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フリーダ・カーロが妹を描いた唯一の肖像画がオークションへ。姉妹の間に亀裂が入る以前の初期作品

メキシコの著名画家、フリーダ・カーロが妹を描いた肖像画が、クリスティーズニューヨークオークションに登場する。8月に88歳で亡くなったアメリカ音楽界の重鎮、ジェリー・モスのコレクションから、11月9日の20世紀美術イブニングセールに出品される13作品の目玉となるものだ。

フリーダ・カーロ《Portrait of Cristina, My Sister》(1928) Photo: Courtesy Christie's

今回出品されるのは、フリーダ・カーロの絵画を含む13点に加え、12月のマーキー・ウィーク・デイセールとデザインセールにも出品されるモス・コレクション。その落札総額は、5000万ドル(現在の為替レートで約75億円、以下同)に上ると見込まれている。なお、どの作品も保証付き(*1)ではない。


*1 作品を出品してもらいやすくするため、オークションハウスが一定の金額で購入することを事前に出品者に保証すること。

敏腕音楽プロデューサーだったジェリー・モスは、1962年にミュージシャンのハーブ・アルパートとA&Mレコードを設立。カーペンターズ、ジョーン・アーマトレイディング、クインシー・ジョーンズ、ジャネット・ジャクソンをはじめとしたアメリカを代表するアーティストを世に出し、同社をインディペンデント・レーベルから一大レーベルへと育て上げた。

クリスティーズによると、特に注目されるカーロの《Portrait of Cristina, My Sister》(1928)は、フリーダ・カーロが実妹のクリスティーナを描いた唯一の肖像画だ。カーロがキャリア初期にこの作品を完成させたとき、姉妹の仲には何の問題もなかった。しかし、のちにクリスティーナがフリーダの夫である画家、ディエゴ・リベラと不倫関係を結んだことで、2人の関係にヒビが入る。

そんなクリスティーナの肖像画は、800万ドル〜1200万ドル(約12億〜18億円)の予想落札額が付いており、オークションにおけるカーロ作品で最高クラスの価格になると見られる。ちなみに、2001年にニューヨークで行われたサザビーズのラテンアメリカン・アート・セールでモスがこの絵を落札した際の価格は、170万ドル(約2億5000万円)にすぎなかった。

ここ20年、カーロ作品の落札額はうなぎ登りの様相を呈している。2021年にサザビーズ・ニューヨークに出品された自画像は3490万ドル(約52億円)で落札され、それまでの最高額800万ドル(約12億円)の4倍以上の記録を樹立した。

今回、この絵が予想落札額に達すれば、オークションにおけるカーロ作品で2番目の高額となる。しかし、クリスティーズで20世紀・21世紀美術担当バイスチェアマンを務めるマックス・カーターと、ラテンアメリカ美術シニアスペシャリストのマリソル・ニエベスによる共同声明では、この作品の「希少性」からすると「控え目」な予想額だとされている。

コレクション売却にあたって、故ジェリー・モスの妻であるティナは、モスは他人と一線を画す自分の審美眼に絶対の自信を持っていたとし、「彼は誰かに薦められたからというだけで買うことはなかった」と語っている。

また、出品される中には、カーロと同じく近年オークション価格が高騰しているタマラ・ド・レンピッカの、幼い娘キゼットが本を読む姿を描いた絵画《Kizette en rose II》も含まれている。

モスが1982年から所蔵していたこの作品の予想落札額は700万〜1000万ドル(約10億〜15億円)で、レンピッカのオークション落札価格で最も高額な作品の1つになると見られる。これまでのレンピッカの最高落札額は、2020年2月にロンドンのクリスティーズで記録した《マージョリー・フェリーの肖像》(1932)の1620万ポンド(約29億円)。

このほか、パブロ・ピカソアンディ・ウォーホル、トーマス・ハート・ベントン、マックス・エルンストらの作品も出品予定で、予想落札額は200万〜1000万ドル(約3億〜15億円)となっている。(翻訳:石井佳子)

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