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バルテュスの重要作品がオークションへ。予想落札額が高い人気を示す一方、少女の描写をめぐる批判も

サザビーズは、シカゴ美術館から譲り受けた画家バルテュス(本名バルタザール・クロソウスキー・ド・ローラ)の絵画《La Patience》(1948年)を11月13日に開催されるモダン・イヴニング・オークションに出品すると発表した。予想落札額は1200万ドル(約18億円)から1800万ドル(約27億円)。収益は美術館のコレクション拡大のための資金に充てられる。

《La Patience》Photo: Courtesy of Sotheby's

《La Patience》(1948年)は、バルテュスのモデルであるジャネット・オルドリーがソリティアゲーム(一人で遊ぶゲーム)に熱中している様子を描いた作品。サザビーズは声明で、「本作はバルテュスが自身の作品の中でカードゲームというテーマに取り組んだ最初の作品。カードゲームは、その後、彼が何度も再訪することになるモチーフ」と説明している。

オルドリーは、時間の経過を象徴するヴァニタス(ラテン語で「空虚さ」を意味する言葉で、静物画のジャンルのひとつ)のシンボルの一つである火の消えたロウソクのそばにひとり描かれている。これらの象徴的な要素は、バルテュス作品に特徴的なキアロスクーロ(イタリア語で「明暗」を表す言葉。美術の領域では、ルネッサンス初期に発展した明暗のコントラストを表現する技術)の巧みな使い方と相まって、バルテュスのオールドマスターの画家たちへの敬愛を物語っている。

シカゴ美術館は1964年に、アンリ・マティスの息子でアートディーラーであったピエール・マティスから直接この絵を入手した。同館の広報担当者によれば、この絵はここ10年ほど展示されていないが、他の美術館の展示のためにしばしば貸し出されており、現在は香港のサザビーズのショールームに展示されている。

バルテュス作品がオークションに出品されるのは珍しいことではないが、サザビーズの現代美術担当副会長であるシャロン・キムは、《La Patience》のような重要な作品が市場で入手可能になるのは珍しいとコメントしている。

これまでも、ディアクセッション(他の作品購入の資金を得るために収蔵作品を売却すること)はいくつかの美術館で物議を醸してきた。美術館長協会(AAMD)は2020年に「一部の機関が保有する、使途制限付きの資金」の使用規制を緩和したが、今回の《La Patience》の売却も、新型コロナウィルスのパンデミックに起因する同美術館の経済状況を鑑み、そのガイドラインに従って行われる。

過去60年にわたり、《La Patience》はシカゴ美術館のジョセフ・ウィンターボッサム・コレクションの一部だった。1921年に設立されたこのコレクションには、常時35点の近代ヨーロッパ絵画が含まれており、エドワード・ドガ、クロード・モネ、フィンセント・ファン・ゴッホ、アンリ・マティス、ポール・ゴーギャンらの作品が含まれている。しかし、「継続的な評価と改善」というコレクションの使命を果たすためには、譲り受けた作品を手放すことでコレクションを更新していく必要がある。

この使命にもとづき、コレクションを監督するシカゴ美術館の近現代美術部門とヨーロッパ絵画・彫刻部門の学芸員は、《La Patience》の売却を決めた。同美術館に「定期的に展示されている2点」を含む多数のバルテュス作品が所蔵されていることも、この決断を後押しする要因となった。

シカゴ美術館の広報担当者は声明で「どの作品を手放すかを決めるのは常に難しい決断です。しかし今回の売却は、常に変化し続けるウィンターボッサム・コレクションの精神と指針を満たすものです」と説明している。

バルテュス作品は、ときに「謎めいたエロティックなポーズで物思いにふける思春期の少女を描いた作品」として批判の対象にもなってきた。メトロポリタン美術館では2014年に、バルテュス作品は「子どもを対象にした覗き趣味を支持している」ことから《Thérèse Dreaming(夢見るテレーズ)》(1938年)の撤去を求める署名運動が起こったが、同館はこれを拒否。また同じ年、ドイツのエッセンにあるフォルクヴァング美術館では、小児性愛を助長するという非難を受け、バルテュスのポラロイド写真展を中止している。今回のオークション出品は、こうした論争があってもなお、バルテュス作品には高い需要があることを示唆していると言えるだろう。(翻訳:編集部)

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