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クリミアの財宝が約10年の係争を経てウクライナへ返還。ロシアは「クリミアに戻すべき」と反発

ウクライナクリミア半島の博物館からオランダの博物館に貸し出された、古代遊牧民族スキタイの金細工など565点が約10年ぶりにウクライナに返還され、11月28日、キーウで公開された。

2023年11月28日、キーウのウクライナ国立歴史博物館宝物庫で公開された、オランダから返還された文化財を撮影する報道陣。Photo: Dmytro Larin /Global Images Ukraine Via Getty Images

2013年、アムステルダム大学の考古学博物館であるアラード・ピアソン博物館は、展覧会「Crimea — Gold and Secrets of the Black Sea(クリミアー黒海の黄金と秘密)」を開催するため、クリミアの4つの博物館(タウリダ中央、ケルチ歴史文化保護区、バフチサライ歴史文化保護区、ヘルソネス・タウリダ国立保護区)から文化財の貸与を受けた。展覧会が2014年にドイツに巡回している間に、ロシアがクリミアへ侵攻し、クリミアは一方的にロシアに併合された。

貸与された文化財の中には、紀元前4世紀の金の兜や、約1キログラムの金のネックレスなど、古代遊牧民族スキタイの貴重な財宝も含まれており、総価値は約150万ドル(約2億2000万円)になるという。展覧会後、ウクライナとクリミアの4つの美術館はともに文化財の返還を要求し、アラード・ピアソン博物館はどちらに返却するべきか判断がつかず、法に委ねることにした。

同館のエルス・ファン・デル・プラス館長はこの件について声明で、「文化遺産が地政学的展開の犠牲になった、特殊なケースです」と話していた。

これら文化財の返却先をめぐって10年近く係争が続いていたが、2023年6月、オランダ最高裁はウクライナに文化財を返還しなければならないという判決を下した。11月22日には、ウクライナの文化大臣ロスティスラフ・カランデエフが政府のウェブサイトに声明を発表し、長年文化財を保護したアラン・ピアソン博物館に改めて感謝を伝えている。

カランデエフ大臣は、文化財はウクライナに帰属すると強調している。というのも、文化財の貸与当時クリミアはウクライナの領土であり、併合後のクリミアに戻せばロシアに奪われる可能性があるからだ。

文化財は11月26日、キーウのウクライナ国立歴史博物館に到着し、28日に公開された。アムステルダム大学の広報担当者は、「これらの品物が正当な所有者に返還されたことを嬉しく思います」とコメント。一方、クリミアの博物館4館は、当初の貸与契約で規定されていた通り、クリミアに返還されるべきだと主張している。

モスクワの通信社インテルファクスによると、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、11月27日に行われた記者会見で、「(コレクションは)クリミアのものであり、そこになければならない」と強調した。

2023年6月、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領はオランダ最高裁の判決を称え、X(旧ツイッター)に、「クリミアに返還できない理由は明白です。占有者であり、強盗には(文化財を)渡せないからです」と投稿した

そして、「クリミアにウクライナの国旗が掲揚された時、文化財はクリミアにあるでしょう」という言葉と共に、クリミア半島がウクライナに復帰した暁には、文化財を元の施設に戻す意思を示した。(翻訳:編集部)

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