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価格高騰するヴァン・ダイク作品の所有権をめぐり、破産したイギリス名士の訴えが退けられる

2019年に破産宣告を受けた、イギリスの実業家でソーシャライトのジェームズ・スタントが購入したアンソニー・ヴァン・ダイクの貴重な絵画の所有権を巡って裁判が行われていたが、3月22日、破産財産から免除されないとの判決が下された。

アンソニー・ヴァン・ダイク《The Cheeke Sisters》(1640) Photo: Public Domain

イギリスの実業家でソーシャライトのジェームズ・スタントは、元F1運営組織のCEO、バーニー・エクレストンの娘でモデルのペトラ・エクレストンの元夫としても知られており、彼は2019年6月に破産宣告を受けた。

ジェームズは、2013年に60万ポンド(現在の為替で1億1400万円)でアンソニー・ヴァン・ダイクの《The Cheeke Sisters》(1640)を購入した。これはヴァン・ダイクが残した数少ない「2人の肖像画」のひとつであり、このスタイルの作品は現在、最高400万ポンド(7億4200万円)の値がついている。

破産にあたり、ジェームズは《The Cheeke Sisters》は自身が所有しているのではなく、父親のジェフリーに購入を勧めただけだと主張した。実際に、絵画の支払いに使われたお金はジェフリーの口座から引き出されたものだった。しかし、ジェフリーは普段から「気前がよく、ローンを通して息子を援助する父親」であり、ジェームズは父親の銀行カードから「非常に多額の金額」を使うことができたという。

ジェームズは当時、この絵画に興味を持ったがすでにヴァン・ダイク作品を40点持っていたため、「飽和状態だった」として、購入を断念したと主張した。《The Cheeke Sisters》を買収する契約は、ジェフリーが「完全に交渉した」ものだとジェームズは言う。

ガーディアン紙によると、2024年3月初めにロンドンで開かれた裁判で、管財人を代表するジョセフ・カールKCは、絵画を購入したのはジェームズであると主張したが、後に父親が所有権を宣言したことに対して、これは管財人にとっての 「重大な不公正」であるとした。そして絵画を販売した美術会社は、ジェームズが「絵画の所有者となり、常にそのつもりであった」と信じていたと裁判所に語った。そして管財人側の弁護団は、ジェームズがこの絵の唯一の所有者で、彼の資産の一部であるとした上で、ジェームズが差し押さえされるのを防いだと主張した。

裁判は3日間にわたり行われ、3月22日、破産・会社法裁判所の裁判官であるクライブ・ジョーンズは、この絵画はジェームズの財産として分類されるという判決を下した。判決にあたってジョーンズはこう語った。

「私の判断では、ジェームズは契約上の買い手です。彼は父親のために受益権を信託していたわけではありません。父親のジェフリーが小切手で支払ったという事実は、その結論に達する際に考慮しましたが、絵画は破産財産の一部と判断しました。2人は絵がジェームズのために買われたものではないことを証明できなかったのです」(翻訳:編集部)

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