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「何事にも臆せずに、このような制作を普通に続けていきたい」──村上慧【TERRADA ART AWARDファイナリスト・インタビュー】

現在、寺田倉庫G3-6Fで開催中の「TERRADA ART AWARD 2023」ファイナリスト展では、5人のファイナリストが新作を発表している。アワード受賞は彼らにとってどんな意味を持つのか。それぞれに、そこから得た気づきや新たな挑戦について話を聞いた。

Artwork: Satoshi Murakami, Photo: Yusuke Suzuki (USKfoto)

──日本には様々なアートアワードがあると思いますが、「前例は、あなたが創る」というテーマを掲げるTERRADA ART AWARDに応募された理由を教えていただけますか?

これまで何度かギャラリーや美術館での発表を経験しつつも、基本的には公共空間で独立したプロジェクトを行うことを重視してきました。ですが今回、いわゆる展覧会という形で発表を行うTERRADA ART AWARDに応募したのは三つの理由があります。

第一に、一人でプロジェクトを細々とやっていても波及力に限界があることを感じました。私の活動をより多くの人に知ってもらうことは、人々によい影響を及ぼすと考えています。TERRADA ART AWARDという大舞台の力を借りて、それを達成したかったのです。

第二に作品の見せ方を追求したいと思いました。金沢21世紀美術館で2020年に実施した展示「村上慧 移住を生活する」の経験から、私は、観賞の形式が定まっている(美術館のような)場に活動を「翻訳」し、観客が受容しやすい形で発表することは、今後の活動をより意味のあるものにするためにも有効であることを実感しました。

第三に金銭的な問題があります。資金不足には常に悩まされていますが、私は活動を続けたいと考えています。TERRADA ART AWARDの賞金は、その大きな助けになります。また、上に挙げた第二の理由を満足のいく形で遂行するためには、展覧会の構築に十分な資金があることが望ましく、このアワードにはそのための条件が揃っていました。

──今回発表されている作品のテーマやコンセプトについて教えてください。 

この作品は、舞台上で草の茂みに扮した何者かがブロック塀の上から「わたし、ただの書き割りなんだけど。セリフも何もないんだけど」と不安げに話しかけてくる夢を見たことから着想を得ました。何もわからないまま舞台に上げられてしまっている茂みの様子は、参加した覚えのないゲーム(資本主義という制度のもとで生きることなど)の中で生きることを強いられている現実の私と重なりました。同じころ、認知症気味の祖父が家の廊下にあるコートハンガーのことを人間だと思っていることがわかりました当然コートハンガーは人間ではないのですが、しかし祖父にとっては紛れもない「現実」なわけで、だとすればコートハンガーと人間がイコールである世界というのも、ひとつの現実として受け入れるべきですよね。

いつも見かけているような気がするけれど、いつからあるのかと聞かれたらよくわからないようなものが街には溢れています。人間の認知能力や記憶力は不完全で、例えば昔見た夢と過去の記憶が私の中で混ざり合うこともあります。私たちが「現実」とみなしている記憶はそもそも頼りないもの。それを輪郭線という、ものに形を与える線を使って、ある種の「模型化」を試みている作品と言えるかもしれません。

──今回のアワードへの応募を通じて、挑戦したかったことを教えてください。またその挑戦は、ご自身のアーティストとしての成長・ブレイクスルー・キャリアパスにおいて、なぜ重要だったのでしょうか? 

これまでも、日々の私的な生活を公共的な問題に接続する制作を行ってきたつもりですが、今回は 「夢」という、ある意味で最も私的な体験を起点にしています。そんな体験からどこまで遠くに行けるのか、できあがるものは果たして作品として他人に見せるに値するものになるのか、その飛距離の長さが個人的には挑戦でした。

これはコロナ禍から習慣になりつつある「小説を書くこと」 のひとつの訓練としても重要でした。また、ホワイトキューブという現代美術の舞台で、これまでのように公共空間で行ったアクションの記録を展示するのではなく、完全に一から作品を立ち上げるという経験も今後のために必要なことでした。

Artwork: Satoshi Murakami, Photo: Yusuke Suzuki (USKfoto)

──作品を発表する上で空間は非常に重要な要素であると思いますが、その意味で、寺田倉庫のこの 空間は、今回の挑戦においてどんなふうに作用しましたか?

予想していたことですが、他の作家と空間を共有する形で行われるので、それぞれの作品から出る音の干渉があります。また音が響く空間なので、それが鑑賞体験にもたらす影響も大きかったですね。 私はそういった要因を少し甘くみていた面があるなと今回の展示で学びました。これは作用というよりも、事後的に発見した反省点ですが。

──今回発表される作品を実現していくにあたり、ご自身がもっとも達成感を得られたこと、成功したと思われることを教えてください。逆に、困難や今後の課題であると感じた点でも結構です。 

自分の作品において何が起きているのか、まだわかりません。これから少しずつ見えてくると思います。テクニカルな話をすれば、映像の同期再生や、鑑賞されることだけが目的の立体物の制作など、何から何まで初めての挑戦でした。結果的にとても変な作品が立ち上がり、それを自分でもいいと思えたことはよかったです。白い舞台のような床の設えが、作品の中と外を結びつつ隔てるような、立ち入るときはすこしだけ躊躇するけど、同時に入ってみたくもなるような空間が作れたことも、思いがけない達成でした。夢と現実は違う世界だと思われがちですが、踏み越えてしまえばなんてことのないもので、そこには同じ地平が広がっているだけなので。

──「前例のないことをやる」という行為/態度は、アーティストであり続ける上で、どれくらい重要で しょうか? 「前例のないことをやる」ために、日々、どんなことを訓練したり実践したりしていますか?

特に考えたことはありません。先達たちの仕事をその身に受けるのは当然として、その上で自分の体を使って突き詰めれば何事も前例のないものになるのではないでしょうか。

──今回の受賞を機に、さらに挑戦してみたいことや展望があれば教えてください。 

前にも記しているように、純粋なインスタレーションを制作するのは今回が初めてでした。引き続き、何事にも臆せずに、このような制作を普通に続けていきたいです。

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