謎多きマヤ文明の遺跡からヒスイの仮面が出土。盗掘を免れた貴重な遺物は「雨の神」?
かつて中米で2000年以上にわたって繁栄したマヤ文明。大きな遺跡がいくつか発見されているが、具体的な社会構造については謎に包まれている部分も多い。しかし、新たに発見された1700年前の墓とその出土品が謎を解き明かすカギとなるかもしれない。
マヤ文明は中米のユカタン半島を中心に栄えた文明のひとつだ。ティカルの遺跡群などで有名だが、埋蔵品を目当てとした盗掘者によって遺跡がたびたび荒らされてきたがゆえに、考古学的な証拠は限られていた。
こうしたなか、アメリカのテュレーン大学考古学研究チームは2021年、LiDAR(ライダー)と呼ばれる技術を使い、グアテマラ北西部で調査を実施した。LiDARは対象物にレーザー光を照射し、その反射光を分析することによって対象物までの距離を測定したり、対象物の性質を把握したりするリモートセンシング技術だ。
この地帯は考古学者たちの間で「チョチュキタム(Chochkitam)遺跡」として90年代から知られていたが、盗掘の被害に遭っているため注目されてこなかった。しかし、LiDARを使った丹念なマッピングの結果、盗掘者たちが見逃していた一画が2022年に見つかったのだ。
ヒスイの仮面は誰のもの?
研究者たちがこの一画の採掘調査を実施すると、支配階級のものとみられる墓からは複数人の骨や棺、壺、貝殻、ヒスイのテッセラ(タイル片)などが出土。テッセラは、マヤ文明で信仰されていた雨の神を模した仮面に用いられていたこともわかった。
さらに研究の結果、人骨には黒曜石で細かな模様や象形文字が彫られていることも明らかになった。象形文字を専門とするアラバマ大学のアレクサンダー・トコヴィニーヌが分析したところ、出土したヒスイの仮面は、西暦350年ごろに支配者として君臨した「Itzam Kokaj Bahlam」という名の人物に関係するものとみられることが判明したという。
これらの仮面をはじめとする出土品は、謎多きマヤ文明を解き明かす重要なカギとなるかもしれない。「これだけ貴重な情報が得られることは滅多にありません。宝くじに当選するようなものです」と、研究チームを率いたフランシスコ・エストラーダ=ベリは語る。
最近では、マヤ文明の都市はそれぞれが独立して存在していたのではなく、ティカルなどの都市を中心とした中央集権的なヒエラルキーのもとに存在していたとする学説が支持を集めつつある。エストラーダ=ベリは、恐らくはチョチュキタムも大都市の影響を強く受けていたであろうと推察している。今後、研究が進行するにつれマヤ文明にどのような階級構造が存在し、それぞれの都市がどのように関わり合っていたのかが明らかになるだろう。