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古代ローマ時代の守護神メルクリウスの人形の頭部をイギリスで発見。粘土製は「非常に珍しい」

イギリス東部のケント州で商人や旅人の守護神メルクリウスの頭部が発見された。陶器製でできたこの神の人形が発見されたことで、古代ローマ時代におけるイギリスの宗教観や習慣など、当時の民間人の暮らしを紐解く研究が加速するかもしれない。

イギリスのケント州スモール・ハイスで出土したメルクリウスの人形。Photo: James Dobson ©National Trust Images

スミソニアン・マガジンが「非常に珍しい」と評価した守護神メルクリウスの置物の頭部が、イギリスのケント州スモール・ハイス・プレイスの集落から出土した。「これまで記録されていない古代ローマ時代の集落」の発掘調査の一環として発見されたこの頭部は、現在、他の出土品とともに地域の郷土資料館にて展示されている

「スモール・ハイスでの発掘調査から、これまで発見されていなかった1〜3世紀における古代ローマ時代の生活が明らかになりました。今回の調査によって、ローマ艦隊の刻印が施されたタイル(クラシス・ブリタニカ)、状態のいい壺を含む陶磁器、建築物、所有境界線や穴などの証拠が見つかり、この川辺のコミュニティでどういった暮らしが営まれていたかを示す、画期的な手がかりが発見されたのです」

そう語るのは、イギリスの歴史保護団体ナショナル・トラストに所属する考古学者、ナタリー・コーエン。中でもコーエンが特に注目したのが、このメルクリウスの人形の頭部だ。

「管状粘土でできたメルクリウスの人形の頭部に巡り会うことは、そうそうありません。5センチメートルほどの頭部は、羽の生えた帽子をかぶっていることから、メルクリウスであることがはっきりとわかります。残念なことに、人形の胴体の発見には至りませんでした」

これまでイギリスで発見された管状粘土製の置物は、ヴィーナスなどの女神像がほとんどで、今回の発見はかなり珍しいものだと言える。この素材は主に中央ガリア(現在のフランス)で生産されおり、ローマ時代のイギリスは、人形を作るためにそれを輸入していた。ナショナル・トラストによると、メルクリウスの人形は金属でできていることがほとんどだが、粘土で作られたものは珍しく、これまでに発見されたのは10点にも及ばないという。

粘土でできたローマ時代の置物を研究するマシュー・フィットックは、「管状粘土製の置物は、主に民間人が家庭内で祈るために使われていました。ほかにも、寺院に置かれたり、病気の子どもの墓の前に供えられることも多くあったと言われています」と説明する。「スモール・ハイスで発見されたこのような遺物は、文化的に混ざり合った人々の宗教的信仰や習慣を知る上で、非常に貴重な洞察を提供してくれます」(翻訳:編集部)

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