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  • 2023.08.22

警察の暴力がテーマの作品を行政が検閲か。突然の展覧会延期に非難の声

アメリカ・アリゾナ州メサ市で開催が予定されていた政治色の強いストリートアートの展覧会が突然延期され、同市が展示物の検閲をしたと非難の声が上がっている。問題とされたのは、警察の暴力をテーマにしたシェパード・フェアリーの作品だ。

問題視されたシェパード・フェアリーの作品《My Florist Is a Dick》。写真は2020年にローマで開催された展覧会の展示風景。Photo Samantha Zucchi/Insidefoto/Mondadori Portfolio via Getty Images

地元テレビ局のアリゾナズ・ファミリーによると、問題になったのは版画作品の《My Florist Is a Dick》(2015)。暴動鎮圧用の装備を着け、先端に赤い花の付いた警棒を持つ警官を描いたもので、顔の横にはこんな文章が記されている。

「近所の花屋はクソ野郎だ。奴が仕事を始めると、みんなの人生は終わる」

バラク・オバマ元大統領を描いた有名なポスター「Hope」の作者として知られるフェアリーによると、《My Florist Is a Dick》の人物は、ジョン・カーペンター監督のアクション・ホラー映画『ゼイリブ』(1988)に着想を得たという。

フェアリーはこの作品を、ミズーリ州で黒人青年のマイケル・ブラウンが白人警官のダレン・ウィルソンに射殺された事件の翌年にあたる2015年に制作。フェアリー自身が体験した警察による暴力──(公共空間に絵を描いた罪で)警察に拘束された際、持病の糖尿病のためのインスリン投与を認められず、警官に顔を殴られたというもの──に対する反発の意味も込めたという。「警官の多くが、権力を乱用している」と語っている。

《My Florist Is a Dick》は、複合文化施設のメサ・アーツ・センター内にあるメサ・コンテンポラリー・アーツ・ミュージアムでの展覧会に展示されるはずだった。フェアリーのほかに出展を予定していたのは、スウーン、トーマス・“ブリーズ”・マーカス、ダグラス・マイルズなどだ。

メサ・アーツ・センターの元アシスタント・ディレクター、ロブ・シュルツは、アリゾナズ・ファミリーの取材に、この作品の題材が市当局に問題視されたと語り、こう続けた。

「メサ市は図書館も運営していて、そこには警察官による暴力行為について書かれた本や新聞が置いてあるはずです。当局はそうした事件を取り上げる出版物を、人々の目に触れないように棚から引き揚げたりはしないでしょう」

非難を受けてメサ市が発表した声明によると、「メサ・コンテンポラリー・アーツ・ミュージアムの秋期展示が始まる6週間前の時点で、出品作家との契約手続きが完了していなかった」ために展覧会の延期を決めたという。また、内容が不適切な作品があったことも理由に挙げている(作品の題名は明らかにされていない)。

「ある作品にはメサ市職員への中傷ともとれる文言が含まれており、それが何らかの影響を及ぼすかもしれないとの懸念がありました。展覧会を延期することでメサ市は企画のプロセスを見直し、展示作品のメッセージが与える影響について判断できます」

延期の詳細についてメサ市は声明の中で、「電話番号を把握している」アーティストには電話で伝えたという。また、「要望があれば、参加アーティストを再び招聘し、改めてグループ展、または個展を計画します」とも書いている。

これと似た騒動が、8月上旬にオレゴン州ニューバーグにある展示施設、チェハレム・カルチュラル・センターでも起きた。警察予算削減を求める2020年の活動に関する作品が、展覧会の初日に撤去されていたのだ。

この作品を制作したネイティブアメリカンのアーティスト、デミアン・ディネヤジは、自分の作品がセンターから検閲を受けたと抗議。チェハレム・カルチュラル・センターはその後ディネヤジに陳謝し、職員が「不安を覚えるような攻撃」に晒されていたという事情があったとはいえ、地域コミュニティを支援する使命を果たせていなかったと述べている。(翻訳:野澤朋代)

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