ARTnewsJAPAN

ダミアン・ハーストの会社、コロナ支援金を受給しながらも従業員を大量解雇

英国政府に提出された書類によると、アーティストのダミアン・ハーストの会社が、2020年にコロナ対策の一時帰休支援金131万ポンド(177万ドル)を受け取りながら、数十人の従業員を解雇していたという。

ダミアン・ハースト Press Association via AP
ダミアン・ハースト Press Association via AP

ハーストの会社、サイエンス(UK)は、オークションで数百万ドルを稼ぐレディメイド作品や抽象絵画、考古学的な宝物を思わせる巨大彫刻の制作を手掛けている。アートニュースペーパー(The Art Newspaper)が2021年に報じたところによると、同社は4270万ポンド(5700万ドル)に相当するアート作品を保有しているという。

英国政府の企業登記機関、カンパニーズハウスに提出された書類では、サイエンス(UK)の従業員数は2020年末時点で156人。しかし、同年に64人の人員整理が行われている。

ハーストの所属ギャラリー、ガゴシアンの担当者にコメントを求めたが、返答は得られていない。

英国政府による一時帰休支援制度は、コロナ禍で経済的打撃を受けた企業の雇用を守るためのものだ。2021年の記事でアートニュースペーパーの取材に応じたサイエンス(UK)従業員の話では、同社が受け取った支援金は、リモートワーク化できないスタジオ作業に戻れるまでの間、ロックダウン中の従業員支援に充てられるはずのものだったという。

「コロナ禍は、ハーストのグループ会社やアートマーケット全般にとって、経営への大きな圧迫となった」と、カンパニーズハウスの監査記録には記されている。また、これとは別に、サイエンス(UK)を含むグループ会社が2020年に英国政府のコロナ緊急支援基金から1500万ポンド(2000万ドル)の融資を受けたとの報道もある。なお、グループの親会社はタックスヘイブンとして知られるジャージー島で登記されている。

サイエンス(UK)はパンデミック以前から業務を縮小していた。2018年には、「アート制作に集中したい」というハーストの方針により、50人の従業員が解雇されている。同じ時期に、彼はロンドンのソーホー地区に4000万ポンド(5400万ドル)で新しいスタジオを購入している。

コロナ禍で、ハーストはさらに自らの事業を見直す必要に迫られた。コロナ前に計画されていた北京の中央美術学院で大規模な回顧展が、ロックダウンのために中止となったのだ。

現在、ハーストの展覧会はスケジュール通り行われている。ニューヨークのガゴシアンで4月16日まで開催されている個展では、抽象画のほか、深海から引き上げられたようなディズニー・キャラクターの彫刻などが大きな反響を呼んだ「Treasures from the Wreck of the Unbelievable(難破船アンビリーバブル号の財宝)」シリーズが展示されている。展示作品は、すべて2020年以前に制作されたものだ。また、ロンドンのガゴシアンでは、彼を一躍有名にしたレディメイド作品の展覧会が開かれている。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月25日に掲載されました。元記事はこちら

あわせて読みたい