ARTnewsJAPAN

プーチン大統領に近いオリガルヒが資金提供。ウルピア大聖堂の改修をめぐり地元メディアは「恥ずべき」と非難

ローマのトラヤヌスの市場内にかつて建っていたウルピア大聖堂が部分的に再建された。総額およそ2億円を費やして実施された修復作業は、ロシアの有力者アリシェル・ウスマノフが資金を全額提供しており、資金の調達方法や設計の正確さが物議を醸している。

20224年2月2日、ローマのトラヤヌスの市場にあるウルピア大聖堂の柱廊が部分的に再建された様子。西暦112年に建築され、中世で倒壊したウルピア大聖堂は、トラヤヌスの市場の中心に置かれており、ローマ帝国の皇帝トラヤヌスにちなんで名付けられている。 Photo: Filippo Monteforte/AFP via Getty Images

古代ローマ時代の公会堂として使われていたウルピア大聖堂の柱が部分的に再建された。しかし、この修復を巡って歴史家たちの意見は分かれており、再建プロジェクトの資金の出所を疑問視する声も上がっている。

高さおよそ23メートルほどのウルピア大聖堂の再建は、アリシェル・ウスマノフから提供された150万ユーロ(約2億4200万円)によって実現した。ウスマノフはプーチンと密接な関係をもつロシアの有力者であり、欧州連合(EU)官報には「ウラジーミル・プーチンが気に入っているオリガルヒ(政治的な影響力をもつ新興財閥)の一人」と記されている。

イタリアの日刊紙ラ・レップブリカは、再建プロジェクトとウスマノフの関係を「恥ずべきもの」と記し、2023年のクリスマス直前に実施されたウルピア大聖堂の除幕式は、意図的に水面下で行われたと主張している。

だが、こうした論争以外にも、再建プロジェクトそのものが物議を醸している。かつてボローニャ大学で修復の授業を担当していた美術史家のブルーノ・ザナルディのように、改修されたバジリカは本来の設計と大きく異なっていると主張する者もいる。一方で、遺跡保護団体「Italia Nostra」に所属するミケーレ・カンピージのように、誰もが歴史に命を吹き込めることを賞賛する者もおり、意見が分かれている。

「学者や関係者だけでなく、すべての人に歴史を正確に理解させる重要な修復がついに実施された」と、カンピージはFacebookに投稿している。「歴史的に重要な遺跡を再建することは建築物の断片を後世に残すことにつながるので、再建する機会があるならそれを活用するべきだ」

修復によって、過去の雄大な歴史が垣間見えるかもしれない。だが、修復費用の調達方法は倫理的に正しいものなのか、正確に修復はなされるのか、といった複雑な疑問も残る。アートニュースペーパーによると、専門家たちは、博物館や倉庫に保管されていたバジリカのエンタブラチュアの断片を修復の基礎として使用したという。また、新たに作り直されたフリーズ部分は、古代ローマ時代に身廊があった場所を示す花崗岩でできた4本の柱の上に置かれた。

修復されたエンタブラチュアを覆っているのは、100年近く使われていなかった緑色をした3本の大理石の柱だ。古代ローマ時代に建設されたバジリカは中世に廃墟と化し、19〜20世紀初頭にかけて実施された発掘調査によってバジリカの跡が発見された。

フォーブスによると、ウスマノフの資産は140億ドル(約2兆1020億円)以上あるという。また、ウスマノフはカピトリーノ美術館のホラティウスとクリアトゥスの間にあるフレスコ画を修復するために30万ユーロ(約4800万円)を寄付するなど、古代ローマ時代の遺跡を修復する複数のプロジェクトに貢献している。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった際にアメリカとEUは、ウスマノフに資産凍結などの制裁を加えている。2020年には、ウスマノフのスーパーヨット、ディルバーに保管されていた500万ドル(約7億5100万円)相当の絵画およそ30点がドイツ政府に押収された。船は当時ハンブルクでリノベーションが行われており、美術品は倉庫で保管されていたという。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい