「NFT取引85%は上位1割のトレーダーが占める」最新の研究結果が示す
誰もが気になっているNFT(非代替性トークン)マーケットだが、実際にどう機能しているのか、誰が利益を得ているのかなどの詳細は、いまだにはっきりしない。そうしたなか、アラン・チューリング研究所の資金提供を受けた研究チームが、NFTマーケットを分析した初の論文の一つを2021年10月に公開した。
「Mapping the NFT revolution: market trends, trade networks, and visual features(NFT革命のマッピング:市場トレンド、取引ネットワーク、視覚的特徴)」と題され、マシュー・ナディーニらがネイチャー誌で発表したこの論文には、いくつかの驚くべき研究結果が記されている。
NFTはアートの民主化につながると喧(けん)伝されてきた。だが、同論文によると売り上げの大半は一部の購入者によるもので、NFT1点で15ドル以上稼げるアーティストはほとんどいないという。
アラン・チューリング研究所の研究プログラム、トークン・エコノミー(Token Economy)を率い、今回の調査にも参加しているアンドレア・バロンチェリは、NFTマーケットに研究対象としての興味を持つようになったきっかけは、ビープル(Beeple、本名:マイク・ウィンケルマン)の作品《Everydays: The First 5000 Days(エブリデイズ:最初の5000日)》(2021)が、クリスティーズで高額落札されたことだったと話す。
「それまで私たちは、暗号通貨の価格予測や、開発者のネットワークとその協力関係がマーケットに与える影響など、ブロックチェーンのシステムについて研究していました。それがビープル作品の高額落札で、NFTマーケットに注目するようになったのです」
バロンチェリは、自身も所属するロンドン大学シティ校をはじめ、デンマーク工科大学、IBM基礎研究所、コペンハーゲンIT大学の研究者とともに、410万点のNFTについて、2017年から2021年4月下旬までに行われた610万件分の取引(購入、売却、譲渡)を分析している。
NFTに関してメディアがしきりに報じるのは、100万ドル級の取引や記録的な高値などの話題だ。だが研究チームによると、NFTの75%は平均販売価格が15ドルで、1500ドル以上の価格に達したNFTは全体のたった1%だという。さらに、取引の85%が、わずか10%のトレーダーによって行われていることも明らかになった。
研究チームの分析は、アート、コレクターズアイテム、ゲーム、メタバース、ユーティリティなど、全てのNFTカテゴリーを対象としている。興味深いことに、大きな注目を集めるNFTアートの取引件数はマーケット全体の10%に過ぎず、コレクターズアイテムとゲームの合計が80%以上を占めている。また、NFTアートの売上高は増えているものの、取引件数は減少していることが確認された。これは、NFTアートの価格が上昇したため、取引する人が減っていることを意味する。
この分析結果についてバロンチェリは、NFTのコミュニティで一般に考えられていることとは正反対だと指摘する。「中間業者が排除され、ゲートキーパーによる選別が過去のものになり、アーティストが作品を直接買い手に届けられるようになった。これで自由が訪れた、という見方です」
バロンチェリは続ける。「その代わり、私たちが観察したところでは、新しい形のゲートキーパーが出現しています。マーケットがあらかじめ特定のアーティストたちを選別してキュレーションし、作品価格を吊り上げているのです」
とはいえ、研究に使われたデータの多くは2021年のNFTブーム以前のもので、2021年のデータは第1四半期に限定されている。4月以降にもいろいろなことが起きており、状況が変わっている可能性もある。だがバロンチェリはそう考えてはいない。
「おそらく取引が一部の人に集中している状況は続くはずです。それだけでなく、既存のアートマーケットと同様の構造がここでも出現しているようです。大衆が勝利者になることはないでしょう。従来のような成功の構造がここでも再生産されるものと予想されます」(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年12月2日に掲載されました。元記事はこちら。