カイロの著名アートセンターを展示ごと解体。新首都建設に伴う再開発で価値ある作品が失われる
エジプト・カイロの代表的なアートセンターであるダルブ1718(Darb 1718)が、1月6日に事前通告なく取り壊されたことを同センターのインスタグラムが伝えた。カイロでは首都移転計画に伴う再開発が急ピッチで進んでいる。
ダルブ1718は、突然の解体をインスタグラムへの投稿でこう非難している。
「カイロの歴史地区を象徴する建造物で、さまざまな現代アーティストや工芸職人を受け入れてきたダルブ1718の主要部分が、事前通告も補償もないまま取り壊されたことを伝えなければならず、深い悲しみと強い憤りを感じています。これは、カイロで進行する再開発が歴史的な文化遺産を脅かすものであり、地域のコミュニティを無視した立ち退きが強制的に行われていることを如実に示すものです」
エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は、人口過密を打開しようと、カイロの東50キロほどの場所に590億ドル(約8兆7000億円)を投じた新行政首都建設を進めている。その一環として、6000キロを超える新しい道路や約900ものトンネル・橋梁の建設が行われているが、こうした大規模開発のあおりを受け、歴史地区全体が破壊されつつある。当局によると、ダルブ1718の建物も幹線道路の拡張のために撤去された。
昨年8月にエジプト政府は、伝統工芸の技を引き継ぐ職人が多く住むオールドカイロ(フスタート)地区にある建物の解体を開始。ダルブ1718の創設者モアタズ・ナスレルディンがニューヨーク・タイムズ紙の取材に答えたところによると、同センターも幹線道路の高架化のため取り壊しになることをそのとき政府関係者から聞かされ、翌9月には当局から退去・閉鎖を命じられた。
16年前のオープン以来、ダルブ1718はカイロで最も古い文化センターの1つとして、展覧会やコンサート、イベント、ワークショップを開催してきた。その名前は、同センターを発案したアーティストのモアタズ・ナスルが、1977年1月17日と18日にエジプトで起きた「パン暴動」に参加したことに由来する造語で、「芸術的・文化的な豊かさを通じ、社会に前向きで永続的な変化をもたらす道を歩む」という意志を示すものだという。
1月初旬、センター創設者のナスレルディンは、エジプトで人気のあるラミス・エルハディディのTVトークショーに出演し、「相当な金額にのぼる150人の外国人アーティストの作品」が破壊され、センターの展示ホールと2つの工房がブルドーザーで取り壊されたと語った。
これに対し、いつもは政府を擁護する側に回る司会のエルハディディが、めずらしくエルシーシ政権を批判。AFP通信は彼女の言葉をこう伝えている。
「私たちは自らの歴史や古いカイロを憎み、道路やアスファルト、橋だけの都市を望んでいるようだ」(翻訳:石井佳子)
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