ARTnewsJAPAN

Netflix共同創業者が赤字スキーリゾートをアートで立て直し? リゾート経営の新たな一手に

Netflixの共同創業者がユタ州のスキーリゾートを買収し、再活性化を進めている。その新たな一手として、光と空間の芸術家ジェームズ・タレルをはじめとした著名アーティストに作品制作を依頼。アートパークを創設してリゾート経営に活用する計画だ。

156ものスキーコースがあるパウダーマウンテンの新しいパビリオンで展示予定のジェームズ・タレル作品《Ganzfield Apani》(2011)。Photo: Courtesy Powder Mountain

2023年にユタ州のパウダーマウンテン・スキーリゾートを買収したNetflix共同創業者で現在は会長を務めるリード・ヘイスティングスが、大型彫刻やランドアートの楽しめるパブリックアートパークを同地で開発中であることを発表した。

パウダーマウンテンは、156のスキーコースと数多くのハイキングやサイクリングコースを擁するアメリカ最大級のスキーリゾートとして知られる。赤字を抱えるこのリゾートを1億ドル(直近の為替レートで約146億円、以下同)で買収したヘイスティングスは、まず約810ヘクタールの会員制プライベートゲレンデを設置。会員資格が得られるのは近隣に家を所有する人に限られ、年会費は3万〜10万ドル(約438万円〜1460万円)とされた。

ヘイスティングスは、プライベートゲレンデの収益で一般客が利用できるパブリックゲレンデを運営するという手法を取っている。それに加え、リゾート経営の新たな一手として発表されたのがアートパークの開発だ。

2026年オープン予定のアートパークのために作品制作を依頼されたのは、ジェームズ・タレル、ナンシー・ホルト、ジェニー・ホルツァーポール・マッカーシーといった錚々たるアーティスト。また、タレルが2011年のヴェネチア・ビエンナーレのために制作した《Ganzfeld Apani(ガンツフェルト・アパニ)》(2011)も、リゾート内に設置されるパビリオンで展示される。これは光を用いた没入型インスタレーションで、視覚的な擬似幻覚を起こすガンツフェルト効果を応用したもの。

ヘイスティングスはアートパーク発表時の声明でこう述べている。

「パウダーマウンテンは、スキーリゾートだけでなく、住民のコミュニティから野外美術館に至るまで、あらゆる体験を提供したいと考えています。リゾートのある山々とアートの融合はその一環です。私たちはここを、レクリエーション、アート、そしてコミュニティ全体を統合する有意義なつながりの場へと発展させ、1年を通して楽しめるデスティネーションに変身させることを目指しています」

アートパーク計画に携わっているのは、同リゾートの新しいアートプログラム・ディレクターであるマシュー・トンプソン、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのアレックス・チャン、インディペンデントキュレーターのダイアナ・ナウィ。ちなみに、ナウィはこの7月、ロサンゼルス・カウンティ美術館の現代美術キュレーターに任命された。

招聘作家の1人、ポール・マッカーシーはアメリカ西部の神話に根ざした没入型のインスタレーションを制作予定。ユタ州出身の彼は、同プロジェクトについてこう語っている。

「パウダーマウンテンに特別なものを作り上げる一員になれるのは、とても嬉しいことです。ユタ州で育った私にとって、この土地と山々から受けた影響は作品に欠かせない要素で、潜在的であれ顕在的であれ、私の意識の中にある核心的なテーマになっています」

一方、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのチャンは、参加したアーティストたちを「現代アートの最も画期的な作家」と評し、その作品は「起伏に富んだ山の地形に呼応するものになる」と語った。

ほかに作品制作を依頼されているのは、アーサー・ジャファ、EJ・ヒル、ニキータ・ゲイル、ガラ・ポラス=キム、ダヴィナ・セモ、レイヴン・ハーフムーンらで、今後もさらに多くの参加アーティストが発表される。(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

あわせて読みたい