「ピサの斜塔をまっすぐにするようなもの」──エジプトのピラミッド改修を考古学者が批判
エジプト・ギザで進行中のピラミッド改修工事が、考古学研究者の間で問題視されている。エジプト政府によるこの保存整備事業には、日本の考古学者も参加している。
改修工事が行われているのは、ギザの三大ピラミッドの中で一番小さいメンカウラー王のピラミッド。建造当初は下部が花こう岩で覆われていたが、長い年月のうちに失われてしまった。今も周辺に散らばっている花こう岩はピラミッドからはがれたものとされ、改修プロジェクトチームによると過去1000年以内に起きた地震で落下したという。
同プロジェクトでは、花こう岩の化粧石を再建して建造当初の外観に戻すことを目指している。しかし、エジプトの考古学研究者からは、この計画は「ピサの塔をまっすぐに直すようなもの」とする批判の声が上がった。
1月26日、エジプト考古最高評議会のムスタファ・ワジリ事務局長は、フェイスブックに動画を投稿。そこには、大スフィンクスや他の2つの大ピラミッドに隣接するメンカウラー王のピラミッドの下層部に、花こう岩を設置する作業員が映っていた。メンカウラー王のピラミッドでは、当初16列の花こう岩が最下部外側の層を構成していたが、現在はそのうち7列だけが残っている。
ワジリは動画の中でこう語っている。
「歴史上には数多くの『世紀のプロジェクト』がありますが、メンカウラー王のピラミッドにおける花こう岩の外壁修復は、まさにその1つと言っていいものだと思います」
ワジリはまた、このプロジェクトは「エジプトから世界への贈り物」だし、現代においてメンカウラー王のピラミッドを「完全な姿で見る」ことを可能にするものだと胸を張る。
しかしこの動画には、専門家たちから多数の批判や嘲笑のコメントが付いた。AFP通信の報道によると、エジプト学者のモニカ・ハンナはこう書き込んでいる。
「ありえない! メンカウラー王のピラミッドで足りないのは、タイルを貼ることだけだったのに。いつになったら、エジプトの歴史的文化遺産の不適切な管理を止められるのだろうか? 改修に関する全ての国際原則は、こうした介入を禁じている」
ほかにも、プロジェクトチームは壁紙貼りやペンキ塗りもしたらどうだと皮肉るコメントや、「ピサの塔をまっすぐにする計画はいつ立てるのか?」という書き込みもあった。ちなみに、ピサの斜塔では傾いたままで地盤沈下に対応する措置が取られている。
また、近年エジプト経済が低迷する中、こうしたプロジェクトに資金を投入することの妥当性も疑問視されている。エジプトのニュースメディア、ナショナルによると、今年の政府による債務返済予定額は320億ドル(約4兆7000億円)にのぼる。さらに債務危機に拍車をかけているのが、高インフレとエジプトの重要な収入源であるスエズ運河通行料の減少だ。背景には、フーシ派の攻撃でスエズ運河の船舶航行が急減していることがある。
ワジリはこの点に関し、改修の第一段階では日本が費用を負担すると国営メディアとのインタビューで述べた。これは、プロジェクトに対する批判を和らげようとする発言と見られる。(翻訳:石井佳子)
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