日本のアートフェアに大型作品を──「ART OSAKA 2024」Expandedセクションの試み

大阪を舞台にしたアートフェアART OSAKA」が開催中だ(7月21日まで)。同フェアは大阪の中之島で45軒のギャラリーが参加する「Galleriesセクション」と、北加賀屋の「Expandedセクション」で構成される。中でも大きな特色があると言えるのが、大型作品に特化したExpandedセクションだ。

ExpandedセクションMORI YU GALLERYの展示風景。Photo by Yuico Taiya

地元ギャラリストによるフェアだからこそ生まれるユニークなアイデア

ART OSAKA」は、2002年に誕生した、日本で最も歴史のあるアートフェアだ。主催は一般社団法人日本現代美術振興協会。同協会は地元のギャラリストが中心となって結成された組織であり、緊密な距離感だからこそ生まれる「アイデア」と「風通しの良さ」で独自の発展を遂げてきた。「Expandedセクション」はその一例だ。「海外のフェアでは主流である大型作品が日本のフェアには少ない」という現場を見てきたギャラリストならではの意見をきっかけに2022年に初めて開催され、今年で3回目を数える。同フェアの理事である松尾良一は「アーティストに大型作品展示の機会を与えることでポテンシャルを引き出せる。企業のコレクションや美術館に所蔵されることを狙いたい」とその目的を話す。

Expandedセクションを開催するにあたり、広大な会場を用意する必要があった。だがそれは、同フェアに特別協賛する千島土地が解決した。不動産を扱う千島土地は、大阪市・北加賀屋の土地の約1/3を所有している。同地はかつて造船業で栄え、様々な工場が建ち並ぶ場所。だが近年造船業は衰退し、千島土地は使われなくなった工場や倉庫を2004年からアートをキーワードに再活用してきた。今では同地区に50カ所ものアーティストやクリエイター等が活動する拠点が生まれている。Expandedセクションのメイン会場となるクリエイティブセンター大阪は、そんな活用の一環で、1932年から79年まで名村造船所大阪工場として使われてきた巨大な建物を展示会場として生まれ変わらせたものだ。

旧造船所跡を丸ごと使った迫力ある展示

西山美なコ《♡あこがれのシンデレラステージ♡》(1996年)Photo by Yuico Taiya

4階建ての建物には18ギャラリーが出展している。1階のミラーボールが輝くフロアには、Yoshimi Artsが1980 年代後半から少女文化にインスパイアを受けた作品を制作する西山美なコの《♡あこがれのシンデレラステージ♡》(1996年)を展示した。これは、少女雑誌の付録に付いてくる舞台のペーパートイを幅6メートルに拡大したものだ。「作品の後ろも見てほしい」と西山。後ろに回り込むと、何も描かれておらず、この舞台は段ボールのはりぼてな事に気が付く。「表と裏がある世界や、表層の薄っぺらさを表現したかった」と西山は語る。

森公一+真下武久《呼吸する庭》(2024)

続いて2階の暗幕で仕切られた部屋には、ガラスの器に入れられた植物が配置された空間が広がっていた。これは、The Third Gallery Ayaによる森公一+真下武久の《呼吸する庭》(2024)。器の1つひとつには二酸化炭素を感知するセンサーが付いており、植物が光合成して二酸化炭素を排出すると、音が鳴る。それぞれ弦楽器、シンセサイザーなど担当が決まっており、時折「合奏」する。それだけではない。場内に設置された椅子に鑑賞者が腰かけると、センサーが鑑賞者の呼吸の動きを感知し、連動してコーラスが響く。「瞬間的に壮大な合奏が響く時がある。これは誰もが意図していない奇跡的な瞬間なのです」と森は話す。

西野康造《宙に架かる 2020》(2020)Photo by Yuico Taiya

造船所時代はドラフティングルーム(製図室)として使用されていた最上階は、当時床に紙を敷いて船の原寸図を引いていため、照明が低い位置に設置された無柱の大空間となっている。ここを丸ごと使って、アートコートギャラリーが西野康造の《宙に架かる 2020》(2020)を展開した。西野は「成層圏」を題材に、チタンとチタン合金の細い針金を手作業で繋き合わせ、直径7メートルの円形の作品を作り上げた。床には造船所当時の図面を引いた跡が残っていて、途方も無い作業工程や職人達の技を思い起こさせる。西野の手仕事は、かつて自らの仕事に心血を注ぎ日本の経済を支えた彼らへのリスペクトでもある。

旧家具店跡ではハンブルク友好都市35周年記念展も

ケビン・リーの作品。

「Expandedセクション」は、今年から規模を拡大し、クリエイティブセンター大阪から徒歩5分ほどの場所にある、かつては家具店兼倉庫として使用された建物「kagoo」でも開催。今回同セクションに参加した23ギャラリーのうち、5ギャラリーがこちらに出展している。中でもGALLERY HAYASHI + ART BRIDGEによる、香港生まれで現在は東京造形大学で学ぶケビン・リーの展示が印象深かった。彼は1997年の香港返還を目の当たりにし、自らのアイデンティティにまつわる作品を作り続けている。展示の中に、97年に行われた香港返還の式典の際に、イギリス国旗が降ろされて中国国旗が掲揚される場面を繰り返す映像作品があった。彼曰く、その間の120秒は「香港がどこの国にも属さなかった時間」なのだという。

マリエラ・モスラー《ROMANTIC CURTAIN》(2022)

「kagoo」では、大阪とドイツ・ハンブルクが友好都市を結んで35周年になるのを記念した展覧会「すべては水であらわれる」も開催されていた。ハンブルクで20年以上に渡りギャラリーを営んできたMikiko Sato Galleryが選んだ3人の作家、マリエラ・モスラー、オリバー・ロス、ジョセフィーン・ベットガーを紹介している。会場を横断するようにマリエラ・モスラーの《ROMANTIC CURTAIN》(2022)が展示されていた。作品名で分かる通り、カーテンなのだが、そこにはドイツ語が記されている。それは、モスラーが25年に渡って道端に落とされている手紙やメモを収集してきた中から選んだ、愛にまつわる言葉たちだ。壁に掛けられた翻訳を読んでみると「(あまりに)短かったとしても、素敵な時間だったよ」、「信じてくれ、僕は変わった。君を失いたくないんだ」などと書かれていた。「これらは個人的な言葉でありながら、実は驚くほどに普遍性を持っているんです」とモスラーは語る。

シェアスタジオでの公開制作や新ショップのプレオープンも

SMASELL SUSTAINABLE COMMUNEの店内。

同フェアの楽しみは作品鑑賞だけではない。開催期間中は、北加賀屋地区にあるアート施設が開放される。千島土地が運営する若手作家支援のシェアアトリエ「Super Studio Kitakagaya (SSK)」では、ハンブルクでの展覧会を控えた大﨑のぶゆきが公開制作を行うほか、鉄工所跡地の廃工場をリノベーションし、アップサイクルの雑貨やアート作品などを展示販売する「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のプレオープンなどが行われている。

ART OSAKA 2024
日程:「Expandedセクション」7月18日(木)~ 22日(月)/「Galleriesセクション」7月19日(金)~ 21日(日)
会場:クリエイティブセンター大阪(大阪府大阪市住之江区北加賀屋4-1-55)、kagoo(大阪市住之江区北加賀屋5-4-19)/大阪市中央公会堂3F(大阪市北区中之島1-1-27)

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