赤ちゃんにもアートの好みはある? イギリスの大学がゴッホの絵画を用いた研究結果を発表
乳幼児と大人を対象に様々なゴッホの作品を見せて、どれがより好きかを調べる研究をイギリス・サセックス大学が行った。その興味深い結果とは?
この研究は、生後18週(約4カ月)から40週(約9カ月)までの乳児25人と、18歳から43歳までの成人25人にiPad画面に映し出されたゴッホ作品を見せた時の反応を測るというもの。40点から10点に絞り込まれたゴッホの風景画を2枚1組、合計45通りの組み合わせを表示した。すると、乳児期から特定の傾向が認められたと同時に、年齢を重ねるにつれて人生経験が個人の好みにより影響を与えることがわかった。
乳児には2枚1組のペア絵画を5秒間表示し、ある画像を別の画像よりも長く見た場合、その画像に対して視覚的な好みがあると判断した。大人にも同じテストを行ったが、2枚を眺めた時間の比較ではなく、どちらがより楽しいと感じたかを選択するよう求めた。その上で、研究チームは成人グループから集めたデータを集計し、各作品に対する好みの平均を数値化。乳児グループの平均観察時間と比較した。
その結果、大人がより心地よさを覚えた作品を乳児も長く見ていることがわかった。中でも、《トウモロコシの茎》(1888)は両グループにおいて最高得点であり、最も不人気だったのは《オリーブの林》(1889)だった。
この最新研究よりも点数は少ないが複数の芸術家の作品を用いた過去の研究では、乳児が絵画を見ている時間の長さと大人の好みとの間に関連性を見出すことはできなかった。
次にチームは、乳児と成人の両グループが、ゴッホの絵画のどの側面に最も興味を持ったかを分析。すると、乳児は明るさや色のバリエーションが多い絵画をより長く見る傾向があり、大人もこれと同じ絵画をより高く評価する傾向があることがわかった。幼児の視覚はまだ発達段階にあるため、コントラストの高い絵画の方が認識しやすかった可能性が高い。
研究者たちはまた、乳児と大人の違いも発見した。例えば、乳児は空が広がる作品を好む傾向があったが、大人は意外性のある絵を好んだ。さらに乳児は、葉や枝など、角や曲線が多い作品を長く見ていたが、大人のグループはそうではなかった。
乳児が、長時間見つめた絵画からより多くの喜びを得たかどうかを正確に判断するには、脳の研究が必要だ。しかしこの結果は、乳児の感覚の偏りと大人の美的判断との関連性を示唆しているといえる。大人は、自身の経験が選択に影響を与えていると考えられそうだ。
研究論文の主執筆者、フィリップ・マクアダムスは、「大人は経験が美的体験に影響を及ぼしますが、乳児は経験が少ないため、より個々の構成要素に反応していることがわかりました。いずれにせよ、今回の調査によって、乳児の視覚システムと視覚嗜好は、一般に考えられているよりもずっと洗練されていることがわかりました」と話す。(翻訳:編集部)
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