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  • 2024.03.01

今週末に見たいアートイベントTOP5: 約600点で中平卓馬の人生と仕事に迫る、4作家の創作から考えるエコロジーの実践

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ2 『つかの間の停泊者』ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカ」(銀座メゾンエルメス フォーラム)より。All Photo credit:©Nácasa&Partners.inc./Courtesy of Foundation d'enterprise Hermés

1. 「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」(東京都現代美術館)

《前例》2015年 gigei10蔵 撮影:柳場大 (「MOTコレクション第3期 いまーかつて 複数のパースペクティブ」東京都現代美術館、2019)

近年再注目される豊嶋康子の制作を約500点で一望

東京藝術大学在学中の1990年から30年以上にわたり、人々を取り巻く制度や価値観、約束事に対して「私」の視点から独自の方法で対峙し続けてきた豊嶋康子。彼女の制作は、特に実際に制作を行う作家たちの間で大きな支持を得てきた。本展では、豊島の初期から新作まで、同館の所蔵作品および個人蔵の作品も含めたおよそ500点で、近年改めて注目されている豊島の制作を一望する。

見どころは、全面修復の上に33年ぶりに公開された、1990年に田村画廊と西武高輪美術館(軽井沢)で展示された作家デビュー作「マークシート」、《エンドレス・ソロバン※西武高輪美術館のみ展示》。中でも「マークシート」は、豊嶋が自身の表現をつかんだ重要な作品だ。展示空間は、作家の構想に基づき、個々の作品が持つ構造に応じてグループ化されている。緩やかに立ち現れる作品同士の関係性も楽しんでもらいたい。

豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表
会期:12月9日(土)~ 3月10日(日)
会場:東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)
時間: 10:00~18:00(入場は30分前まで)

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2. 中平卓馬 火―氾濫(東京国立近代美術館)

中平卓馬《「サーキュレーション―日付、場所、行為」より》1971年 東京国立近代美術館 ©Gen Nakahira

戦後写真界の巨匠、中平卓馬の思考と実践の軌跡

日本の戦後写真の転換期となった1960 年代末から70 年代半ばにかけて、実作と理論の両面で大きな足跡を記した写真家、中平卓馬(1938-2015)。1960 年代末に「PROVOKE」誌などに「アレ・ブレ・ボケ」を特徴とする強烈なイメージの写真を発表し、1973年には評論集『なぜ、植物図鑑か』で自己批判と方向転換を宣言。同時代に活躍した森山大道篠山紀信らを大いに刺激し、ホンマタカシら後続の世代にも多大な影響を与えてきた。

本展では、中平の仕事を改めて丁寧に辿り、その展開を再検証しながら、中平の写真をめぐる思考と実践の軌跡を明らかにする。 初期から晩年まで約600 点の作品のほか、近年その存在が確認された《街路あるいはテロルの痕跡》の1977 年のヴィンテージ・プリントを初展示。同年に昏倒し、病で中断を余儀なくされた模索の時期の仕事にも焦点を当て、再起後の仕事の位置づけについて改めて考える。

中平卓馬 火―氾濫
会期:2月6日(火)~ 4月7日(日)
会場:東京国立近代美術館(千代田区北の丸公園3-1)
時間: 10:00~17:00(金・土曜は20:00まで)


3. ニナ・カネル + 和田礼治郎 「42 Days」(SCAI PIRAMIDE)

ニナ・カネル / 和田礼治郎「42 Days」SCAI PIRAMIDE(2024年)展示風景 撮影:表恒匡 協力:SCAI THE BATHHOUSE

時間の流れも構成要素。ドイツ在住アーティストの2人展

ドイツを拠点に活動するアーティスト、ニナ・カネルと和田礼治郎の2人展。2人の作品は、共通して独自の芸術言語を用いて、絶え間なく動きながら循環する物質と環境の移り変わりの関わりを探っている。本展では、近作の立体を中心に、カネルと和田の作品が二つの重なり合う空間に配置される。

カネルが日本で制作した《Days of Inertia》(2024)は、床に直置きした伊達冠石の石板2枚に水が薄く張られているが、石板の縁を水を弾くナノスケール(極薄)の膜でコーティングしているので、水は床にこぼれず、空気の流れや振動に応じて水面にゆらぎを見せる。和田の《STILL LIFE》(2024)は、変形したトリプティクス(三連の祭壇画)のようにガラス板が斜めに配置され、その隙間にいくつもの果物が投げ込まれている。停止した時間のパノラマとも言うべき情景を乱すように、時間の経過とともに果物は熟して萎み、時折地面に落下する。2人の作品は、開催期間中の時間の経過や、人間や非人間のアクションが介入し、持続するエネルギーの力が空間に作用を及ぼす影響も展示の構成要素のひとつと捉えている。そういった部分も加味して展示を楽しみたい。

ニナ・カネル + 和田礼治郎「42 Days」
会期:2月15日(土)~ 5月25日(土)
会場:SCAI PIRAMIDE(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル 3F)
時間: 12:00~18:00 月~水曜・祝日休み


4. 「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ2 『つかの間の停泊者』ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカ」(銀座メゾンエルメス フォーラム)

All Photo credit:©Nácasa&Partners.inc./Courtesy of Foundation d'enterprise Hermés

4作家がアートで実践するエコロジーとは。待望の第2弾

アートにおけるエコロジーの実践を問う展覧会シリーズ「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ」展の第2章。「つかの間の停泊者」と題し、ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカの4人のアーティストの創作を紹介する。

世界各地の海や河川に自ら潜りながら、水面下の景観と生息環境、生態系の撮影を続けるニコラ・フロックは、緑と青の色調を水から取り出した《La couleur de l’eau(水の色)》(2018~2020)など、通常目にすることのない地球環境や人間活動の領域を科学的に、またコンセプチュアルな手法で記録する代表シリーズを展示。森美術館「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」展にも出展するケイト・ニュービーと保良雄は、東京の中にある2つの地点やアーティストの活動拠点となる地域とのつながりから、エコロジーのネットワークを構築している。ニュービーは、テキサスと栃木県益子町で制作したセラミック作品を並べ、保良は、都市の生態系の中に、太古の時間や都市の地政学を持ち込むことで、エコロジー思想にも潜在する優劣や格差への批判を込めたアプローチを展開する。

美術史を再訪しつつ、過去の作品の流用と再利用に見出される可能性を、エネルギーが新たな回路へ接続するプロセスとして解釈するラファエル・ザルカは、幾何学的なパブリックアート作品に潜在する動きのダイナミズムがスケートボーダーによって可視化される様子を写真に納めたシリーズ「Riding Modern Art(ライディング・モダンアート)」(2007~2016)を展示。同作品は東京日仏学院で開催中の、ザルカの個展でも見ることができる。

「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ2 『つかの間の停泊者』ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカ」
会期:2月16日(金)~ 5月31日(金)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム(東京都中央区銀座5-4-1)
時間: 11:00~19:00(入場は30分前まで)※エルメス銀座店に準じる


5. LABONCHI 02. 雨宮庸介『まだ溶けていないほうの山梨県美』(山梨県立美術館)

雨宮庸介の創作をリアルと仮想空間で体験

美術館内とメタバース空間で展開されるシリーズ企画「LABONCHI」の第2弾は、山梨県市川三郷町在住の美術家、雨宮庸介を招聘する。雨宮は、2011年に渡欧し、2013年にはオランダ・アムステルダムのSandberg Instituteを修了。近年までドイツ・ベルリンで活動していた。溶けた状態の林檎を彫刻で作り出すことで、普段現実では起こりえない現象や状況を生み出し、鑑賞者の認識に変化を起こす「溶けた林檎の彫刻」シリーズや、小さな石6個を6人がひとつずつ持ち、5年毎に引き継ぎながら1300年間ただ持ち運ぶ《1300年持ち歩かれた、なんでもない石》などユニークな創作で知られている。

雨宮は、彫刻作品や映像、パフォーマンスなど様々なメディアを用いてきたが、これまでの作品のテーマとしてV(仮想)とR(現実)を取り扱う事が重要であり、探求する事柄であったと語る。本展では、VR(仮想現実)ヘッドセットで見ることが出来る、デジタル映像作品を展示する。雨宮の創造する空間は現実世界と仮想現実の境界を緩やかにし、現実世界の面白さを投げかけてくることだろう。

LABONCHI 02. 雨宮庸介『まだ溶けていないほうの山梨県美』
会期:2月27日(火)~ 3月24日(日)※3月4日(月)~11日(月)臨時休館
会場:山梨県立美術館(山梨県甲府市貢川1-4-27)
時間: 9:00 ~17:00(入場は30分前まで)※3月17日(日)14:00 ~ 14:30VR休止

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