彫像の所有権をめぐりイタリア政府とアメリカの美術館が対立。2年間の論争を経て貸出禁止が決定
イタリア政府は、アメリカのミネアポリス美術館(MIA)に収蔵されている彫像《槍を持つ人》の複製品は1970年代にイタリアから略奪されたと主張し、同館に返還要請を出していた。これに対してMIAは政府が主張する来歴が誤っていると指摘したことを受け、イタリア政府は同館への作品の貸出をしないよう国内の美術館に命じた。
古代ギリシャの彫刻家、ポリクレイトスによる彫像《槍を持つ人》の複製品の所有権を巡る論争の末、イタリア政府はミネアポリス美術館(MIA)への作品の貸し出しを禁止することを決定した。
およそ1.8メートル以上の高さがあるこの彫像は現在MIAに展示されているが、イタリア政府は1970年代にスタビアエの遺跡から略奪されたと主張し、2022年2月に《槍を持つ人》の返還を要求している。これに対し、トッレ・アヌンツィアータ裁判所の主任検事であるヌンツィオ・フラグリアッソは2024年2月にポンペイで開かれた記者会見で、MIA側はこの要請に応じていないと語った。
MIAは、250万ドル(約3億8700万円)で《槍を持つ人》を1986年に購入している。また同館は、像はイタリアの海岸付近の国際水域で発見されたもので、イタリアはこの作品に対していかなる権利をもたないと主張。その結果、イタリア文化省で国内の美術館を管轄するマッシモ・オザンナは、イタリア国内の美術館に収蔵されている作品をMIAに貸し出すことを禁止した。
この禁止令は、フランドルの画家ベルナールト・ファン・オルレイが16世紀に手がけたタペストリー《パヴィアの戦い》の借用要請をMIAがナポリのアルカポディモン美術館に出したことから発されたもの。イタリアの文化大臣は、MIAのディレクターを務めるキャサリン・クロフォード・ルーバーに対して、この像を巡る意見の相違によって「イタリアの美術館とMIAのさらなる協力関係を妨げる」と伝えたという。
イタリアは《槍を持つ人》を3月4日に改修されたカステッランマーレ・ディ・スタービアの考古学博物館の常設展示に加える考えを示しているという。
2022年に彫像の返還要請を出して以来、イタリアは不和の解消に努めている。例えば、フィレンツェのウフィッツィ美術館からボッティチェリの作品10点をMIAに同年に貸し出したり、2023年にはパラッツォ・バルベリーニに収蔵されているカラヴァッジョの作品《Judith Beheading Holofernes》(1599)をMIAに貸し出したりしている。
イタリアは過去にも、自国に権利があると主張する作品の返却を拒否したことで、アメリカの美術館への貸し出しを禁止したことがある。1964年にイタリアのアドリア海沿岸のペーザロ近郊で漁師によって発見された古代ギリシャのブロンズ像の返還をロサンゼルスのゲッティ・ヴィラ美術館が拒否したことから、同館との関係を「制限」し始めたという。(翻訳:編集部)