超富裕層が別荘を構える高級スキーリゾート、アスペン・アートウィークの魅力を大解剖!

セレブの冬の社交場として知られる高級スキーリゾート、コロラド州アスペン。近年は多拠点生活や定住の地にこの街を選ぶ超富裕層の新たな流入が見られるという。そのアスペンに、アメリカ国内外からアートコレクターを集める豪華な夏のイベントを紹介しよう。

コロラド州アスペンにあるスキー場のリフト。Photo: Getty Photos

各界の有名人が集まるチャリティオークション

毎夏恒例のアスペン・アートウィークは、アートフェアからディナーやパーティー、ギャラリーのオープニングまで、多彩なイベントが目白押し。今年は7月30日から8月3日まで開催され、クライマックスとなる8月2日のアートクラッシュ・ガラ(ArtCrush Gala)では、ディナーやダンスパーティに加えてチャリティオークションが行われる。アート界で最も権威あるイベントの1つとされるこのガラは、アスペン美術館資金調達の場でもあり、昨年は約380万ドル(直近の為替レートで約5億8000万円、以下同)の実績を上げている。

昨年に続き、アートクラッシュ・コレクター委員会の共同委員長を務めるのは、アビゲイル・グッドマンとモリー・エプスタイン。アートアドバイザーでインディペンデントキュレーターでもあるエプスタインは、イベントの意義をUS版ARTnewsにこう語った。

「アスペン美術館が主催するアスペン・アートウィークは、夏のアート界きっての一大イベント。この時期は、ロッキー山脈に近い地域のコレクターコミュニティが大いに活気づきます。毎年夏に数多くのアーティストやキュレーター、ギャラリーがコロラド州に集結するのは、アスペン美術館の資金調達を支援するためだけではありません。アート界の大半が夏休みに入る時期に行われる現代アートの祭典を楽しむためでもあるのです」

今年のガラで特筆すべきなのは、オークションの出品作品による収益の最大30%までをアーティストが得られるプログラムの導入だ。この利益分配プログラムの発表にあたり、アスペン美術館のディレクター、ニコラ・リースはUS版ARTnewsに寄せた声明で次のように述べている。

「アスペン美術館は、1979年に3人のアーティストによって設立されました。以来、アーティストは美術館の活動全ての中心であり、彼らからの信頼が私たちのミッション遂行を支えているのです」

8月2日のオークションには50点以上の作品が出品され、クリスティーズのプライベート・セールス部門グローバルヘッドで印象派・近代アート部門の共同チェアマン、エイドリアン・マイヤーがオークショニアを務める。オークションに作品を寄付するアーティストには、ジョナサン・リンドン・チェイス、アリソン・カッツ、エマ・マッキンタイア、中村翔太、マリーナ・ペレス・シマンが名を連ねている。

ガラの実行委員の面々は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)新理事長のサラ・アリソンとそのパートナーであるトーマス・ウィルヘルム、スーツケースメーカーのアウェイ社共同設立者兼CEOのジェン・ルビオと夫のスチュワート・バターフィールド(写真共有サイトのFlickerやコミュニケーションアプリSlackの共同設立者)、バイデン大統領の芸術・人文科学委員会の委員で大富豪ポーラッド家の一員でもあるチャーリー・ポーラッド、トム・フォード時代のグッチでCEOを務めたドメニコ・デ・ソーレなど。この顔ぶれからすると、大物有名人、社交界の名士や要人がガラに数多く参加するのは間違いないだろう。

アート関係者がアスペンを目指す理由

アートウィークの期間には、牧歌的だったりゴージャスだったり、さらには高尚なものまで多種多様なイベントが催される。彫刻インスタレーション作家のレナ・ヘンケが参加する招待制のハイキングがあると思えば、アスペン山頂でのライアン・トレカーティンによるパフォーマンスもあり、ジャクリーン・ハンフリーズとハムザ・ウォーカー、アリソン・カッツとジェームズ・マイヤー、坂茂(アスペン美術館の設計者)とハンス・ウルリッヒ・オブリストによる豪華な対談も予定されている。

この2年で、アスペンはコロナ禍前とほぼ同じ状態を取り戻している。有名なスキーリゾートであるこの街は以前からコレクターやアートパトロンたちを惹きつけてきたが、コロナ禍がさらなる市場拡大を後押しした形だ。世界各地でリアルのアートフェアが中止され、オンラインビューイングにも飽きたコレクターたちを満足させるため、ギャラリーはニューヨークのハンプトンやフロリダのパームビーチといった富裕層向けリゾート地で、長期的なポップアップストアを設ける動きを加速させた。これを受け、2021年にはレヴィ・ゴルヴィとリーマン・モーピンがアスペンにギャラリーをオープン。アルミン・レッシュ、ホワイトキューブ、マリン・ギャラリーがそれに続いた。

アスペンのボールドウィン・ギャラリーの共同設立者であるリチャード・エドワーズはUS版ARTnewsの取材にこう答えている。

「アスペンが重要視されるのは、そこにコレクターがいるからです。世界中から裕福なコレクターが集まる場所ですから、寄付してくれそうな人に会おうと美術館関係者がやってきます。ギャラリーやアーティストがそれに追随するのは自然な流れでしょう」

しかし、コロナ禍の数年前から市場としてのアスペンの可能性を見抜いていた人物もいる。その1人、マリアンヌ・ボースキーは、2017年に通年営業の本格的なギャラリーをオープンした。子どもの頃からよくアスペンを訪れていたというボースキーはこう語る。

「コロナ禍ではみんなが大きな変化に見舞われました。誰もが休業せざるを得なくなり、全てが宙ぶらりんになったのです」

ボースキーによれば、コロナ禍で起きたギャラリーの設立ブームは沈静化したが、それはアート市場の関心が薄れたからではないという。大きな理由の1つは、パームビーチやアスペンのような有名リゾート地の不動産オーナーが、ピークシーズンの賃貸料を通年で要求するようになったことにある。そうなると、多くのギャラリーにとってアスペン進出は採算に合わなくなるというわけだ。

ボースキー自身、コロナ後の不動産ブームに沸いていた2021年にアナベル・セルドルフ設計の建物を600万ドル強(約9億2000万円)で売却したが、その物件は半年後に1000万ドル(約15億4000万円)を超える価格で売れたという。しかし、ボースキーはアスペンを離れたわけではなく、夏期にポップアップのギャラリーをオープン。今年は、サンフォード・ビガーズ、スヴェンヤ・ダイニンガー、そして今やデジタルアート界の寵児となったサラ・メイヨハスの幾何学的抽象画を展示する。

ニューオーリンズを拠点とするギャラリー、M.S.ラウもアスペンでポップアップを開き、この夏はアンティークやジュエリーのほか、ルノワールゴーギャンウォーホルジョージ・コンドなどのファインアート作品を揃える。目玉は、今年3月のTEFAFマーストリヒトに登場したドガのパステル作品《ウクライナの踊り子たち》で、2000万ドル(約31億円)の値が付けられている。

今年は2つのアートフェアを同時開催

アスペン・アートウィーク中は、ギャラリーのポップアップや美術館関連催事のほかにも注目イベントが引きも切らない。たとえば、今回のアートウィークでは、アスペンで初めて2つのアートフェアが同時期に開かれる。1つは、2010年にアスペンで生まれ、当初はアート・アスペンという名称だったアートフェア「インターセクト・アスペン」で、今年もアスペン・アイス・ガーデン(面積は約1500平方メートル)で開催される。

参加ギャラリーは、アスペン・コレクティブ、ヒルトン・コンテンポラリー、HOFA、ジャクソン・ファイン・アート、ウィンストン・ヴェヒター・ファインアートなど30軒。海外からのエントリーも多く、テルアビブのコリドー・コンテンポラリーを含む12ギャラリーが初参加する。

インターセクト・アスペンの入り口で来場者を出迎えるのは、彫刻家のジーノ・マイルズが手がけた274 × 244 × 457cmの巨大なステンレススチール彫刻《Passage(パッセージ)》。この作品は、フロリダ州のスポンダー・ギャラリーが70万ドル(約1億1000万円)で出品している。

シカゴを拠点とするギャラリー、ヒルトン・コンテンポラリーがアスペンに持ち込んだのは、ニューメディア・アートのデュオ、アウチー(Ouchhh)の作品だ。同ギャラリーは今年のアート・ドバイで、アウチーが欧州原子核研究機構(CERN)と共同制作した《Human Cell Atlas Project(ヒト細胞アトラス計画)》の物理バージョンを展示。デジタルバージョンのほうは今年2月に、スペースXのファルコン9ロケットに搭載された無人月着陸船「ノバC」(愛称オデュッセウス)で月へと向かった、ノバCが1972年のアポロ17号以来となる月面着陸を無事成功させたことで、この作品は初めて月に到達したAIアートの称号を得ている。

ヒルトン・コンテンポラリーは、「ヒト細胞計画」から派生した一点ものの作品を2つ、それぞれ25万ドル(約3800万円)で出展。どちらにも作品の真正性を保護し、ブロックチェーン上の所有権と出所の完全性を保証する独自のDPP(デジタル・プロダクト・パスポート)が付属している。

一方、老舗高級ホテル、ジェロームで開催されるもう1つのフェア、「アスペン・アートフェア」は今年初開催。関係者の説明によると、ホテル・ジェロームのバーでは歴史的にコレクターとの商談が行われてきたので、これほどフェア会場にふさわしい場所はないという。一般化した大規模フェアよりも、こじんまりした寛げる環境を望むコレクターやディーラーが目立つようになっている今、歴史あるホテルを会場とした新しいフェアは時宜にかなっていると言えるだろう。

アスペン・アートフェア共同設立者のベッカ・ホフマンは、ニューヨークのアウトサイダー・アートフェアやインターセクト・アスペンのディレクター経験者で、現在は74thアートというイベント団体を運営している。そのホフマンははこう言って胸を張った。

「ホテル・ジェロームの1階フロアをほぼ全部使って行われるこのフェアは、アート、デザイン、ライフスタイル、ラグジュアリー、そしてホスピタリティを網羅するものです」

ジェロームの1階にある16の客室のうち、3部屋はアーティストのレジデンスとして使われ、残りは展示室となっている。また、18の通常スタイルのブースが設けられ、パトロン、マイルズ・マケナリー、ペロタンといったギャラリーが参加。ギャルリー・グムジンスカでは、ヴィフレド・ラムの《Je dors, je vois(私は眠る、私は見る)》(1969)を15万ドル(約2300万円)、ロベルト・マッタの1963年の作品を約25万ドル(約3800万円)、さらに約300万ドル(約4億6000万円)のピカソ作品を出展している。

人口が1万にも満たないアスペンのような街で新しいフェアを設立しようという試みには、反感があったと思うかもしれない。しかし、US版ARTnewsが居住者十数人に話を聞いたところ、街の人々が芸術や美的なもの、そして美術館を尊重し、大切にしているからこそアスペンは特別なのだという考え方が広く浸透しているようだった。

インターセクト・アート・アンド・デザインのチーフ・エグゼクティブ、ティム・フォン・ガルは、新しいフェアの展望をこう語った。

「フェアの開催には、時間、労力、エネルギー、そして愛情を惜しみなく注ぐことが必要で、すばらしいフェアを実現するには全神経を集中させなければなりません。少しナイーブな考え方かもしれませんが、最高なフェアにすることを目標として準備に最善を尽くせば、あとは何も心配することはないと思っています」

最後に、地元の人のおすすめを1つお伝えしておこう。それは、カールズ薬局(Carl's Pharmacy)に立ち寄って、9.99ドルから買える酸素ボンベか、薬草を原料とした高山病予防薬を手に入れること(アスペンの標高は2400メートル強)。どちらか一方、あるいは両方の力を借りれば、誰もが極力避けたいと願う高山病の症状緩和に役立つだろう。(翻訳:清水玲奈)

US版ARTnews編集部注:本記事の内容は、最新のアート市場動向やその周辺情報をお届けするUS版ARTnewsのニュースレター、「On Balance」(毎週水曜配信)から転載したもの。登録はこちらから。

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