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J・ポール・ゲティ美術館の運営団体、7100万ドルの巨額損失で金融企業を提訴

ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館を運営する非営利団体のゲティ財団が、保険・金融サービス企業、アリアンツ・グローバル・インベスターズを提訴した。同社の杜撰な運用で、ゲティ財団の基金が多額の損失を被ったと申し立てている。

2020年12月15日に空撮されたゲティ・センター 写真:AP/アフロ
2020年12月15日に空撮されたゲティ・センター 写真:AP/アフロ

92億ドルの基金を管理するゲティ財団が、3月3日にニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提出した文書によると、ドイツを本拠とするアリアンツSEのニューヨークにおける子会社が、投資資金を安全に運用するための要となる仕組みを説明なく変更したという。その結果、財団の運用資産は重大なリスクにさらされることになり、多額の「悲惨的な」損失につながったとしている。

ゲティ財団は2016年に、アリアンツの「ストラクチャード・アルファ・ファンド」に6000万ドルを投資。相場急落時の防御策としても機能するよう設計されたファンドだと同社が宣伝していたものだ。またゲティ財団側はこの種の投資は長期的なリターンが期待できるものだと主張している。同ファンドへの財団の投資額は、2016年末には7300万ドルまで増加。そして2020年初め、財団がファンドに投資していた資産の97%にあたる7100万ドルが「数週間のうちに」失われたという。

ゲティ財団側は、アリアンツが2019年から2020年にかけてファンドのヘッジ戦略の要となる部分に変更を加えたと主張。訴えによると、同社は2019年4月に、相場急落で巨額の損失が出るリスクを軽減するために当初設定されていた保護策の一部を取り払ったとされている。さらに「市場が動揺する中でさらに高リスクの戦略に資金を投じ、投資家の資産を守るよりリターン追求を優先した」という。ゲティ財団はこうした変更について何の通知もなかったとしている。

アリアンツは、破綻したストラクチャード・アルファ・ファンドに投資していた米国の大口顧客に、合計で42億ドルの和解金を支払う見込みだ。ブルークロス・アンド・ブルーシールド(非営利医療保険組織)やニューヨーク州都市交通局(MTA)などからは、推定600万ユーロ(650万ドル)の賠償を求める訴訟が起こされている。

訴訟では、アリアンツが事前に宣伝していた戦略を違法に変更し、その結果2020年のコロナ禍初期の相場下落でファンドの価値が暴落したとされている。アリアンツは、米司法省と証券取引委員会による調査が進行中だとしている。投資家からの提訴が相次いだ昨年8月、アリアンツのオリバー・ベートCEOは、「ファンド運用ですべてが完璧だったわけではない 」と発言した。

ARTnewsは、ゲティ財団による提訴についてアリアンツの担当者にコメントを求めたが回答は得られていない。一方、ゲティ財団の広報担当者はARTnewsの取材に対し、「他にも多くの投資家が、アリアンツのストラクチャード・アルファ・ファンドで多額の損失を被った」と述べ、財団は「この損失を回収するために」訴訟を起こしたと付け加えた。

美術館の基金を拡大するための長期的な財務戦略にどのような影響があるかについては、財団はコメントを避けた。2012年に総額53億ドルだった基金は、以後10年間で大きく成長している。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月7日に掲載されました。元記事はこちら

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