「過去を更新して、未来につながれる方法をブツブツ言いながら考えている」──金光男【TERRADA ART AWARDファイナリスト・インタビュー】

現在、寺田倉庫G3-6Fで開催中の「TERRADA ART AWARD 2023」ファイナリスト展では、5人のファイナリストが新作を発表している。アワード受賞は彼らにとってどんな意味を持つのか。それぞれに、そこから得た気づきや新たな挑戦について話を聞いた。

Artwork by Mitsuo Kim, Photo by Yusuke Suzuki (USKfoto)

──日本には様々なアートアワードがあると思いますが、「前例は、あなたが創る」というテーマを掲げるTERRADA ART AWARDに応募された理由を教えていただけますか?

初めは、コレクターの島林秀行さんからエントリーのURLだけがメッセンジャーに送られてきたことがきっかけです。刷新された2021年ファイナリスト展の盛り上がりや注目度、緊張感、その後の活躍などを知っていたので、いいアワードだなと思っていました。何より1次応募システムがWEB上で完結してることや、年齢制限も30半ばになると除外されるアワードが多いなか、45歳まで対象だったこと(より緊張感が増します)、そこまで難しくない提出条件などが応募した主な理由です。

──今回発表されている作品のテーマやコンセプトについて教えてください。 

物理的・心理的分断や別れ、日常、逃げ生き延びること。それすらも叶わないこと。そして、矛盾をも抱えながら進むことが本作のテーマとなっています。

──今回のアワードへの応募を通じて、挑戦したかったことを教えてください。またその挑戦は、ご自身のアーティストとしての成長・ブレイクスルー・キャリアパスにおいて、なぜ重要だったのでしょうか? 

これまで基本的に一人で作品を完結させてきたのですが、今回空間の中心にある蝋でできた数百kgのカヌーは1人では到底実現できない彫刻作品でした。外注や共同作業でどこまで自分の作品として落とし込めるかなどが挑戦でした。これから先、国内外の広大な空間で発表する機会があった場合、今回のように共同作業も混えてプランニングが出来るようになりました。

──作品を発表する上で空間は非常に重要な要素であると思いますが、その意味で、寺田倉庫のこの空間は、今回の挑戦においてどんなふうに作用しましたか?

倉庫という性質上、消防法や厳格なルールがありました。僕が主に使用しているパラフィンワックスは使用量によっては危険物となる場合もあります。実際、寺田倉庫で展示する際も安全面での確認がありましたし、最終プランを提出する際には、消防法などをクリアするために管轄の消防署などに言質を取り、書類を作成しなければなりません。そういったプロセスを経て、当初のプラン通りに展示することができました(乃村拓郎氏! 本当にありがとう!)。

また、会場の規約や制限(現状復帰やアンカー禁止など)があるなかで、理想的な空間を作り上げるための素材のチョイス方法など、多くの方の知恵を借り、作り上げたことは今後の活動に活きる大きな財産をもたらしてくれました。

Artwork by Mitsuo Kim, Photo by Yusuke Suzuki (USKfoto)

──今回発表される作品を実現していくにあたり、ご自身がもっとも達成感を得られたこと、成功したと思われることを教えてください。逆に、困難や今後の課題であると感じた点でも結構です。 

重複してしまいますが、多くの方に助けてもらいながら共同作業で造り上げられたことの達成感はとても大きいです。蝋のカヌーが想像を優に超えた溶け方をし、境界を越えて流れながら変容していったことには手応えを感じました。地で冷え固まったワックスを鑑賞者が避けたり、時には踏みつけたりしながら展示空間内を動いているのはよい成功です。今後の課題としては、ライティングのことをより緻密に計算し、場合によっては自前で光を持ち込む事も考えなければと思っています。あとは、建築資材や施工方法の理解も深めていきたいです。

──「前例のないことをやる」という行為/態度は、アーティストであり続ける上で、どれくらい重要で しょうか? 「前例のないことをやる」ために、日々、どんなことを訓練したり実践したりしていますか?

「前例がないことをやる」という言葉は聞こえはいいのですが、怖さも感じてしまいます。まず先人たちがいて現在があることと、前例がないことに囚われすぎてしまうのは、可能性を潰してしまうと思います。もちろん、前例がないオリジンになることは理想ですし、チャレンジし続けることは大切です。とはいえ、前例がないことをやるために日々訓練・実践をした覚えはありません。同じ時代を生きていれば、プランやコンセプト、技法が同時多発的に被る事が多いですし。

自分が意識していることの例をいくつか挙げるとすれば、表層の裏の意味や物事の関係性、歴史などをつなげたり切ったりすること。それをこじつけたり間違えたりすること。どうすれば過去を更新して未来につながれるのかを、ブツブツ文句言いながら考えています。

──今回の受賞を機に、さらに挑戦してみたいことや展望があれば教えてください。 

まずは作品制作や活動を続けていくことが大事だと思っています。挑戦や展望は海外レジデンスや展示にアプライし発表の場などを広げていきたいです。2021年に実母の実体験をもとにお菓子のビスケットを真鍮にした作品を制作しました。それと関連する作品や技法を深めていき、発表しようと思っています。

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