アニタ&ポジュ・ザブルドヴィチ(Anita and Poju Zabludowicz)
拠点:イギリス・ロンドン
職業:テクノロジー、不動産
収集分野:現代アート
ザブルドヴィッチ夫妻は、美術学校を卒業したばかりの若者たちの中から才能あるアーティストを見出し、作品を収集。その結果として、彼らの名声と3000点にも及ぶアートコレクションを築き上げた。夫妻は、フィンランドの島でアーティストレジデンシーを行い、ロンドンにある私設美術館で個展を開催することでアーティストを育てている。アニタはかつて英イブニング・スタンダード紙の取材にこう答えた。「死ぬまで『アーティスト』を集めたいと思っています。ただ作品を手に入れるだけでなく、その作家を深く知るために。彼らは私たちの『アートファミリー』の一員になり、私たちは彼らの成長を見守るのです」
夫妻が最初に手に入れたのは、ベン・ニコルソンの《Box & Cox》(1947)だった。「当初はモダン・ブリティッシュの作品を集めようと考えていました。「どんなものでもコレクションをするには勉強が必要ですが、あれはなかなか難しかったです」
2010年、アメリカ人アーティストのマシュー・デイ・ジャクソンが、ヘルシンキから1時間ほど離れたサルビサロ島にあるザブルドヴィチ夫妻の邸宅にやってきて、地面に穴を掘り、そこにブロンズで鋳造した骸骨を収めたガラスの棺を設置したいと言った。「彼が見せてくれたアイデアスケッチは素晴らしいものでした。だから制作を依頼したのです」と、アニタはカルチャー誌Wマガジンに語っている。骸骨の制作には島にある木や枝が用いられ、頭部は作家自身の頭を元に鋳造された。また、300点もの彫刻を並べたキース・タイソンの巨大インスタレーション《Large Field Array》をフィンランドで展示するため、夫妻は地元で入手可能なモミの厚板をはめ込んだ鉄骨の構造体を発注したこともある。
コロナ禍で世界の多くの地域が機能停止に陥ったときも、夫妻はサルビサロ島で新しい展示スペースの開設を進めていた。それは、数年前から取り組んでいたオスカー・トゥアゾンの大規模なコミッション作品に関連するもので、「私たちは長期的な視野に立ち、以前から温めていたプランを具体化するためにロックダウン中の時間を利用しました」と話している。
アーティスト育成の一方で、ザブルドヴィチ夫妻はたびたび論争の的になっている。2014年、あるアーティストグループが「Boycott Divest Zabludowicz」(BDZ)を組織して、夫妻に作品を売らないよう呼びかけるボイコット運動を展開。ポジュが親イスラエルであることや、軍用機サービス会社に出資しているのが理由だ。また、2021年にイスラエルの裁判所が、東エルサレムのシェイク・ジャラ地区からパレスチナ人を立ち退かせようとするユダヤ人入植者を支持する判決を下した後には、20人以上のアーティストが作品の「著作権ボイコット」を展開。BDZが配布した公開書簡には、アート界の数百人が署名した。これに対し夫妻は、「暴力や侵略が解決策でないことはよく理解しています。双方で失われた罪のない人命を悼みます」との声明を発表した。