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アート界を震撼させた有名ギャラリスト刺殺事件で、別居中の夫を逮捕へ。嘱託殺人の疑い

ニューヨークを拠点とするギャラリー、シッケマ・ジェンキンス&カンパニーの創設者でアート・ディーラーのブレント・シッケマ(75歳)が、1月15日にブラジル・リオデジャネイロにある自宅で殺害された。このほど捜査が大きく動き、彼の別居中の夫ダニエル・シッケマの逮捕を進めている事が明らかになった。

1月15日に刺殺体で発見されたブレント・シッケマ。2008年撮影。Photo: Courtesy SikkemaI Jenkins & Co.

1月15日、ニューヨークのギャラリー、シッケマ・ジェンキンス&カンパニーの創設者であるブレント・シッケマが、リオデジャネイロの自宅アパートで殺害されているのが見つかった。検視報告書によると、彼はハサミかカッターナイフのような鋭利なもので顔と胸を18カ所も刺されており、防御創はなかったという。

シッケマ・ジェンキンス&カンパニーは、拠点のニューヨークのみならず世界的にも知名度が高いギャラリーだ。1991年、シッケマはソーホーにウースター・ガーデンという名のギャラリーを設立し、1996年には設立当初から働いていたマイケル・ジェンキンスをディレクターに任命。1999年にチェルシーの中心部に移転し、その後2003年にジェンキンスをパートナーに迎え、シッケマ・ジェンキンス&カンパニーに改名した。

ガゴシアン、デヴィッド・ツヴィルナー、ハウザー&ワース、ペースといったメガギャラリーが建ち並ぶロケーションに居を構える同ギャラリーは、1995年以来、これまで11回の個展を開催したカーラ・ウォーカーをはじめ、ウールアーティストのシーラ・ヒックスら多数のアーティストを抱えている。過去にはディアナ・ローソン、エイミー・シルマン、マーク・ブラッドフォード、アーリーン・シェシェット、シャーツィア・シカンダーといった著名なアーティストたちが、キャリアの初期にブレントのギャラリーで作品を発表している。現在は、2024年のヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ代表アーティストに選ばれたジェフリー・ギブソンの展示準備の最中だった。

そのような有名ギャラリーのオーナーが刺殺されるという凶悪な事件に、アート界は震撼した。ブラジルの警察はこれまで容疑者の捜査を続けてきたが、フォーリャ・デ・サンパウロ紙の報道によると、当局は現在、シッケマの別居中の夫ダニエル・シッケマの逮捕を進めているという。

事件3日後の1月18日、当局がシッケマ邸の防犯カメラの映像を調べたところ、30歳のキューバ人男性、アレハンドロ・トリアナ・プレベスがシッケマ邸を出入りしている姿が確認された。その後、当局はリオデジャネイロから約600マイル離れたガソリンスタンドでプレベスの身柄を確保した。

プレベスの弁護人、グレゴリオ・アンドラーデによれば、プレベスはダニエルから暗殺実行の報酬20万ドル(約3000万円)とシッケマ邸の鍵を渡されたと主張している。

ブレントとダニエルは約15年前に結婚したが、2022年以降、離婚調停で13歳になる息子の親権などを争っていた

ダニエルの弁護士であるファビアナ・マルケスは、ダニエルは無実を主張しており、今回の事態に「ショックを受けている」という。「彼はメールで積極的に取り調べを受けたいと警察に申し出たにもかかわらず、その機会を与えられなかった。これは重要な事実だ」とマルケスは指摘している。

あるアートディーラーによれば、ブレントが手掛けた展覧会のオープニングやクロージングでダニエルの姿を見かけることは稀だったという。彼はキューバで困窮した幼少期を過ごし、スペインで男性エスコートとして働いた後、アメリカに移住した。2006年に出版された自伝『Ticket to Paradise』には、キューバを脱出してどのように生計を立ててきたかが綴られている。

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