MoMA初の黒人キュレーターでアーティストのハワルデナ・ピンデルがホワイトキューブと所属契約
ヨーロッパ、アジア、アメリカに拠点を置く大手ギャラリー、ホワイトキューブが、80代の黒人女性アーティストでキュレーターのハワルデナ・ピンデルを所属作家に迎えた。同ギャラリーはまず、6月のアート・バーゼルにピンデルの新作《Tesseract #16(超立方体 #16)》(2024)を出展する。
ホワイトキューブは今回の契約により、ガース・グリーナン・ギャラリーと共同でピンデルの作品を取り扱うことになった。ピンデルが長年所属してきたガース・グリーナンがアメリカ地域を、ヨーロッパとアジアをホワイトキューブが担当し、今年11月にはニューヨークのグリーナンズと香港のホワイトキューブが同時期にピンデルの個展を予定。ピンデルにとって、アジアでの個展はこれが初となる。なお、2018年からピンデルを取り扱ってきたヴィクトリア・ミロとの契約は終了した。
あらたな所属契約について、ピンデルはUS版ARTnewsのメール取材にこう答えている。
「ホワイトキューブに所属することになってとてもうれしいですし、11月20日から1月4日まで香港で開催される個展を楽しみにしています」
1967年にイェール大学で美術学修士号を取得し、1971年にジョージア州スペルマン大学のロックフェラー・メモリアル・ギャラリーで初個展を開いたピンデルは、50年あまりにわたり絵画、ビデオ、コラージュ、ドローイングなど幅広い手法で数多くの作品を制作。代表作としてよく知られているのは、さまざまな色の紙を穴開けパンチで円形に切り取り、木枠に張っていないカンバス地に貼り付けた抽象的な作品だ。
1980年のビデオ作品《Free, White, and 21(自由で、白人で、21歳)》(*1)も、ピンデルのキャリアで重要な位置を占めている。映像の中で彼女は、自分が経験した人種差別の体験を一つひとつ語る。それに対し、時折登場する白人女性(ブロンドのかつらを着け、顔を白くメイクアップしたピンデルが演じている)は、それを被害妄想だと決めつけ、ピンデルの言うことをまったく取り合わない。
*1 元は19世紀前半に選挙権を持つ条件を示したものとされる(それまでは土地所有などの条件があった)。その後さまざまな文脈で使われるようになったが、ここでは白人優位を示唆している。
ピンデルはまた、1960年代から70年代にかけての12年間、ニューヨーク近代美術館(MoMA)初の黒人キュレーターを務めた。さらには、女性とノンバイナリーのアーティストが運営する非営利のアートスペースとして大きな影響力を持つA.I.R.ギャラリーを共同で創設するなど、活動は多岐にわたる。そのことについて彼女は、2018年のUS版ARTnewsの記事で、「経歴書は100ページを超えてしまいましたが、さらに追加しないといけません」と冗談めかして話していた。
半世紀にわたり数々の重要作品を発表してきたピンデルだが、アート界のメインストリームが彼女を認めるようになったのはつい最近のことだ。2018年にシカゴ現代美術館とヴァージニア美術館の共催で初回顧展が開催されたのを皮切りに、このところ、ニューヨークのザ・シェッド(2020年)、ヒューストン美術館(2021年)など、大手美術館での個展が続いている。
また、グループ展への参加も枚挙にいとまがない。たとえば、MoMAの「Just Above Midtown: Changing Spaces(ジャスト・アバブ・ミッドタウン:変化が生まれる場所)(2022年)やポンピドゥー・センターの「Elles font l'abstraction (抽象画を描いた女性たち)」(2021年)、ニューミュージアムの「Grief and Grievance: Art and Mourning in America(悲しみと怒り:アメリカにおけるアートと哀悼)」(2021年)、ロサンゼルス現代美術館の「With Pleasure: Pattern and Decoration in American Art, 1972–1985(喜びとともに:アメリカ美術におけるパターン・アンド・デコレーション 1972–1985)」(2019年)、サンパウロ美術館の「Histórias Afro-Atlânticas(アフリカと大西洋の歴史)」(2018年)、テート・モダンの「Soul of a Nation:Art in the Age of Black Power, 1963-1983(ソウル・オブ・ア・ネイション:ブラックパワー時代のアート 1963-1983)」(2017年)、ブルックリン美術館の「We Wanted a Revolution: Black Radical Women, 1965-85(私たちは革命を望んだ:黒人急進派の女性たち 1965-85年)」(2017年)など。
ホワイトキューブのグローバル・アーティスティック・ディレクターを務めるスーザン・メイは、US版ARTnewsに寄せたメールでこう抱負を述べた。
「先鋭的で先駆的な活動に取り組み、アーティストとして、そしてキュレーターとして大きな功績を上げてきたハワルデナと仕事ができることを光栄に思います。ヨーロッパとアジアで彼女の作品を展示し、これらの地域での認知をさらに広げていくのが楽しみです」(翻訳:清水玲奈)
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