人気急上昇のアーティスト、ロッコ・リッチーが語る創作──両親のマドンナとガイ・リッチーから学んだことは「働いて働きまくること」

マドンナと映画監督のガイ・リッチーを両親にもつロッコ・リッチーが、マイアミのデザイン・ディストリクトで新作を発表した。幼い頃から絵を描くことが好きだと語る彼の創造力の源泉は何なのか、セレブ夫婦の間に生まれたプレッシャーとどう向き合っているのかを聞いた。

マドンナとガイ・リッチーを両親にもつロッコ・リッチー。Photo: Brooke D'Avanzo

ロッコ・リッチーは、自身が制作している作品を人々が真剣に受け止めることを望んでいるし、私たちもそれに応えなければならない。

マドンナと映画監督のガイ・リッチーの間にできた子どもだからといって、親の七光りだと言いたくなる気持ちをどうか抑えてほしい。メディアの目にさらされて育ったにもかかわらず、ロンドンを拠点に活動するリッチーは、盲目的に有名になろうとしておらず、名声を得ることにまったく興味がないように見える(ソーシャルメディアにおける母の多大な影響力を利用する気もないように思える)。

彼はこの数年間で人目に触れないところで地道に、そして堅実に作品を作り続けてきた。しかし、4月10日と11日の2日間限定でマイアミのデザイン・ディストリクトで開催されている、最新作《Pack a Punch》を発表するプライベートショーでその創作が明らかになった。

取材に応じてくれたリッチーは、彼が制作してきた作品と両親について、そして父親が制作したドラマシリーズ「ジェントルメン」のプレミアイベントに付き添った交際相手のオリビア・モンジャルダンについて話してくれた。さらにリッチーは、自分が作ってきた芸術作品についてとりわけ詳しく語ってくれた。慌てず率直に、リッチーはそれぞれの質問をかみ砕くために間をとりながら答えていた。こうした様子からも、芸術に対する彼の真剣さがうかがえる。

芸術と向き合うために偽名を使って活動開始

幼少期から絵を描くことが好きだったリッチーは、アーティストとしてのキャリアを始める前にロンドン芸術大学に属するカレッジの一つ、セントラル・セント・マーチンズで学んだのちに、ロイヤル・ドローイング・スクールに入学。とはいえ彼は、セカンダリー・スクール(小学校卒業後の4年間にあたる)に入学した頃から芸術に真剣に打ち込むようになっていた。「ぼくはそこまで勉強ができる学生ではなかったので、芸術の道に進むことにしました。ライフドローイングの勉強をして、製図家としてのスキルを身につけたのです。毎日のように延々と描いていましたよ」

アート市場が活況を呈していた時代にロンドンで育ったリッチーは、「素晴らしい現代アートの展示が毎日のように行われていた」街のギャラリーや美術館を最大限に活用した。ロンドンは彼の故郷であり、その文化と雰囲気は今でも彼に似合っている。リッチーが近年の展覧会で展示した木炭ドローイングは、ドイツ系イギリス人画家フランク・アウアーバッハに影響を受けているという。

フランシス・ベーコンルシアン・フロイドデイヴィッド・ホックニーといったイギリスの作家の影響を今はかなり受けています。数世紀前までさかのぼると、レンブラント・ファン・レインやフランシスコ・デ・ゴヤといったアーティストも参考にすることがありますね」

どのような作品を制作しているのか人々に尋ねられると、リッチーは抽象的な答えを返すことが多いと語る。「作品を事細かに説明することはあまりしません。作品を見てもらった方が早いと思いますし」。また、作品を見た後に何を感じてほしいか尋ねてみたところ、「ある意味それは人によるのではないでしょうか」と、彼は語る。

リッチーは、「Rhed」という偽名を使って数年前から作品を制作し、さりげなくアート界に入り込んできたが、この名を使って活動することは次第になくなっていった。「もうその時代はおしまいです」と、彼は冷ややかに言う。

彼はより真剣に芸術を追究するために偽名を使い、自身の匿名性を守ったのだ。「ぼくは若かったし、ギャラリーを持つためにも展示に参加することが大切だと考えていたのです。さもなければ、アート界から完全に見放されていたかもしれません」

彼の作品に対する評価はこの数カ月でうなぎ登りだが、23歳の彼は今でもロンドンの美術館に通っているという。なかでも、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツは現在のお気に入りだ。「建物は一番美しいと思いますし、収蔵されている作品もかなり面白いですよね」と、1768年にピカデリーに建てられた美術館について語っている。他にも彼は、デンマークのフムレベックにあるルイジアナ近代美術館も気に入っているという。

両親から授かったアドバイスとは

クイーン・オブ・ポップとアクション映画の名手を両親に持つリッチーは、世界中を旅することで世の中の見方を育んでいった。

「世界のさまざまな国を見て文化を体験できたのは間違いなく恵まれていたと思います。自分の作品だけでなく、日頃のものの見方まで影響を与えてくれましたから」

旅は作品にも大きな影響を与えている。「ぼくの作品には旅の要素が含まれていますし、すべての物事は常に変化し続けているということを表現したいと考えています。いいアーティストであるためには、一つのムードに執着するのではなく、変わり続ける必要があります。今回の展示も、タイに旅行した経験からインスピレーションを受けています。タイで見たムエタイとボクシングの試合をどうしても作品に落とし込んで、ショーをやりたいと思ったのです」

2024年の初めにリッチーは、ミラノのパラッツォ・レアーレで音楽家たちが「ボレロ」を演奏し、マドンナを含む観客が見守るなかでライブペインティングを行った。セレブ夫婦の間に生まれた子どもであることから、人々が彼に対して先入観をもつ可能性がある。これを考慮したうえで、こうした知名度が長所となるか、それとも短所となるのかを尋ねてみたところ、リッチーは次のように答えた。

「どんな背景がその人にあろうと、人は常に他人を評価したがるものです。たとえ人々が先入観を抱いたとしても、それは他人が勝手にレッテルを貼っただけであって、ぼくは何にも関与していない。こうしたガヤがあったとしても、ぼくは作品制作に集中して、情熱と愛をそれにぶつけることに専念するだけです。時間をかけて制作に真剣に取り組んでいけば、作品がそれを物語ってくれると思います」

彼はまた、自分の家族や人生について人々に知ってほしいとも思っていないという。2008年に離婚したリッチーの両親は、アートやデザインに関するアイデアを話す相手としては最適のように思えるが、リッチーは二人にあまり作品の話をしないという。「コンセプトを見せるのではなく、完成した作品を見せた方がいいと思っています」と、リッチーは言う。

また、両親の意見やアドバイスが作品に影響を与えることはあるのかと尋ねてみたところ、次のように答えてくれた。

「両親のことは愛していますし二人とも自身の道を究めた人たちですので、かけてもらった言葉は気にかけますね。父と母の仕事にも影響を受けています。しかし、いいものを残そうと懸命に働いてきた二人の作品そのものというよりかは、仕事への姿勢から影響を受けていると言ったほうがいいかもしれません。両親の姿はずっと自分のなかに残り続けると思います」

「誘惑に負けそうになっても、働いて働きまくって働き続けること」。この姿勢こそ、リッチーは長年アドバイスし続けてくれた両親から受け継いでいる。

また、同じくセントラル・セント・マーチンズで学んだガールフレンド、モンジャルダンともアートやデザインの話をするという。「芸術やデザインに対する関心は二人ともあります。ぼくらの関係の大部分を占めていますね」

だが、モンジャルダンと共同で制作することは考えていない。「絶対にあり得ないと思います。仕事と私生活は明確にわけておきたいので」と彼は言う。

また、余暇はどんなことをしているか聞いてみたところ「他の人がどんなふうに過ごしているかはわからないけど、ぼくは食べ物が好き。あとは、親しい友人や家族と一緒に過ごすことを楽しみにしています」

トム・フォードやジョン・ガリアーノ、ジャン・ポール・ゴルチエドナテラ・ヴェルサーチ、ドメニコ・ドルチェ、ステファノ・ガッバーナなど、数え切れないほどのデザイナーとマドンナはコラボし、つながりをもっていたことから、リッチーは他の新進アーティストと比べてデザイナーの世界を近くで見て育った。このためリッチーは、ファッションデザインにも強い関心をもっているという。「ファッション自体も最高のアートだと言えます。今はほかのプロジェクトで忙しいですが、ファッションにもそのうち手を出していきたいです」

リッチーが好きな音楽やアートは、現代のものというよりかは、エレガントかつシックで、クラシカルなものだという。だが過去に、茶色いソファを売るために人々にSNS上でダイレクトメッセージを送るという現代的な手法に取り組んでみたが、ソーシャルメディア上でさまざまな意見を巻き起こした。彼はただソファを売ろうとしたのではなく、社会的な実験に取り組んだのだと語っており、こう続ける。「みんな時間が有り余っているんですよ」

「作品制作には真剣に取り組んでいます」と、リッチーは語る。「どの国で生まれて、どんな人と関わりがあろうとも、芸術は作品を見てもらうことで真の意味を発揮してきました。ぼくはアート業界の人たちに恵まれ、そういった人たちと仕事ができるという幸運が続いています。ただ単に作品を売るために作っているわけではありません。適した場所で適した人と作品を共有することが大切なのです」(翻訳:編集部)

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