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  • 2024.05.31

今週末に見たいアートイベントTOP5: 梅津庸一が問う制作・展示の意義、ロビン・F・ウィリアムが描き出すジェンダーの力学

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

Caption: View of the exhibition "Undying" at Perrotin Tokyo. Photo by Osamu Sakamoto. Courtesy of the artist, P·P·O·W, and Perrotin.

1. ロビン・F・ウィリアムズ 「UNDYING」(ペロタン東京)

Caption: View of the exhibition "Undying" at Perrotin Tokyo. Photo by Yuta Saito. Courtesy of the artist, P·P·O·W, and Perrotin.

女性の構図から見るジェンダーの力学

アメリカ・ブルックリンを拠点に活動するアーティスト、ロビン・F・ウィリアムズの日本初個展。本展「Undying」で紹介される作品群は、肖像、広告、伝承、ソーシャルメディア、映画における女性の表現とジェンダーの構築をテーマに扱ったもの。

《The Man Who Fell to Earth》(2023)、《Persona》(2023)、《Blue Velvet》(2023年)、《Thirst》(2023)に登場するた女性たちは皆、映画のスチール写真をもとに描かれている。覆いかぶさる巨体のパートナーの下で仰向けになった女性の肩越しのショットという、優位で踏み込んだ視点から撮影される構図。そこから窺えるのは、映画のなかにある「絵画」、すなわち物語と構図が感情に訴えかける力へと結晶化した瞬間を探したというウィリアムズの鋭い観察眼だ。新作絵画とドローイングを通して、執着的な関係を形成する支配、逸脱、服従の力学を探りながら、内在する性的主体性の曖昧さをも描いているのだ。

ロビン・F・ウィリアムズ 「UNDYING」
会期:5月9日(木)~6月22日(土)
会場:ペロタン東京(東京都港区六本木6-6-9)
時間:11:00~19:00
休館日:日月祝

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2. クリスチャン・プーレイ 「Geographies of Love」(Gallery 38)

Photography: Osamu Sakamoto

絵画を通した記憶との対話

クリスチャン・プーレイは、自らが育った植民地化による複雑な歴史を持つ土地や、家族のアーカイブ写真をベースに生み出される夢と現実の狭間のような情景を描き、画家とし て高い評価を獲得してきた。本展ではこれまで一貫して思考し続けてきた「Belonging(帰属する)」という感情、そして個人と「Home (家、故郷)」との関係性というテーマをさらに深く探求する。

《Geographies of Love》では、現実を見る別のレンズ、この場合は場所や人々への「愛」や「愛着」を用いて、異なる視点を組み合わせるという行為を促している。観客は、彼女の風景の前に立ち、風景に佇む人物が誰なのか、そこがどこなのか、自分自身の記憶と対話し、絵画の前を往復しながら、さまざまな角度からその風景の奥を見つめることになる。

紛争や混乱に満ちた現在の中で、自身の中にある時間や記憶のレイヤーに触れながら絵画と向き合うこと。その行為の力は、他者への尊厳に由来する対話こそが重要な世界において真摯に響くだろう。

クリスチャン・プーレイ 「Geographies of Love」
会期:5月11日(土)~6月30日(日)
会場:Gallery 38(東京都渋谷区神宮前2-30-28)
時間:12:00~19:00
休館日:月火祝


3. 「梅津庸一 | エキシビション メーカー」(ワタリウム美術館)

梅津庸一 クリスタルパレス 2023 撮影:今村裕司

梅津庸一が問う制作・展示の意義

ワタリウム美術館の前身であるギャルリー・ワタリ時代の「知られざるコレクション」を軸とした展覧会。ワタリウム美術館設立以前に前館長・和多利志津子の交流によって集められたほとんど未公開の作品群を軸に、現在活躍中の作家たちを加えた計44人のアーティストの作品が展示される。

本展の構成を担当した美術家の梅津庸一は、アーティストキュレーターとして振る舞うのではなく、「エキシビションメーカー」の精神に立ち返り、美術のいち観客でもある自分が見たいと思える展覧会を目指したという。

展覧会の多くは「独自性」を主張し差異化を図ることが求められるが、その多くの営みは既存のインフラの上で平準化されたコンテンツとして消費され忘れ去られている。本展ではこの悪循環から脱するために「作品をつくる」あるいは「展覧会をつくる」とは何か?そんな素朴で単純すぎるかもしれない問いから再出発する。

「梅津庸一 | エキシビション メーカー」
会期:5月12日(日)~8月4日(日)
会場:ワタリウム美術館(東京都渋谷区神宮前3-7-6)
時間:11:00~19:00
休館日: 月曜(7月5日を除く)


4. 三瓶玲奈 「光をたどる」(Yutaka Kikutake Gallery)

《線を見る》(2023) カンバス、油彩 18×14㎝

三瓶玲奈が実践する知覚とイメージの探求

三瓶玲奈は線や色、あるいは光や温度といった諸要素についての考察を通じ、自身の絵画を追求し続けてきた。本展はスタジオで撮影された写真にテキストを添えた初の書籍『スタジオと絵を思考する』の出版を記念して開催される。十数点の新作群は、これまで三瓶が取り組んできた各テーマを再解釈しF3号に統一して描き直すという「スタジオピース」の実践をさらに発展させたもの。問題意識を改めて比較考察し、その差異がもたらす出力の違いにフォーカスを当てるスリリングな内容となっている。

幅およそ4メートルの《色と編む》は、2枚の板で構成される作品で、「色を見る」あるいは「色をほどく」といった、三瓶の色彩にまつわる一連の実践において、色と対象との関係性から生まれる湿度の表現に取り組んでいる。同じ壁面に並べられた《色を見る》はある固有のものに属する色という要素をよりシンプルに追求。《色と編む》で行われた色彩の解体と再構築のはざまで立ち上がる湿度や匂いの探求との間に対比を生み、互いの試みの輪郭をより強調する効果をもたらしているのだ。

三瓶玲奈 「光をたどる」
会期:5月17日(金)~6月15日(土)
会場:Yutaka Kikutake Gallery(東京都港区六本木6-6-9 )
時間:12:00~19:00
休館日:日月祝


5. 鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)

修復作業イメージ(神奈川県立近代美術館葉山)撮影:佐藤克秋

作品を守り伝承する、美術館の仕事を紹介

コレクションをよい状態で保存し次の世代へ伝えることは、美術館の役割の一つである。近年の気候変動や相次ぐ自然災害、さらに社会的要請の変化に合わせて美術館もアップデートを重ねている。

本展は「てあて」「まもり」「のこす」の3つの言葉を手がかりに、作品の修復過程やそこで使う道具、作品を守りつつ展示するための工夫など、普段は見られない美術館の取り組みを紹介する。高橋由一(1828-1894)、古賀春江(1895-1933)、村山知義(1901-1977)、松本竣介(1912-1948)など、神奈川県立近代美術館のコレクションを代表する作家の名品を展示し保存修復の観点から解説するほか、庭園に常設され長く親しまれてきた彫刻の移設や修復について、映像や資料で紹介している。

別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復
会期:5月18日(土)~7月28日(日)
会場:神奈川県立近代美術館 鎌倉別館( 神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1)
時間:9:30~17:00 (入場は30分前まで)
休館日:月曜(7月15日を除く)

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