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バンクシーの壁画がNYからコネチカットへお引越し。「コミュニティの誇り」との別れに地元は悲嘆

ニューヨークのサウス・ブロンクス地区にあるバンクシーの壁画《Ghetto 4 Life》(2013)がビル取り壊しのため2月26日に撤去され、コネチカット州へと運ばれた。長年親しまれてきた壁画の喪失に住民は嘆き悲しんだ。

バンクシーの壁画《Ghetto 4 Life》(2013)を撤去する作業員たち。Photo: Fine Art Shippers

《Ghetto 4 Life》は、2013年10月にバンクシーニューヨークで行ったレジデンス「Better Out Than In」の一環としてサウス・ブロンクス地区にあるメルローズ・ビルの壁に制作された。レジデンスは、バンクシーが毎日少なくとも1作品を専用ウェブサイトとインスタグラムで発表するというもので、その様子を捉えたドキュメンタリー映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』は、世界で上映された。

「Ghetto 4 Life」とスプレーで書く身なりのよい少年と、彼に従う執事の姿を描いたこの作品は、「ゲットー」と呼ばれる貧民街があるサウス・ブロンクス地区を風刺したもの。当初はよそからやってきた白人アーティストがゲットーという言葉を用いることに反発する住民もいたが、次第に地元で愛される存在になっていった。

しかし、メルローズ・ビルの取り壊しが決まり、作品が撤去されることとなった。ビルを含む一帯は、チャーター・スクールになる予定だ。この出来事は地元住民に衝撃を与え、コミュニティの誇りとなってきた《Ghetto 4 Life》が失われることを嘆く声が相次いだ。

「みんな泣いていたよ。これはアートなんだ」

近所に住むスティーブ・ジェイコブは、作品撤去をこう振り返り、「私はずっとブロンクスに住んでいますが、バンクシーは私たちコミュニティのために《Ghetto 4 Life》を作ってくれた。ブロンクスの人々のために作られたものを、誰かが私たちから奪ったのです」と哀しみをぶつけた。

メルローズ・ビルのオーナー、デイヴィッド・ダマギは、壁画をニューヨーク市内に留めるために地元の学校やニューヨーク近代美術館(MoMA)などと連絡を取ったが叶わなかった。最終的に、ピラー・プロパティ・マネジメントのキウマーズ・ゲウラが所有することになり、同社の本拠地であるコネチカット州ブリッジポートの1940年代に建てられた工場地帯へと移送された。ニューヨーク・デイリー・ニュース紙の取材に応じたバンクシーの代理人によると、《Ghetto 4 Life》はそこで一般公開される予定だ

しかし、作品の輸送を請け負ったFine Art Shippersの担当者がUS版ARTnewsに語ったところによると、ブリッジポートへの移送は一時的なもので、今後、売却されて再びどこかへ移送される可能性もあるようだ。

バンクシーは2015年のガーディアン紙のインタビューで、自分の作品が撤去され、売却されることについては特に何も思わないと答えた上で、こう指摘している。

「だが、芸術全体にとっては不健全なことだ。違法に絵を描くと、カメラ、警官、自警団、酔っ払いが頭に瓶を投げつけてくるなど、多くのものと戦わなければならない。それに『略奪的なアート投機家 』への対策が加わると、状況はさらに難しくなる。グラフィティは重要かつ有効なアートフォームであり、資本主義によって殺されてしまうのは残念なことだ」

バンクシーが描いた壁画のうちのいくつかは数億円単位で取引されるほど、その価値は高まっている。しかし彼が一体何者なのか、その正体は謎のまま。最近発掘された2003年のBBCのインタビューによって、彼の実名がロバート・バンクスであるらしいことが判明した

そんな中、最近、バンクシーの正体をめぐってとんでもない説がソーシャルメディアを賑わせている。現在、イギリス王室のキャサリン皇太子妃は腹部の手術を受けて療養中だが、2月27日、Xユーザーの@LMAsaysnoは 「ケイト・ミドルトン(キャサリン皇太子妃)が姿を消して以来、バンクシーの作品が1枚も発表されていない」と投稿。バンクシーの正体はキャサリン皇太子妃なのではないか、と疑っている。(翻訳:編集部)

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