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ジェフ・クーンズが45人の職人と協働する、磁器製《バルーン・ドッグ》へのこだわり

今やジェフ・クーンズの彫刻《バルーン・ドッグ》は、良くも悪くも美術史の一部になっている。オレンジ色のバージョン(1994〜2000)は、2013年にクリスティーズのオークションにて5840万ドルで落札され、現存アーティストの作品として当時の最高額を記録した。

ジェフ・クーンズ《バルーン・ドッグ(ブルー)》(2021) Courtesy Jeff Koons Studio

だが、ここまでの道のりはそう容易ではなかった。「Celebration(セレブレーション)」シリーズの一部として初めて《バルーン・ドッグ》を構想した1994年、クーンズは破産寸前に追い込まれていた。これほど巨大な作品を作るのは極めて難しいように思われた。しかし、友人やコレクター、様々な資金調達の助けを借りて、ついに6年後、高さ約3.6メートルもあるステンレス製のバルーン・ドッグ(ブルー、マゼンタ、オレンジ、レッド、イエローの5バージョン)を完成させた。

この賭けは成功し、クーンズは今でもバルーン・ドッグを作り続けている。その最新作は磁器製で、サイズは小さめだ。160年続くフランスの高級磁器ブランドを継ぐミシェル・ベルナルド氏の協力を得て、クーンズは3万ドルで購入できるバルーン・ドッグのミニチュア版を制作した。799点限定で、タイトルは《バルーン・ドッグ(ブルー)》。ARTnewsはクーンズ氏とベルナルド氏にインタビューを行い、このアイコニックな作品を新たに作ることの難しさと喜びについて聞いた。

ーーミシェル・ベルナルド氏と一緒に仕事をするようになったきっかけは?

クーンズ:《バルーン・ドッグ》は1990年代中頃に、皿として制作を始めました。デザインは、最終的に「Celebration」シリーズで作るようになったものとは違います。これは、友人が立ち上げた、ロサンゼルスの子どもたちのためのチャリティで販売するもので、制作してくれる人を探す必要があった。それで、品質の高い陶磁器を作れる人を探していたところ、ミシェルと出会ったんです。それ以来ずっと一緒に仕事をしてきました。

ーー磁器のプロジェクトに新たに取り組もうと思ったのはなぜでしょう?

クーンズ:《バルーン・ドッグ》がどんどん私の象徴的な作品になるにつれて、あちこちでいろいろなバルーン・ドッグが売られるようになったけれど、私はそれらに一切関わっていません。ひどい品質なのに、私の作品か、私が関わったものだと思われている。でも実際には違います。そこで私はミシェルに言いました。「私にとってバルーン・ドッグの公式版を作ること、そしてその公式版を磁器で作ることはとても重要なことなんだ」って。

ステンレス製の作品を正確に再現し、同じ角度と比率で作り、大きさは40cmにしたかった。磁器としてはかなりの大きさですが、それこそがこのバルーン・ドッグの存在を際立たせると考えたんです。でも、実現するのは簡単ではありませんでした。窯で焼くときに形が崩れてしまうことがあって、それを防ぐためさまざまな技術が必要なんです。

ーーミシェルさんは、そうした難しさをどのように解決したのですか?

ミシェル・ベルナルド:バルーン・ドッグを作るためには、本体と、その下で本体を支える磁器という二つのものを作る必要がありました。崩れてしまわないように、あれこれ調整を行いましたが、ひとつ変えると他の部分も変えなければなりません。昔からずっと一緒に仕事をしてきたので、ジェフが求める品質や精度については理解していましたが、それに応えるのは一筋縄ではいきませんでした。基本的には全工程を再構築し、焼成方法を工夫したり、装飾のための新たな技法を考案したりする必要がありました。

ーー《バルーン・ドッグ》はスリップキャスティング(鋳込み成形)で作られているのでしょうか。それとも個別に成形されているのですか? 工程について教えてください。

ベルナルド:パーツごとにスリップキャスティングで作り、後でそれを組み立てています。焼成は4回で、作品を作るのにおよそ45人の職人が関わっています。

ーージェフさんは、いつから陶磁器に興味を持つようになったのですか?

クーンズ:幼い頃、祖父母が磁器の灰皿を持っていました。戦後すぐに作られた、日本のものです。横たわる女性の形をしていて、タバコの熱で足が動くようになっていました。私はその色と素材にすっかり魅了されました。それで70年代に入ってから陶磁器の作品を作り始めたんです。これらの作品は若い頃に小さなグループ展に何度か出しただけで、ちゃんと発表したことはなかったけれど、制作は続けていました。《Woman in Tub(浴槽の中の女)》(1989)や《Woman Reclining(横たわる女)》(2010)は、この灰皿から着想を得ています。私は陶磁器を作るのが大好きです。どこか官能的なところがありますから。

特に磁器は、周りを反射するほどに表面が滑らかで美しい。私は、マリー・アントワネットの胸の形をした磁器カップのセットも持っているんですよ。もっと一般的な話をすれば、陶磁器は人類史のなかでも極めて大きな存在で、考古学の発掘現場では必ずと言っていいほど見つかります。耐久性に優れているし、神話的で象徴的でもある。

ーーそうした性質が《バルーン・ドッグ》を磁器で作る動機になったのでしょうか?

クーンズ:はい、もちろんそうです。《バルーン・ドッグ》を作ったとき、私はウィレンドルフのヴィーナスのような神話性を持ったものを作りたいと思っていました。バルーン・ドッグは、私たち自身が風船であるという意味で擬人的な作品だと言えます。深く呼吸をすること、それは生命のエネルギーです。犬の鼻の部分を見ると、私たちのへそや、へその緒にそっくりです。また、この犬は腸のようにも見える。まさに、この美しい瞬間を祝福しているんです。粘土という素材もまた、生命力にあふれている。窯の中で膨らんだり縮んだりしますからね。

ーーミッシェルさん、《バルーン・ドッグ》はあなたにとってどんな意味を持っていますか?

ベルナルド:当社は家族経営の会社です。私は5代目で、ジェフとの仕事を通して多くのことを学んだ息子と甥が6代目の世代になります。このような象徴的な作品に関われたことは、私にとって大きな誇り。家業とは世代ごとに1つ2つと階層を重ねていく建築物に似ています。このコラボレーションを通じて、私は会社に新たな階層を加えました。《バルーン・ドッグ》は私たちにとって極めて大きな成果なのです。

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年11月15日に掲載されました。元記事はこちら

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