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インスタのおすすめ“アートミーム”アカウント6選。アート界の裏側からネコの画像まで

インターネットミームとは、一般にネット上で拡散されて流行するネタ的な画像・動画・文章のことを言う。いわば内輪のジョークのようなものだが、それを見ていると、自分には縁遠い世界のことをうかがい知ることができる。

デュシャンはこれを「史上最強の痛い自慢」(2022)と名付けるべきだったね Instagram

アートの世界やアート制作に関するミームについても同じことが言える。その世界にどっぷり浸かっている人々が抱えるコンプレックスや課題を、楽しみながら理解できるようになるし、「アート界」と一括りにされている多面的な事象を、それぞれの立場の人がどう経験しているかを教えてくれるからだ。

たとえば、ロンドンの名門校に留学し、キュレーションを学んだ人物が運営する@freeze_magazine(フリーズ・マガジン)というアカウントは、裕福な実家のサポートなしにアート界に入ることのリスクについて、カタルシスまたは絶望、あるいはその両方を同時に感じさせるミームを作っている。一方、ジェットセッターのキュレーターでアーティストでもある@jerrygogosian(ジェリー・ゴゴシアン)は、一流作品の売買につきものの、えげつない社交術と策略の妙をパロディー化したコンテンツをアップしている。

また、こうした人気アカウントは、ソーシャルメディアの外にも活躍の場を広げている。@freeze_magazineはベルリンのWeserhalle Gallery(ヴェザーハレ・ギャラリー)でミームの展示を行った。また、@jerrygogosianはニュースレターを開始し、今はヴェネチア・ビエンナーレに行くための渡航費をクラウドファンディングで募っているところだ。

以下、インスタグラムで人気のアートミームとそのコンテンツを紹介する。

1. @JerryGogosian(ジェリー・ゴゴシアン)

「彼のスタートアップは新規上場を果たしたばかり。周りのお金持ちから認められるため、すぐに見せびらかすことができるアートコレクションが必要なのよ。だから、有名作家の高額作品なら何でも買うはず」「腐りかけの段ボールに描かれた、あのバスキア作品でも売っておあげなさい」 Photo: Instagram

情報通なら、みんな@jerrygogosianをフォローしている。運営しているのは、元ギャラリーオーナーでプライベートキュレーター兼アーティストのヒルデ・リン・ヘルフェンスタイン。現在はミームメーカーの肩書きで紹介されることも多い。10万人以上のフォロワーを集めるこのアカウントの人気の理由は、一読すればすぐ分かる。

リン・ヘルフェンスタインの歯に衣着せぬ鋭さは、アートマーケットと関わり続けてきたキャリアの中で培われたものだ。投稿からは、洗練されたお世辞に彩られた建前の裏側が垣間見える。そこに登場するのは、アーティストを搾取する人でなしのアートディーラーや笑えるほど必死なコレクター、そしてアート界独特の愚か者たちだ。世界中を飛び回り、健康志向なものに目がなく、詐欺師のような金持ちたちの素顔が容赦なく明らかにされている。暗澹たる現実を、面白おかしく描いて楽しませてくれるアカウントだ。

2. @Freeze_Magazine(フリーズ・マガジン)

「アートの世界から足を洗いたい」→「他に雇ってくれるところなんてない」→「潰しのきかないキャリアを選んでしまった」→「もうダメだ」→「アートの世界から足を洗いたい」・・・ Photo : Instagram

@jerrygogosianがアート界の中心にいる人物たちに焦点を当てているのに対し、@freeze_magazineが取り上げるのはその底辺にいる哀れな者たちだ。借金まみれで、他の業界に転職することもままならず、高度資本主義の論理で動く地獄絵図のような世界なことを承知のうえで、なんとか成功しようと頑張っている彼ら。引くに引けない状況に陥ったのも、もとはといえばアートに対する純粋無垢で世間知らずな愛のためだ。

アカウントの運営者は、Cem A.(セムA)と名乗る若者で、ロックダウン中に投稿を始めている。セムは、ロンドンの「有名大学」でキュレーションを学んだ後、今は母国に戻っている。ある時セムが筆者に打ち明けてくれたところでは、自分が感じている将来への展望のなさや失望感が、見る人の共感を呼ぶのではないかという。パンデミックが収束に向かっている今、セムもキャリアを再開して元の生活を取り戻しつつある。だが、今もアート界で下積みを続ける人々のコミカルな肖像をミームに描き続けている。

3. @ArtHandlerMag(アート・ハンドラー・マグ)

「あの壁を取っ払ったのは、強度的にマズかったね」 Photo: Instagram

アート界にも、小難しい理屈とは無縁のエッセンシャルワーカーたちがいる。すなわち、搬入・搬出や設営に携わる専門職、アートハンドラーだ。そんな縁の下の力持ちを称えるのが、@arthandlermagというアカウント。ギャラリストや美術館の理不尽な要求に対するぼやき、仕事で使うスゴ技紹介、そしてワークウェアブランドのカーハートや、ガムテープ、水平出しなどに関するミームが投稿されている。高給すぎるとの指摘もあるキュレーターを技術的に支えるアートハンドラーたちは、薄給に甘んじているのが現実だ。このアカウントは、幅広いスタッフの待遇改善を呼びかける美術館の組合活動の推進役にもなっている。

4. @ServingthePeople(サービング・ザ・ピープル)

「進化よ、抽象概念を伝達するための記号システムを授けてください」「それ以上単純化できない人間存在の特性を表現できるように」「よっしゃー」「そして、内輪の人間しか理解不能な自己言及的な表現のシステムを編み出す」「無についての新たな展覧会がパリで開催:9つの空っぽの展示室を使い、50年にわたる空虚の美を称える“これまで類を見ないラディカルな展覧会”」「現代アートの時間」 Photo: Instagram

ルシアン・スミスのアートNPO、サービング・ザ・ピープル(Serving the People)のインスタは、まさにキラーコンテンツだ。自虐と芸術理論が混在する@servingthepeopleのミームは、見る者を笑わせつつ、自分が受けた芸術教育が時間の無駄ではなかったと思わせてくれる。また、このアカウントはアート作品も定期的に紹介している。皮肉や羨望が混じる投稿が続くインスタ画面をスクロールしながら毒気に当てられたと感じる時、ふと美しい作品の画像に出会うと心が洗われるものだ。

5. @theNannyArt(ザ・ナニー・アート)

Photo: Instagram

頭を空っぽにして、おしゃれな服を楽しむのも悪くない。@thenannyartは、フラン・ドレッシャーがコメディドラマ「The Nanny(ザ・ナニー)」で着ている服を、バーバラ・クルーガーやマイク・ケリーといったアーティストの有名作品と並べて投稿している。意見や解釈もなし、議論もなし。ただ眺めるだけの至福の時間だ。1つだけ意見を言わせてもらえるならば、アーティスト名だけでなく、作品名も載せるべきじゃないだろうか。

6. 特別枠:@earlboykins2(アールボイキンズ2)

Photo: Instagram

これは、ネコ画像のためのアカウントで、アートミームではないかもしれない。だが、ネコ画像はミーム文化の起源であるだけでなく、インターネット文化そのものとも言えるのではないだろうか。実際、この写真を投稿しているのは、アーティストのアンドリュー・クオだ。不条理とバカバカしさのシンプルな記録。これ以上、何が必要だと言うのだろう?(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年4月18日に掲載されました。元記事はこちら

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