キュレーターが推薦! ニューヨーク近代美術館(MoMA)の必見作品26選

近現代アートに興味のある人なら、必ず一度は訪れたいのが世界有数のコレクションを誇るニューヨーク近代美術館(MoMA)だ。この記事では、MoMAのキュレーション部門アシスタント・ディレクターであるハイディ・ヒルシュル・オーリーが、現在展示されている所蔵品の中から見逃せない作品を紹介する。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の2004年の増築・改装は、日本人建築家の谷口吉生が手がけた。Photo: Aflo

INDEX

MoMAは、従来の美術館の保守的な方針に異議を唱えたアートパトロンのリリー・P・ブリス、メアリー・クイン・サリバン、アビー・アルドリッチ・ロックフェラーの3人が、モダンアートに特化した美術館を目指して1920年代に設立した。以降、1世紀近くにわたり、近代建築、デザイン、ドローイング、絵画、彫刻、写真、映画、デジタルメディアなど、さまざまな分野で充実したコレクションを構築し、アート界で大きな役割を果たしてきた。現在、マンハッタンのミッドタウンにあるMoMAは、世界で最も人気のあるアートスポットの1つとなり、毎年約700万人が来館する。

2019年、4カ月間の休館を経たMoMAは、ディラー・スコフィディオ+レンフロとゲンスラーが共同設計した新館を加え、展示スペースを約3700平方メートル拡大してリニューアルオープンした。同時に展示方法を刷新し、過去150年にわたる20万点近いコレクションを数カ月ごとにローテーションするほか、特定のアーティスト、時代、媒体、テーマに特化したミニ展覧会を実施するなどの新しい試みを行っている。

以下、MoMAのハイディ・ヒルシュル・オーリーが選んだ26の作品を見ていこう。

1. フィンセント・ファン・ゴッホ《郵便配達人ジョゼフ・ルーランの肖像》(1889年)

フィンセント・ファン・ゴッホ《郵便配達人ジョゼフ・ルーランの肖像》(1889) Photo: Museum of Modern Art, New York

展示場所:5階、第502室

ジョゼフ・ルーランは、フィンセント・ファン・ゴッホの自宅に手紙を届ける郵便配達人であり、友人でもあった。この肖像画は、1929年11月のMoMAリニューアルオープン後初の展覧会、「ゴッホ、セザンヌスーラゴーギャン」に出展された。この展覧会をテーマとする展示室には、当時の展示作品の一部が再び集められている。従来の美術館のあり方を変えたいというMoMA設立時の意志を物語るように、伝統的な展示アプローチとは一線を画すこの部屋は、いわばMoMAのもう1つの入り口と言えるだろう。

2. パウラ・モーダーゾーン=ベッカー《Self-Portrait with Two Flowers in Her Raised Left Hand》(1907年)

パウラ・モーダーゾーン=ベッカー《Self-Portrait with Two Flowers in Her Raised Left Hand》(1907) Photo: Museum of Modern Art, New York

展示場所:5階、第504室

パウラ・モーダーゾーン=ベッカーによるこの自画像は、現在MoMAで展示されている女性画家の作品の中でも最も早い時期に描かれた1点で、20世紀初頭のドイツ・オーストリア美術を紹介する展示室にある。絵の中では、妊娠中のモーダーゾーン=ベッカーが右手をお腹の上に置き、左手で2本の花を持っている。すぐ隣に展示されているパブロ・ピカソの《アヴィニョンの娘たち》(1907)と同じ年に制作されたこの絵画は、美術史におけるモーダーゾーン=ベッカーの重要性を象徴するものだ。

3. アンリ・ルソー《夢》(1910年)

アンリ・ルソー《夢》(1910) Photo: Museum of Modern Art, New York

展示場所:5階、第503室

パリ市の税関職員で、独学の画家として知られるアンリ・ルソー。その大型絵画《夢》は、これまで館内を何度も移動してきた。MoMAの新館建設における当初の計画では、作品との距離を十分に取れる展示室をピカソの《アヴィニョンの娘たち》に充てることになっていたが、結局その部屋にはピカソの代わりに《夢》が展示された。ルソーの描いたジャングルや砂漠の風景は全て想像上のもので、ピカソやマックス・ベックマン、そしてシュルレアリスムの画家たちなど、当時の前衛芸術家たちに多大な影響を与えた。

4. アンリ・マティス《青い窓》(1913年)

アンリ・マティス《青い窓》(1913) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © 2023 Succession H. Matisse/Artists Rights Society (ARS), New York

展示場所:5階、第506室

《青い窓》は、アンリ・マティスがパリ郊外のイシー・レ・ムリノーにあったアトリエの外観を描いた唯一の作品で、マティス作品を集めた展示室に飾られている。また、アトリエ内部を描いた《赤のアトリエ》(1911)などを取り上げた企画展、「Matisse: The Red Studio」(2022年)にも展示された。

5. アイリーン・グレイ《T3-12(E-1027)》(1935年頃)

アイリーン・グレイ《T3-12(E-1027)》(1935年頃) Photo: Museum of Modern Art, New York

展示場所:5階、第513室

建築家でデザイナーでもあるアイリーン・グレイの作品は、MoMAの建築とデザインのコレクションを橋渡しする役目を担っている。MoMAでは、展示替えの機会を利用して所蔵品を増やす必要のある部門を査定するが、その評価で新たに作品の取得が必要とされたのが建築・デザイン分野だった。

MoMAはすでにグレイの装飾的な間仕切りを所有していたが、最近《T3-12(E-1027)》を含む小さな図版3点を入手し、間仕切りと同じ部屋に展示している。グレイの創作過程をうかがわせるこれらの図版は、完成作品についての理解を深める手がかりになるものだ。

6. ジェイコブ・ローレンス《The railroad stations in the South were crowded with people leaving for the North》(1940-41年)

ジェイコブ・ローレンス《The railroad stations in the South were crowded with people leaving for the North》(1940-41) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © 2023 The Jacob and Gwendolyn Knight Lawrence Foundation, Seattle/Artists Rights Society (ARS), New York

展示場所:5階、第520室

この作品は、1910年代以降に南部の農村から北部の工業地帯に向けて移住したアフリカ系アメリカ人を描いたジェイコブ・ローレンスの「Migration(移住)」シリーズの1点。全60点のテンペラ画からなる「Migration」シリーズは、MoMAとワシントンD.C.のフィリップス・コレクションが共同所有している。

「Migration」シリーズのうち30点は、5階の最後の展示室、年代で言うと1930年代から40年代にあたるところに、同シリーズが影響を与えたエリザベス・キャトレットの「The Black Woman(黒人女性)」シリーズ(次項を参照)とともに展示されている。2人のシリーズはどちらも、連続したイメージと説明的なタイトルによる物語の形式を用いて黒人の経験を伝えている。

7. エリザベス・キャトレット《I Have Special Reservations》(1946年)

エリザベス・キャトレット《I Have Special Reservations》(1946) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © 2023 Mora-Catlett Family/Licensed by VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York

展示場所:5階、第520室

エリザベス・キャトレットは、ジェイコブ・ローレンスの「Migration」シリーズの絵画が制作された直後、ニューヨークでその作品を見たのに触発され、それから6年後に労働者階級の黒人女性が持つ逆境を生き抜く力をテーマとした版画シリーズを発表した。《I Have Special Reservations》に描かれているのは、人種隔離政策が行われていた時代、バスの車内で有色人種席に座るアフリカ系アメリカ人の女性だ。新たに所蔵されたキャトレットのこの作品は、ローレンスとキャトレットの創作における関係性をよく示している。 

8. ジュリー・メレツ《Epigraph, Damascus》(2016年)

ジュリー・メレツ《Epigraph, Damascus》(2016) Photo : Niels Borch Jensen. Courtesy of the artist and Marian Goodman Gallery, New York

展示場所:5階、第522室

6枚のパネルで構成されるジュリー・メレツの巨大な版画は、最近取得され、今年4月に5階の「Responding to War(戦争への反応)」と名付けられた展示室で初公開された。この部屋は、第2次世界大戦の戦中戦後に制作された作品中心の展示構成になっている。しかし、シリア内戦で荒廃したダマスカス市内の建築物の図面をもとに制作されたメレツの作品は例外で、時系列での展示を意図的に乱すものとして位置づけられている。

9. マーク・ロスコ《No.1 (Untitled)》(1948年)

マーク・ロスコ《No.1 (Untitled)》(1948) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko/Artists Rights Society (ARS), New York

展示場所:4階、第403室

マーク・ロスコの展示室にあるこの初期作品は、ロスコがその1年後に制作を開始したカラーフィールド・ペインティング(*1)を予感させるものだ。のちにロスコが有名作品で完成させることになるブロックのような形と微妙な色の変化が既に見て取れる。


*1 カラーフィールド・ペインティングは1950年代から1960年代にかけて登場した抽象絵画の一潮流で、色彩による面の占める領域の割合が大きい絵画のことを指す。

10. エルズワース・ケリー《Sketchbook #26, New York City》(1954-56年)

エルズワース・ケリー《Sketchbook #26, New York City》(1954-1956) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © Ellsworth Kelly Foundation

展示場所:4階、第416室

エルズワース・ケリー(1923〜2015)の生誕100周年記念事業の一環として、現在MoMAではケリーが使っていたノートやスケッチブックが展示されている。《Sketchbook #26, New York City》もそのうちの1点で、ケリーの大きな彫刻作品を見下ろす位置にある展示室で、関連するドローイングや絵画とともに見ることができる。

今回の展示は、生涯のほぼ全ての期間、スケッチブックを非公開にしていたケリーの完成作品とスケッチとの関係を初めて目にすることができる貴重な機会だ。見開きで展示されているページには、鉛筆、水彩、コラージュでいくつものアイデアを試す過程が残されている。スケッチブックのうち数冊はデジタル化され、その全容が壁にプロジェクションされている。

11. アーネスト・コール《Untitled》(1967年)

アーネスト・コール《Untitled》(1967) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © Ernest Cole/Magnum Photos

展示場所:4階、第409室

この写真作品は、アーネスト・コールによる1967年の「House of Bondage(囚われの家)」シリーズの1枚で、南アフリカで1948年から1990年代初めまで続いたアパルトヘイト制度下の黒人少年たちを捉えている。南アフリカ初の黒人フリーランス・フォトジャーナリストであるコールは、人種隔離政策と人口では少数派の白人による支配が南アフリカの黒人たちにもたらした苦難を、カメラを通じて暴き出している。

12. アルベルト・ジャコメッティ《Tall Figure, III》(1960年)

アルベルト・ジャコメッティ《Tall Figure, III》(1960) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © Succession Alberto Giacometti/Artists Rights Society (ARS), New York, 2023

展示場所:4階、第400室

アルベルト・ジャコメッティのブロンズ彫刻《Tall Figure, III》は、現在、バーバラ・チェイス=リボウの作品《The Albino》(第19項を参照)と対になるように展示されている。ジャコメッティもチェイス=リボウも自分の生まれた国からパリにやってきて活動したアーティストで、世代も作風も全く違うものの、どちらも彫刻家として人間のフォルムを追求したという共通点がある。なお、併設のガラスケースで展示されているジャコメッティの石膏像は、アメリカでは初めての展示となる。

13. アグネス・マーティン《Friendship》(1963年)

アグネス・マーティン《Friendship》(1963) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © Agnes Martin Foundation, New York/Artists Rights Society (ARS), New York

展示場所:4階、第413室

アグネス・マーティンの抽象絵画は一見シンプルに見えるが、そこには手書きの細い線、グリッドの連なり、繊細な色彩といういくつもの要素が詰まっている。この《Friendship》は、マーティンのミニマリスト的なスタイルを、通常の作品とは違う方法で形にしたものだ。マーティンが金箔を素材として用いた絵画は世界に3点しかないが、これはその1点で、彼女のトレードマークである無機質なグリッドと、金箔が醸し出す豊かな味わいのコントラストが際立っている。

14. ジェームズ・ローゼンクイスト《Doorstop》(1963年)

ジェームズ・ローゼンクイスト《Doorstop》(1963) Photo: Museum of Modern Art, New York, courtesy the James Rosenquist Foundation. Artwork copyright © 2023 James Rosenquist Foundation/Licensed by Artists Rights Society (ARS), New York. Used by permission. All rights reserved

展示場所:4階、第412室

ジェームズ・ローゼンクイストのインスタレーションは、ポップアートの作品を集めた展示室にあるが、天井近くに吊るされているので来館者の多くは気づかないで素通りしてしまう。探さないといけないことを知っているか、たまたま説明パネルを目に止めない限り、簡単に見逃してしまうだろう。アパートの間取りを描いたこの《Doorstop》には、いくつもの電球が組み込まれているが、そのうち1個はいつも消えている。それを見つけて博物館のスタッフに伝える来館者もいるが、実は意図的にそう設定されている。

15. ケイト・ミレット《Piano & Stool》(1965年)

ケイト・ミレット《Piano & Stool》(1965) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © Kate Millett Trust, courtesy Salon 94, New York

展示場所:4階、第412室

ケイト・ミレットの《Piano & Stool》は、手彫りの木製ピアノとピアノスツールを組み合わせたインスタレーションで、ローゼンクイストの作品と同じ部屋に展示されている。「Domestic Disruption(家庭の崩壊)」と名付けられたこの展示室には、現在1960年代の消費文化や日常生活をテーマに、さまざまなアーティストが異なるアプローチで制作したポップアートの作品が集められている。フェミニスト作家・活動家として知られるミレットは、《Piano & Stool》が示すように、気まぐれでウィットに富んだ彫刻も制作していた。中でもファウンドオブジェ(*2)を用いた作品が多い。


*2 自然にある物や日常生活で使われる人工物。また、それをそのまま作品に取り込むアート。

16. ベティ・サール《Phrenology Man Digs Sol y Luna》(1966年)

ベティ・サール《Phrenology Man Digs Sol y Luna》(1966) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist and Roberts Projects, Los Angeles

展示場所:4階、第408室

アッサンブラージュ(*3)のアーティストとして知られているベティ・サールの《Phrenology Man Digs Sol y Luna》は、今は疑似科学として否定されている骨相学(頭がい骨の大きさや形によって性格や精神的能力が左右されるとする説)と占星術を組み合わせた遊び心のある銅版画だ。2019年にサールの回顧展を開催したMoMAは、紙を支持体とする彼女の作品を多数所蔵している。


*3 雑多な物体(日用品、工業製品、廃品など)を寄せ集めて作られた芸術作品やその手法。

17. ジョン・ジョルノ《Dial-A-Poem》(1968年)

ジョン・ジョルノ《Dial-A-Poem》(1968) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy The John Giorno Foundation

展示場所:4階、第414室

《Dial-A-Poem》は、アーティストで詩人のジョン・ジョルノによるインタラクティブな作品。来館者が電話を手に取り、ある番号をダイヤルすると、ジョルノと仲間たちが書いた200編の詩(わいせつなものもあれば、まじめな詩もある)の中から、無作為に選ばれた1編の朗読を聞くことができる。MoMAはこの作品を、1970年に開催され、各方面に大きな影響を与えた企画展「Information」で初公開した。

18. アイデル・ウェーバー《Untitled》(1968-70年)

アイデル・ウェーバー《Untitled》(1968-1970) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © 2023 Estate of Idelle Weber/Artists Rights Society (ARS), New York

展示場所:4階、407室

テレビシリーズ『マッドメン』を見たことがあるなら、番組のオープニングがアイデル・ウェーバーの作品に着想を得たものだとピンと来るだろう。ポップアーティスト、アイデル・ウェーバーの名は最近まであまり知られていなかったが、近年はニューヨークブルックルン美術館で2010年に行われた展覧会「Seductive Subversion: Women Pop Artists 1958–1968」をはじめ、作品を目にする機会が増えている。

シルクスクリーンで絵をプリントしたアクリルの立方体3個組の作品は、MoMAが2019年にリニューアルオープンする少し前に取得したもので、比較的新しい素材であるプレキシグラスで制作された1940年代、50年代、60年代の作品を集めた展示室に置かれている。

19. バーバラ・チェイス=リボウ《The Albino》(1972年)

バーバラ・チェイス=リボウ《The Albino》(1972) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist and Hauser & Wirth

展示場所:4階、第400室

バーバラ・チェイス=リボウとジャコメッティの作品は、まったく性質の違うものなのだが、この展示室では見事な相互作用を生み出している。チェイス=リボウの《The Albino》とジャコメッティの《Tall Figure, III》はともに引き伸ばされたような形をしているが、後者が極限まで細くなった硬質な形であるのに対し、前者はより柔らかく開放的に見える。チェイス=リボウはジャコメッティを訪ねたことがあり、仕事上の関係もあったが、2人の作品が結びつけられることはほとんどない。

20. T・C・キャノン《Two Guns Arikara》(1973/77年)

T・C・キャノン《Two Guns Arikara》(1973/1977) Photo: Museum of Modern Art, New York. Artwork copyright © Estate of T.C. Cannon

展示場所:4階、第415室

アメリカ先住民カイオワ族・カド族のアーティスト、T・C・キャノン(トミー・ウェイン・キャノン)の絵画は、MoMAが初めて収蔵したネイティブ・アメリカン・アーティスト作品の1つで、現在、1960年代から70年代にかけての活動家や社会を意識した作品に焦点を当てた「The Divided States of America(分断された国アメリカ)」という展示室に飾られている。

ひざの上に2丁の銃をさりげなく置いたネイティブアメリカンの男性を描いたこの作品は、ケリー・ジェームズ・マーシャルやジョーダン・キャスティールなど、有色人種の現代アーティストによる具象絵画の先駆けとなった。

21. ジェタ・ブラテスク《Portraits of Medea (Portretele Medeei)》の作品集より無題(1979年)

ジェタ・ブラテスク《Portretele Medeei(Portretele Medeei)》の作品集より無題(1979) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the estate of Geta Brătescu and Hauser & Wirth

展示場所:4階、第420室

現在、女性アーティストを集めた4階の展示室にあるこのリトグラフは、さまざまな分野で活躍したルーマニア人アーティスト、ジェタ・ブラテスクを知るのに絶好の作品で、彼女のドローイングの特徴である動きのある描線を目にすることができる。ブラテスクは政治やフェミニズムに直接関与することは避けていたが、ギリシャ神話などをテーマに女性性の複雑な本質を探究した。この作品の題材になっているメデアは古代ギリシャの王女で、アルゴー号の冒険で名を馳せた英雄ジャゾーネが、秘宝の金羊毛を手に入れるのを助けたとされる。

22. ハワルデナ・ピンデル《Free, White and 21》(1980年)

ハワルデナ・ピンデル《Free, White and 21》(1980) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist and Garth Greenan Gallery, New York

展示場所:2階、第201室

MoMA初の黒人キュレーターとして働いていたこともあるハワルデナ・ピンデル。約1年前から展示されているビデオ作品《Free, White and 21》でピンデルは、アメリカに生きる黒人女性である自らの経験と記憶を振り返っている。そして、合間合間に顔を白塗りにして白人に扮した姿で登場し、自分と母親の受けた人種差別的な体験を無効化するような発言をすることで、黒人女性が排除されてきた歴史を表現している。

23. ジョーイ・テリル「Chicanos Invade New York」シリーズ(1981年)

ジョーイ・テリル「Chicanos Invade New York」シリーズ。左から《Making Tortillas in Soho》、《Reading the Local Paper》、《Searching for Burritos》(1981) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist

展示場所:2階、第202室

1980年代のニューヨークをテーマにした展示室には、ジョーイ・テリルによる3枚組の絵画「Chicanos Invade New York(チカーノがニューヨークに侵入する)」シリーズが展示されている。これは、ロサンゼルス出身のチカーノ(メキシコ系アメリカ人)でゲイのアーティストであるテリルが、ニューヨークに短期間滞在したときに感じた疎外感を描いた小品だ。

3枚はそれぞれ、グッゲンハイム美術館の前に立つ場面《Searching for Burritos》(ブリトーを探して)、トルティーヤを作っている場面《Making Tortillas in Soho》(ソーホーでトルティーヤを作る)、新聞を読んでいる場面《Reading the Local Paper》(地元紙を読む)を描いたもの。この作品は最近所蔵品に加わり、現在初公開されている。

24. ユリア・ローマン《“Waltraud” Cow-Bench》(2004年)

ユリア・ローマン《“Waltraud” Cow-Bench》(2004) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist

展示場所:2階、第216室

生産のネットワークを考察する展示室「システム」には、ドイツ生まれのデザイナー、ユリア・ローマンによる作品がある。それは、頭もひづめもないつるりとした牛の形をした革のベンチで、グーグルマップの赤いピンマーク(2005年にイェンス・エイルストルップ・ラスムセンがデザイン)を拡大したものが貼られた壁の近くに置かれている。

一見、奇妙に思える配置だが、人間の労働と資源採取がアルゴリズムによる情報処理と並行して行われている今日の世界では、こうした組み合わせは不思議ではないのかもしれない。この作品でローマンは、人類が自分たち以外の動物との関係や、食肉産業の生産物やその副産物との関係について考えをめぐらすよう促している。

25. サンドラ・ムジンガ《Flo》(2019年)

サンドラ・ムジンガ《Flo》(2019) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist

展示場所:2階、第213室

サンドラ・ムジンガのホログラフィックインスタレーション《Flo》(ムジンガの実母の名がタイトルになっている)が、MoMAで展示されるのは今回初。さまざまなカツラや付けヒゲの図像とテキストを組み合わせたローナ・シンプソンの《Wigs》と同様、《Flo》のテーマは「可能性」だ。特にここでは、歴史の中で見えない存在とされたり、監視されたりしてきた有色人種が、無限のスペースとペルソナを自分のものにできる可能性が示されている。

この作品は、ムジンガが制作したウェアラブルな彫刻を身にまとった実在のパフォーマーをホログラム化したもの。人物の像が暗い部屋に浮遊しているように見え、鑑賞者の位置によって像が現れたり消えたりする。

26. マイケル・アーミテージ《Curfew (Likoni March 27 2020)》(2022年)

マイケル・アーミテージ《Curfew (Likoni March 27 2020)》(2022) Photo: Museum of Modern Art, New York. Courtesy of the artist and David Zwirner Gallery

展示場所:2階、第215室

イギリス系ケニア人のアーティスト、マイケル・アーミテージは、ケニアの時事問題を扱った作品を数多く制作している。《Curfew (Likoni March 27 2020)》はコロナ禍の時期に制作された作品で、最近MoMAが取得した。絵の中の人々は、不確実な時代を反映するかのように、一団にまとまろうとしているようにも、分断されつつあるようにも見える。

アーミテージは、ニューヨークのハーレム・スタジオ美術館の企画によるMoMAでのミニ展覧会「Projects」シリーズでも取り上げられており、2019年のMoMAのリニューアルオープン時に「Projects 110: Michael Armitage」展が開催されている。(翻訳:清水玲奈)

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