世界遺産で発見されたモザイク画、問題続出の博物館に貸与の可能性。考古学者は強く反対
考古学的価値の高い古代キリスト教のモザイク画が、何かと物議を醸しているアメリカの博物館に貸し出される可能性があることを、8月15日付のAP通信が伝えた。
世界遺産に「聖書ゆかりの遺丘群」として登録されているイスラエル北部のテル・メギド(メギドの丘)。ここで出土した床に施された3世紀のモザイク画は、イエス・キリストを崇拝の対象として言及した初期のものとされる。また、新訳聖書のヨハネの黙示録がキリストの再臨時に起こるとするハルマゲドン(世界最終戦争)という言葉は、本来メギドの丘を指すと言われている。
古代ローマ帝国の村だったこの地で、ローマ帝国がキリスト教に改宗する以前に作られたモザイク画は、世界最古のキリスト教の礼拝堂と見られる建造物の中にある。礼拝堂は、2005年に刑務所の拡張計画の一環として行われた発掘調査で、イスラエルの考古学研究者によって発見された。パレスチナ人の収監に使用されているこの刑務所は、エズレル平野のテル・メギドの近くに位置している。
モザイク画の貸し出し先と目されるのが、アメリカ・ワシントンD.C.の聖書博物館だ。この博物館は、ハンドメイド用品やインテリアを扱う小売企業、ホビーロビーの社長で福音派クリスチャンのスティーブ・グリーンによって設立された。しかし2017年の開館以来、収蔵品の収集方法や福音派の保守的な政治色への注視が続いている。
過去6年間に同博物館は、論争の的となった聖書関連の遺物5000点をエジプトに、略奪文化財とされる1000年前の福音書の筆写本をギリシャに返還。また、所蔵していた死海文書の断片が偽造品であることも判明した。さらに米当局は、グリーンの個人コレクションから数千点の略奪文化財をイラクに返還している。
もし、メギドのモザイク画が聖書博物館に貸し出されることになれば、アメリカの福音派とイスラエルとの結びつきがいっそう強まると考えられる。
一方、考古学者たちは、学術的研究が完了する前にモザイク画を遺跡全体の文脈から切り離してしまうことに懸念を示している。
「あのモザイク画を動かすのは時期尚早です」と、非営利考古学研究機関のセンター・フォー・ザ・メディタレニアン・ワールドのマシュー・アダムス所長はAP通信に語った。
また、バーミンガム大学の神学教授で、聖書博物館についての本を共同執筆したキャンディダ・モスも、AP通信の取材に「どんな遺物であれ、いったん考古学的な文脈から外れてしまうと大事なものが失われ、発掘された空間や環境の印象が薄れてしまう」と意見を述べている。
イスラエルの考古学文化財当局は、諮問委員会に意見を求めた後、数週間以内に決定を下す予定。(翻訳:石井佳子)
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