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  • 2024.07.17

イギリスの意地! 約4億円をかき集めたV&A、米メトロポリタン美術館からキリスト像を奪還

ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)が、必死の金策で同館が長らく展示してきた12世紀の彫刻の奪還に成功した。この彫刻は昨年、200万ポンド(約4億円)で米メトロポリタン美術館への売却が決まっていた。

ヴィクトリア&アルバート博物館のパーマネント・コレクションとなった《The Deposition from the Cross(キリストの降架)》。Photo: Courtesy of The Victoria & Albert Museum

およそ1190年から1200年にイングランド北部の都市ヨークで制作されたとされる彫刻《The Deposition from the Cross(キリストの降架)》は、セイウチの牙に、アリマタヤのヨセフによってイエス・キリストの遺体が十字架から降ろされる様子が細密に彫られている。この作品は、イエス・キリストの最期の7場面を描いた巨大な組作品の一部であると考えられている。他の部分は16世紀のイギリス宗教改革で破壊されたと推定されるが、断片が個人のコレクションとして残っている可能性はある。同作についてヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)はプレスリリースで、 「現存するイギリス・ロマネスクの象牙彫刻の中で最も素晴らしく、最も重要な作例のひとつ 」と評している。

《キリストの降架》は、ロンドンを拠点とする古美術コレクターでディーラーのジョン&ガートルード・ハント夫妻が20世紀半ばに購入した。夫妻は1982年からV&Aに貸与していたが、2023年、夫妻の相続人がサザビーズの個人取引でニューヨークのメトロポリタン美術館に、イギリスから輸出可能であることを条件に200万ポンド(約4億円)で売却した

V&Aは作品を取り戻すため輸出許可を2度にわたり延長。金策に奔走し、ナショナル・ヘリテージ記念基金から70万ポンド(約1億4000万円)、アート・ファンドから35万ポンド(約7000万円)の助成金を得て、残りの約2億円は国民からの寄付によって資金調達に成功した。

こうして《キリストの降架》は、晴れてV&Aのパーマネント・コレクションに加えられ、2024年後半には同館の中世とルネサンスのギャラリーで一般公開される予定だ。

V&Aディレクターのトリストラム・ハントは、感謝と喜びをこう語った。

「V&Aがこのイギリス美術の本質的なオブジェを国民のために保存できたことに感激しています。この小さく崇高な彫刻には、キリスト教文化や、ロマネスク様式のデザイン、中世の職人技といった、今では失われた物語が詰まっています。この素晴らしい作品をナショナル・コレクションとして確保するために、惜しみない寄付をくださった皆様に心から感謝いたします」(翻訳:編集部)

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