レンブラントは鉛で湿気対策をしていた!? 《夜警》の調査プロジェクトで新発見
アムステルダム国立美術館に所蔵されるレンブラントの代表作《夜警》(1642)に対する調査で、《夜警》のキャンバスに下地を塗る前に、鉛を含む物質を塗っていたことが新たに分かった。12月18日、『Science Advances』誌が発表した。
レンブラントの《夜警》(1642)の調査と保存を行う過去最大規模のプロジェクト「夜警作戦」は、2019年7月から始まった。レンブラントが下地に石英粘土を使っていたことは以前の研究ですでに知られていた(それ以前は、赤土の顔料を含む下地と鉛白を含むものを重ねていた)が、研究者たちは、1975年に起こった襲撃事件で出た多くの絵の具片を含む作品から採取された絵の具のサンプルを、蛍光X線とタイコグラフィー(*1)を用いた高度なコンピューター画像分析にかけ、キャンバス下層部の化学化合物の見極めと可視化を行った。その結果、下地に使った石英粘土の層の下に鉛を多く含む層があることが判明したのだ。
*1 マイクロメートル大に集光したX線で照射野の一部が重なるように試料上をスキャンして多数の回折パターンを収集し、照射野の重なった領域の構造が一致するよう反復計算を行うことで試料像を再生する方法。
蛍光X線スキャンでキャンバス全体の鉛分布図を比較すると、大きな半円のストロークが確認され、全体にまんべんなく鉛が含まれていたことから、鉛層は大きな半円形の筆で塗られたと推測される。また、鉛の分布図にストレッチャー・バー(キャンバスを張る木枠)の跡もあったことから、鉛はキャンバスを張った後に塗布されたと考えられる。
レンブラントは積極的に新しい技法に挑戦した画家ではあったが、彼の他の作品や、同時代の作家の作品に鉛が使われていた形跡は現時点で見つかっていない。
なぜレンブラントは、《夜警》のキャンバスに鉛を塗ったのか。ひとつの説は、この作品が現存するレンブラントの作品としては最大となる3.63 × 4.37メートルの大作であり、制作費を削減するために下地層に鉛を使用したのではないかという見方だ。また、この絵が当初飾られていたアムステルダムのクロヴェニエス・ドーレン(銃士たちの射撃場)の大ホールは湿度が高かったため、湿気からキャンバスを守ろうとしたのではないかという説もある。(翻訳:編集部)
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