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賞金は一人あたり約1億円! 2023年「天才賞」フェローシップが決定

2023年のマッカーサー財団「天才賞(Genius Grant)」フェローシップの受賞者20人が、10月4日に発表された。芸術や文化、教育、社会、経済などの分野で活躍する人に授与されるこの賞に選出された4人のアーティストを紹介しよう。

2022年のホイットニー・ビエンナーレ「Quiet as It's Kept」の展示より、ディアニ・ホワイト・ホークの《Wopila | Lineage》(2022)。Photo: Ron Amstutz

2023年の「天才賞」フェローシップに選ばれた4人のアーティストは、大規模個展を開催中のマリア・マグダレーナ・カンポス=ポンス、2022年のピューリッツァー賞を受賞したレイヴン・チャコン、第59回ヴェネチア・ビエンナーレに出展したキャロリン・ラザード、昨年のホイットニー・ビエンナーレに参加したディアニ・ホワイト・ホーク

同フェローシップでは、1人あたり5年間で80万ドル(約1億1900万円)の特別研究費が給付される。対象となる分野は芸術や文化、教育、社会、経済など幅広いが、アメリカのアーティストに受賞の可能性があるものとしては最も規模が大きい。実際、アメリカでこれほどの賞金が提供される美術賞はほかにない。

キューバ出身で、アメリカを拠点に活動しているカンポス=ポンスは、自身の経験に根ざした写真、ビデオインスタレーション、パフォーマンスなどを制作してきた。現在、ニューヨークブルックリン美術館で開催中の個展では、彼女の幅広い作品を見ることができる(2024年1月14日まで)。

その作品は、女性の労働形態から砂糖貿易の歴史と奴隷制度との関連まで幅広いテーマを扱い、キューバとアメリカの過去と現在における暴力の形を見るものに突きつける。また、アフロ・キューバの伝統や、キューバの部族の1つであるルクミーの宗教を題材にしたものも多い。

作曲家としても活動するディネ族系アメリカ人のアーティスト、レイヴン・チャコンは、2022年に音楽部門でピューリッツァー賞を受賞。同賞を受賞した史上初のネイティブアメリカンとなった。彼の作品の多くは音と記憶、場所の関係をテーマにしたもので、ライブパフォーマンスのほか、ギャラリーなどで展示するドローイングやビデオ、関連資料を発表している。

2022年のホイットニー・ビエンナーレにも参加したチャコンの作品は、現在ニューヨーク州北部にあるバード大学美術館の企画展「Indian Theater: Native Performance, Art, and Self-Determination since 1969」に展示されている(11月26日まで)。この展覧会で取り上げられているのは、ネイティブアメリカンやカナダを含む先住民のアーティストの作品に現れるパフォーマンスの概念だ。

2022年の第59回ヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示で作品を発表したキャロリン・ラザードは、アクセシビリティや労働の形態を扱った映画や彫刻を制作している。作品の多くはシンプルで、ミニマリズムや構造主義的な映画制作の視覚言語を想起させる。また、障がい者に焦点を当てたものも少なくない。

今年の春から夏にかけては、フィラデルフィアのインスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アートでラザードの個展が開催された。そのとき彼女はUS版ARTnewsに、「私は、私たちが生き続けるための労働に関心を抱いています。その労働とはケアであり、ケアワークなのです」と語っている。

ディアニ・ホワイト・ホーク(シチャング・ラコタ族)は、西洋の抽象絵画とネイティブアメリカンの工芸品を融合させたビーズ画で知られる。その作品を通してホワイト・ホークが主張しているのは、抽象画の創始者は、歴史書で書かれているような白人ではなかったということだ。彼女の作品は、2022年のホイットニー・ビエンナーレとバード大学美術館の「Indian Theater」展で、チャコンの作品と並んで展示された。(翻訳:石井佳子)

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