戦後ドイツを代表するアンゼルム・キーファーの倉庫に3度目の強盗。目的は作品ではなく素材?
11月30日未明、フランスのクロワシー=ボーブールにある、戦後ドイツを代表するアーティスト、アンゼルム・キーファーの倉庫に強盗が押し入り、キーファーの彫刻の一部など総額100万ドル(約1億4800万円)相当が盗まれたと、地元の検察当局が発表した。
アンセルム・キーファーのどの作品が盗まれたのかは明らかにされていないが、本棚に鉛の本を収めた彫刻シリーズの一つだと思われる。《大祭司/Zweistromland》(1985/86)をはじめとするこの彫刻シリーズは、戦後ドイツのトラウマを探求するために制作されており、鉛の重い本は、ナチスが保管したアーカイブを暗示している。
捜査を行った近隣の町モーの検察官がガーディアン紙に語ったところによると、CCTVの映像には、4人の人物が駐車場の壁を破って敷地内に侵入し、作業場の鉄柵を破壊してから、作品の一部である鉛の本を持ち去る様子が映っていたという。
窃盗団がキーファーの芸術作品を持ち去ったのは今回が初めてではない。2016年には、13トンの本の彫刻が、何トンもの未加工の大理石とともに盗まれ、200万ユーロ(現在の為替で約3億1900万円)以上の損害をもたらした。そして2019年にも、倉庫にあったキーファーの彫刻を破損し、鉛の一部を持ち去ろうとした窃盗団を警備員が追い払っている。
フランスの捜査当局は、いずれの事件も窃盗団の目的は作品そのものではなく鉛などの素材の収益化であり、美術品の価値を理解していなかったと推測する。今回の件について、モーの検察当局も同じ見解を示している。
キーファーについては、今年5月から、その芸術とキャリアを振り返るヴィム・ヴェンダース監督による新作ドキュメンタリー映画『アンゼルム』が世界で順次公開されている。12月8日には、アメリカとイギリスで公開される予定だ。3D撮影による没入感ある映像を体験出来るこの作品には、彼の倉庫の映像も登場する。(翻訳:編集部)
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