古代ローマのワインはカレーのような味だった!? 素焼き壺を用いた当時の醸造技術を研究者が再現
古代ローマでは「ドリウム」と呼ばれる素焼きの壺を使ってワインを醸造していたことが、新しい研究によって明らかになった。その風味は現代のワインとは違い、カレーのようなスパイシーさとトーストのような香ばしさをもつものだったという。
現代では木樽や金属製の容器などを用い、細かな温度管理のもとでワインを醸造しているが、古代ローマにこうした技術は存在しなかった。では、古代ローマ人たちはどのようにしてワインを醸造していたのだろうか。
現在のイタリアにあたる地域では、紀元前1世紀ごろからブドウ農園が存在しており、古代ローマでは「ドリウム(Dolium)」と呼ばれる素焼きの壺を使ってワインを醸造していたことが考古学的証拠から明らかになっている。ドリウムは粘土質で造られた多孔質の容器で、卵のように丸みを帯びた形状であったという。
ベルギーのゲント大学のディミトリ・ヴァン=リンバーゲン博士らが学術誌「Antiquity」に発表した論文は、このドリウムによる製造方法や完成したワインの風味を明らかにしている。リンバーゲンら研究チームは現在もジョージアでワインの醸造に使われている土器「クヴェヴリ(qvevri)」と歴史的文献を参考に、製造のプロセスを再現した。
古代ローマ人は足踏みで圧搾したブドウを皮ごとドリウムに注ぎ入れ、それを地中に埋めることでワインを醸造していた。こうすることで外気の流入を防ぎつつ温度管理をし、発酵の程度を調節していたと考えられている。酵母には果皮などに付着する自然酵母が用いられており、ワインが完成するまでには半年ほどの時間を要したという。
ドリウムが卵型であることで、果醪(編註:ぶどう果汁、果皮、果肉、種子の混合物[マスト]のこと)を適度にかき混ぜる効果があったと考えられている。発酵過程で生成される二酸化炭素と熱は上昇する性質をもつので、容器内の空気が対流し、ワインをゆっくりかきまぜて均一に発酵できるというわけだ。また、ドリウムの内部に松脂のコーティングを施すことにより、液漏れを防ぐと同時に殺菌がなされていた。
では、こうしてつくられたワインの風味はどのようなものだったのか。果皮を取り除くことなく発酵させる手法は現代の赤ワイン醸造に近いが、当時のワインづくりにおいて赤と白という区別はなく、ブドウの種類を区別していたことも考えづらい。ヴァン=リンバーゲンらによれば、赤とも白ともいえない琥珀色のワインだった可能性が高いという。
風味に関しては、ドリウムの粘土質や松脂の香りが移るため、トーストしたパンやリンゴ、ローストしたクルミ、カレーを合わせたような香ばしくスパイシーな味わいであったと考えられる。恐らくは、現代人にとって「飲みやすい」口当たりではなかっただろう。現在でも陶磁器と自然酵母を使ったワインづくりが受け継がれているジョージアでは、古代のワインに似た風味を味わえるかもしれない。