な動きに対する入念なリサーチに基づいて構成されている。
8. Kevin Beasley/Casey Kaplan(ケヴィン・ビーズリー/ケーシー・カプラン)
ケヴィン・ビーズリーは、抽象的な壁面作品や自立型の彫刻作品を展示。これらは、風景という概念と、それがどのように私たちの共有空間に影響を与えるかを探究している。4つの彫刻からなる「Garden Windows」シリーズは、ビーズリーが「新しいスラブ」と呼ぶ、何世紀も前のレリーフ彫刻からインスピレーションを得た彫刻形態を採用。これらは、私たちが住むことのできる自然環境を再現したもの。曇りつつも明るい色彩を背景に、シャーペンで輪郭を描いた可憐な花々が咲き誇る緑豊かな作品は、ロマンチックでもある。
9. Leilah Babirye at Stephen Friedman Gallery(レイラ・バビリエ/スティーブン・フリードマン・ギャラリー)
スティーブン・フリードマン・ギャラリーは、レイラ・バビリエをフィーチャー。赤く塗られた壁が目を引く空間には、木やセラミックで作られた手彫りの彫刻とともに、彼女の現在進行中のシリーズ「クィア・アイデンティティ・カード」からアクリル絵の具を用いたペインティングが展示されている。これらのペインティングは肖像画で、真っ赤な口紅をつけ、カラフルな服を着た緑色の髪を均等に結ったノンバイナリーな人々が描かれている。木の彫刻は、針金や金属製のスプーン、釘などバビリエが見つけたものを溶接したり焼いたり編んだりしたもので装飾されている。一方、陶器の彫刻は、焼いた後に釉薬がかけられている。日常的な素材を新しいオブジェとして再構築しながら、セクシュアリティ、人権、アイデンティティをめぐる問題に焦点を当てるバビリエは、このインスタレーションを通じてクィアのウガンダ人コミュニティの確立を夢想している。
10. Deana Lawson/David Kordansky(ディアナ・ローソン/デイヴィッド・コルダンスキー)
フリーズ・ロンドンに足を踏み入れて最初に目に入るのが、デイヴィッド・コダンスキーのブース。ここでは、ディアナ・ローソンとフレッド・エバースリーによる作品が紹介されている。ローソンの大判写真には、さまざまな職業の被写体が登場する。ある女性は赤ん坊を抱いているが、別の女性は上半身裸で寝椅子に座り、前方を見つめている。部屋の隅に置かれた鏡をよく見ると、写真を撮っているローソンの姿が見える。彼女の作品は、アメリカの国内外で変化する社会的・生態学的景観と資本状況の中で、複雑な個人とコミュニティがどのように共存しているかを探求している。
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